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第二夜 ガチャ☆ガチャ!!(読みきり)

シリーズを予定していたものです。

経験値のポイントに応じてパンドラが持つ箱から出てくるガチャと、相馬のはったりとで異世界無双する話ですけど、何番煎じ? という感じですね。

「さて、これからどうしたものかな……」


 地球ではまずあり得ないだろう微妙に紫がかった空と、その向こうで輝く太陽と白い二つの月(、、、、)を見上げながら、俺(相馬(そうま)総司(そうじ)・十五歳)はそう呟いた。


 別に誰かに確認したわけでも、途方に暮れているわけでも――多少はあるけど――ない。

 事前に幾つかの選択肢は提示されているので、そのどれを選ぶべきか、考えをまとめるためのキーワードとして口に出しただけである。


「うむ、ソーマ。悩んでおるのなら籤で決めたらどうじゃ? サイコロでもアミダでも良いぞ」


 そんな俺の制服を引っ張りながら、パンドラがきらきらと期待に満ちた目で提案する。


「……ホント好きだなー、運試し。つーか、前の世界では『神はサイコロを振らない』って、とある女好きで色狂いで不倫しまくった、超有名な物理学者が言ってるんだけどなあ」

「そんなわけのわからん学者の妄言など知ったこっちゃないわい!」

「ごもっとも」


 一見して九~十歳くらいにしか見えない銀髪紫瞳の幼女神様が、憤然と手に持った四角い箱を振り回すのに合わせて、箱の中から『ガチャガチャ』と軽快な音が響いた。

 見た目は浦島太郎の玉手箱に継ぎ目をなくしてツルリとした材質にしたような箱で、さほど重くないのかパンドラが振り回すたびに、中でぎっしりと詰まったクッキーかカプセルトイでも動いているような軽快な音がする。まあ……事実当たらずとも遠からずだ。


「とりあえず、人里を探そう――と思う。川とか水場を中心に探せば見つかるかも知れないし、最悪でも飲み水さえあれば1週間や2週間はもつ、ってサバイバルの本に書いてあった筈……まあ、実際にそんな極限生活を送ったことがないんで真偽は定かじゃないけど」


 もっとも以前、自炊をはじめたばかりの時に「スパゲッティって一束で一人前って少なすぎだろ。四束くらいは楽勝だな」と甘く見て、結果山盛りのスパゲッティの食べ過ぎによる腸閉塞で入院した時には、一カ月点滴だけでの絶食をしても案外平気だったから、たぶんなんとかなるとは思う。


 その俺の絶食入院体験も含めた説明に顔色を変えるパンドラ。


「ちょっと待てぃ! わらわも水だけで何日も過ごさねばならぬのか!? ソーマ、お主それでもわらわの神官か! 崇めるべき神にひもじい思いをさせるつもりか!? きちんと貢物を供えようと思わんのか、をい!?!」


 思わん。つーか、こんな360度地平線が見えるような僻地に追いやらわれている時点で、神様としていろいろ終っているだろう。


供犠(くぎ)じゃ、供犠(くぎ)っ! さっさと食べられるものを見つけてわらわに捧げるのじゃ! 肉食しかせんお主の世界の偏食神と違って、わらわは肉でも野菜でも好き嫌いせずになんでも食べるぞ。美味ければな!」


 地団太を踏むパンドラ。いいかげん面倒になったのと、箱の音がガチャガチャ五月蠅いので、無視して適当に遠くに見える森を目指して先に進む。


「――あッ。こりゃ、待たんか!」


 慌てて追いかけてくるパンドラの足音――ではなくて、ガチャガチャの音がひときわ大きく鳴り響く。

 こんな騒々しい音をたてたら“魔物”とやらが集まってくるんじゃないのか? 大丈夫か? 問題なくないか?! 


 ま、最初に聞いた“天界”での説明が真っ赤な嘘で、実は目の前にいるのも神様の幼体とかでなく日本語の達者な外国人子役で、ここも実際は異世界じゃなくてどこか外国で、たちの悪いドッキリでした……というのなら別だけれど、さすがに今日日のテレビ局がここまで予算と手の込んだ悪戯を仕掛けることもないだろう。多分。

 

「せめて棒を倒して、そっちの方へ進まんのか? 無難な行動というのは面白みがないじゃろう。なあ、なあ。これッ、聞いておるのかソーマ!」


 勿論聞いていないが、これ以上わめかれるのとガチャガチャされるは鬱陶しいので、俺は無言のまま近づいてきたパンドラを抱え上げた。

 箱がパンドラの腹の上に据えられるように置いて、なるべく揺らさないように両手でパンドラを抱える。

 見た目通り……見た目以上に軽い。その気になれば片手でも持ち運びできるだろう。


「にょああああああああああっ! な、なにをするか、不埒者め! このような人気のない場所で、わらわに何をするつもり――はっ!? さてはわらわのこの豊満な肉体が目当てか、このエロ餓鬼の慮外者め!」


 目の前の大草原以上に、真っ平らな幼女神様がなにやら卑猥な勘違いをして妄言をほざいている。

 にしても、“天使”の説明では、確か人間年齢換算でほとんど生まれたの赤子みたいになっているって言ってたよな、こいつ。どこで覚えた、こんな下ネタ……? それともまだ覚えている(、、、、、、)のか?


「おい、こら聞いているのか、ソーマ!? わらわの言葉はいわば神託であるぞ! 無視するなどとんでもない不敬であるぞ!」


 憤然と捲くし立てるパンドラの言い分に、ちょっとだけ湧いた期待がいきなり消滅した。


 これが神託かい。

 だとしたらどんなカミサマだ、をい!?


 天使の話では、いまのところ未分化の神様(幼体)なので、当人(当神?)の行動や神官(俺)の信奉によって何を司ることになるか不明ってことだけど、なんか変な方向に突っ走っている気がする。

 選択間違えたかなァ。

 

 いまさらながら後悔しながら、俺はつらつらとここに来た経緯を思い出していた。


 

     ◆ ◇ ◆ ◇



 午前の授業は、宇宙人の襲来も、テロリストの学校占拠も、世界的なゾンビウイルスの蔓延もないまま、つつがなく終了して昼休みに入っていた。


 早々と昼食を食べ終えた奴、他の教室や部室で食べる奴、よくわからんけど休み時間になるとどこかへフケる奴など、三々五々とクラスメイトが散って、六割くらいになった教室の片隅に机を並べて、弁当ではなく、俺と同じ購買・コンビニ組の数人は、いつものように少ない小遣いをやり繰りするために、飲み物を別にして一人当たりデザート以外は300円と決めたルールのもと、お互いの戦利品を机の上に並べていた。


「んで、今日の賭け道具はなんにするの? ルーレット? 危機一髪? オーソドックスにジャンケンで決めるとか?」


 クラスメイトの川島(かわしま)麻友(まゆ)がうきうきとロッカーから小型のルーレットやカード、樽に入った人形(なぜか髭面のおっさんではなくて某銀河帝国の暗黒卿であった)なんかをとっかえひっかえ取り出して見せる。


 その視線は獲物を狙う肉食獣の目で、新発売のコンビニの『シャン・タミン・チン風おにぎり』と『ビリヤーニ風おにぎり』に注がれていた。

 ちなみに『シャン・タミン・チン』はミャンマーのナマズのすり身ご飯のおにぎりで、『ビリヤーニ』はインドのカレーを具にした炊き込みごはんのことで、どちらもひとつ税抜き180円もする高級品である。当然ひとりでは予算オーバーをしてしまうので、ふたりがそれぞれ1個だけ買って、残金で購買の安いパンや激安ストアのなんか味気ないおにぎりを買って充てた苦労の結晶。それを得意のじゃんけんで2個とも狙うとは、鬼かこのアマ!?


「ここは久しぶりにサイコロ(ダイス)で決めよう!」


 僕の提案に周りの面々もウンヌン頷いて同意する。

 チッと軽く舌打ちした川島に、「多数決で決まりだね」と宣言して、俺は鞄から白い紙コップとオーソドックスな六面ダイスを何個か取り出した。


「時代劇とかで見る丁半? それで決めるの?」


 人の良さで学級委員に選ばれた緑川(みどりかわ)瑞穂(みずほ)が小首を傾げた。どうやらサイコロ(ダイス)を使った博打と言えば『丁半』のみだと認識しているらしい。


 俺は掌の上でダイスを転がしながら、

「呼び名はイロイロあるけど、一般的にサイコロ1個を使うのを『キツネ』、2個が『丁半』、3個を『チンチロリン』って言うんだけど、丁半やチンチロリンになるとルールや出目が煩雑になるんで、今日はキツネで勝負を決めよう」


「「「おっけー!」」」


 緑川瑞穂、新発田(しばた)真奈美(まなみ)向坂(さきさか)杏子(きょうこ)、他の3人が満場一致で承諾をしたんだけれど、川島は不満そうにちょっとだけ頬を膨らませた。


「ふーん。まあサイコロでもいいけどさ、変な細工したないか、いちおう確認させて」


 言って俺の手元からサイコロを奪って、何回か手元で転がす。


「……別に仕掛けはないみたいね」

(ボク)がそんな(すぐにバレるようなイカサマをする)ことするわきゃないだろう」

「むう……なんか、その清清しい笑顔が逆に怪しいけど、まあいいわ」


 半信半疑という顔でサイコロを返してよこす川原。受け取った俺は、1個だけ紙コップに入れて振り回した。


「んじゃ、いつものように勝った者が好きなものを選べるルールで。俺から見て右回りに好きな番号を選ぶように」

「おーっ!」

「……(こくり)」

「頑張るっ」

「――殺してでも奪う」


 やる気になっている(一名『()る気になっている奴がいるけど)少女たちを見回しながら、俺は慣れた手つきでガチャガチャ回していた紙コップを机に被せる形で置く。


 和気藹々と談笑する俺たちを見ながら、クラスメイトの主に男子連中が、

「くそっ、今日も女をはべらせやがって」

「毎日毎日リア充見せ付けて、嫌味かあの野郎!」

「噂では中等部にファンクラブと親衛隊があるとか」

「さっきも四組の女どもが調理実習で作ったカップケーキ持ってきたし」

「おお、神はなぜこのような不平等をお許しになるのか!?」

「爆発しろっ!!」

 なにやら呪詛を吐きながら、荒んだ目つきで俺を睨み、或いはハラハラと落涙し、または弁当の鳥の唐揚げに爪楊枝をブスブスと刺して「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」と悪魔に魂を売ったりしていた。


 面倒臭い連中である。


 モテたいなら積極的に女子と関わればいいものを、男の僻みってのは見苦しいなあ……。

 だがしかし、今日のこの日に限っては、連中の祈りは神だか悪魔だか邪神だかに届いたらしい。


「6ッ!」「2です」「1かな」「じゃあ3で」

 思い思いの数字を並べる少女たちに続いて、俺も「よし、俺は4で行こう」そう言って紙コップを持ち上げた――。


 その瞬間、何の前触れもなく目の前で爆発と閃光がほとばしり、俺の意識は暗転したのだった。


 

     ◆ ◇ ◆ ◇


 数秒か、それとも数時間経っていたのか曖昧なまま、ぱっとスイッチをON/OFFにしたように、意識が切り替わって、はっと気が付くと、俺は真っ白い部屋の中にいた。

 学生服でサイコロを伏せた紙コップもそのままで。


「……なんぞ、これ?」


 床も天井も白く、照明に当たるものは見えないのに全方向から光が差し込んでいるような――その割りに全然まぶしくない――おかしな部屋で、その上2メートル間隔くらいでこれまた白いパーティションで区切られ、いくつもの小部屋が割り当てられているように見える。


 まるでテレビで見た就職面接会か、銀行の相談窓口のようなそこにいつの間にか腰掛けていたのだ。

 あと全体の広さはちょっと見当も付かない。

 少なくとも体育館よりももっと広いような気がするけど、なにか距離感が掴めないというか五感か遠近法が狂っている気がする。


 手がかりを求めてきょろきょろ周囲を見回せば、四方の薄いパーティション越しに、誰か――何か?――が、ブツブツ話している気配はすれど、耳を澄ませてみてもなぜか、

「縺ゅ>縺・∴縺?而耳自蒔・ゥハクサ嵂ス、ア・ム・ソ。シ・?」

 と文字化けしたような、意味不明な記号の羅列にしか聞こえなかった。


 目線を下げて、ちらりと床から10センチくらい開いているパーティションの隙間から隣のスペースを覗き見ると、等身大で緑色のクラゲの足みたいのとか、蛍光色に光るドロドロのゲロみたいな、見えてはいけないものが蠢いているのが目に入る。

 総司、わたし疲れているのよ――ではなくて。


「…………なんぞ、これ???」


 再度、疑問を口に出して席を立とうとしたけれど、なぜか椅子(さっきまで座っていた教室の椅子のまま)に下半身から根が張ったかのようになっていて、ぴくりとも動かない。

 目の前の机――周囲の汚れひとつない白の景観に比べて場違いな感じにくたびれた、経過疲労による汚れや傷だの、『FACK』だのとスペルミスの落書きだの――に並べられてある手つかずのおにぎりやパン、お菓子の山や、川島麻友が置いていったカードやルーレットなど各種玩具の山の隙間に両手を突いて、立ち上がろうとしたけれど、動くのは腰から上だけである。


「これは――もしかして、噂に聞くエコノミークラス症候群?!」

「違います」


 対面から即座にかかった否定の言葉に、反射的に前を向くと、

「……くま?」

 いつのまにそこに鎮座して……いや陳列されていたのか。見慣れた机を隔てて、対面にいつの間にパイプ椅子が置かれ、さらにその上に三歳児くらいの大きな熊のヌイグルミが座っていた。


 で、その机を挟んで座る、首に赤いリボンを巻いた黄色いテデ○ベアにしか見えないソレが、どういう仕組みなのか、

「やあ」

 と気軽に右手を上げて挨拶してきた。


「こいつ動くぞ! おっ、ちゃんと掌に肉球もある。さてはブランド物だな、お前!」

「そこ感心するところ!? てゆーか、着眼点が違くない?! 他に言うべきことや聞くことあるよね!?」


 ご丁寧に冷や汗を流しながらツッコミを入れる熊。


 疑問点……。というと、当然アレだね。

「前々から疑ってたんだけど、表面上親友って言ってる子豚のピグ○ットって、実のところは、非常食扱いなんじゃね? 無職の熊的には」


 黄色い熊といえば『親友』の子豚がペア扱いされるけど、もう一匹普段つるんでいるのが虎の時点で、どう考えても歩く弁当です。本当にありがとうございました。


「それ違う熊だから! 同じく黄色で似てるけど違うし、あと僕はプー太郎でもないし! つーか、いろいろ問題多いからその話題はやめたまえ!」


 バンバン両手で机を叩いて抗議する熊。


「んじゃなに? 浦沢版のア○ムに出てきたラスボス?」

「僕は天使だよ! そして相馬(そうま)総司(そうじ)君、君は不慮の事故――とある反社会的なニートが作った某暗黒卿の玩具に仕込んだ爆弾の爆発に巻き込まれて死亡しました。ちなみにニートは特定の目的があって君を狙ったわけではなくて、「いい加減働け!」と親に家から叩き出された後、邪魔な玩具なんかを処分したのが、巡り巡って君のところに来ただけの不幸な事故です!」


 ムキになって長広舌を絶叫してから、はあはあと肩で息をする熊。


「へーっ、天使。くま天使ですか」


 見た目は可愛らしいけど危ない相手だ。関西弁で言うところの『あかんたれ』とか『あほぼん』とかいう奴だろう。

 触らぬ神に祟りなし。

 俺はなるべく地雷を踏まないように、朗らかに話を合わせることにした。


「それはそれは大変そうなご職業で、……確か週末だか終末になるとラッパを吹くんだっけ?」


「ぜんっぜん信じてないね。あとこれは仮の姿で、一神教上のアレコレとは無関係だから。厳密にはこの銀河宇宙を統括する上位存在に代わって雑務をこなす、実体(ウーシア)を伴った霊的存在なので、噛み砕いて天使と名乗っているだけなので変な期待しないように」


実体(ウーシア)から取って『ウーさん』って呼ぶのはどうかな? うどん食いたいなぁ。あ、昼飯食べていい?」

「聞いてるのか僕の話を!?」


 切れやすい熊である。


「あ、煮干入りのローンソの新商品『カルシュウムまん」食べる?」

 ネーミングからしてハズレっぽい中華まんを差し出したけれど、にべもなく突き返された。


「いらない! って、他になんかあるだろう!?」


「ん~~~。じゃあれかな、天使がいて白い部屋にいるってことは、もしかしてこの場所って天国?」

「そうそう。そういうノリが欲しかったんだよ。そうだよ、ここはいわゆる“天界”もしくは“精神世界”といわれる場所だよ」

「へーっ。そういえば実父が7年前に死んでるんですけど、もしかしてこの近所にいるんすかね?」


 別に会いたくもないけど、いるんなら2~3発……いや、死なない程度(死んでるけど)に殴り飛ばしておきたい。


「ああ、妻と子供――君を放置して会社のお金を使い込んで不倫の挙句、相手の旦那さんに刺し殺された相馬礼司さんだね」


 訳知り顔で頷く天使。

 よく知っているな、と言いたいところだけれど、当時は実名で報道されたので、グー○ル先生に聞けば一発でわかる程度のことだ。


「……疑り深いな。あと相馬礼司はここにはいないよ。下にいるから」


 意味ありげに下を指さすくま天使。

 一瞬意味を取りかねたけれど、すぐに理解した。天界の真下ってことは、つまり……。


「――地獄か。まあ順当って言えば順当か」


「それも最下層のコキュートスだからね、ちょっと観光気分で行くのは難しいかな。いちおう君は他のところに行く予定だし」


 あはははは、とあっけらかんと笑うくま天使。不謹慎かもしれないが、なかなかノリの良いやつである。


「まあ、いまさら別にどうでもいいけど……つーか、別な所って?」


 いまだに半信半疑どころか一信九疑くらいだけれど、話を合わせておく。


「んーっと、君の場合、これまでの人生の功徳ポイントがこれだけで、魂に蓄積されたトータルの経験値が結構あるから――」


 どこからともなく取り出した『閻魔帳』と書かれた江戸時代の帳簿みたいなものをめくるくま天使。


「天界で三百年くらい修行すれば天使見習いくらいにはなれるかな。もしくは誰かの守護霊になって徳を積めば星霊の末端くらいなれるかも。そういうのをなしにしてまた輪廻の輪に入れば次も人間からはじめられるのは間違いないね。あとは、変り種では異世界……といっても別の宇宙の惑星だけど、ここにチート付きで転生とかできるよ。ま、記憶は消すから自覚できるかどうか不明だし、下手したら怪物扱いされて処刑されるかも知れないけど」


「微妙だなあ。異世界チート転生とか、普通記憶を持っていて知識チートとか鉄板だと思ってたんだけどなあ」


「アホらしい。記憶を持っている時点でもう転生じゃないだろう。死んで生まれ変わるってことは罪も功もなにもなくなって、まっさらな一個人として生きることなんだから、そういう生を冒涜するような真似は僕の眼の黒いうちは絶対にさせないよ」


 そう言ってふんぞり返るくま天使。

 どうやら転生チートとか流行のネット小説みたいなテンプレはないらしい。


 と、なるとどれがマシか。

 悩んだところで、そもそも実例や体験がないので判断のしようがない。


「悩んだところしかたがないか。この際、サイコロで決めようかな」


 手の中にあるサイコロを転がしながらそうひとりごちると、くま天使が露骨に眉をひそめて文句を言いかけた。

 と、その機先を制する形で、不意に横から白くて小さな手が伸びてきて、俺の掌からサイコロを抓んで持ち上げた。


「サイコロとはこれのことかや? これはどういう道具なのじゃ?」


 いつの間にそこにいたのか、見た目十歳前後くらいに見える、銀髪紫瞳のとてつもなく整った顔立ちの幼女が不思議そうにサイコロを手にとって、ためすがめす眺めている。


「なっ――パンドラ様!?」


 絶句するくま天使の狼狽具合から、なにかまた面倒そうなことに巻き込まれそうな気がして、俺はとりあえず気を落ち着けるために、手元にあった菓子パンの袋をあけて口に含んだ。

本文には明確に出てきませんが、相馬は女性にもてます。

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