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生意気少女・卑弥呼は15歳で邪馬台国の女王になる!  作者: 月見


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十二話 父上と二人旅! なのに女の人が邪魔ばかり!

 母の伊邪那美(いざなみ)が亡くなり、姫が幼い弟たちの母親代わりとなってから九年の月日が流れた。


 姫は十四歳、月読(つくよみ)は十二歳、末弟の須佐之男(すさのお)も九歳になっていた。


 冬の寒さが和らぎ、春の訪れを感じるようになったある朝、家族で朝食を囲んでいると、日巫女が唐突に口を開いた。


「父上、私も一緒に山門壱国中の視察に出ますわ」


 その言葉に、月読が箸を止めた。


「姉上も家を空けるのですか?」


「ええ、そうなりますわ」


「視察って、何をするんだ?」


 須佐之男が不思議そうに尋ねると、日巫女は食事の手を止めて説明を始めた。


「各村の収穫量や収入、納めている税の割合を調べるのよ。それから家の数を数えて、どれほどの人が暮らしているのかも確認しますわ」


 その説明を聞いた途端、須佐之男は露骨に面倒くさそうな顔をした。


「……留守は任せろ!」


 そう言い切って再び食事を始める弟に、月読は呆れたような視線を向けた。


「任せろって、お前は普段から家事をしないだろう。姉上が留守の間はどうするつもりなんだ?」


「それは兄上に任せた!」


「結局、僕がやるのかよ……」


「こら、須佐之男。留守中はちゃんと兄の言うことを聞くんだよ」


 那岐にたしなめられても、須佐之男は悪びれる様子もなく、元気よく頷いていた。


 そんな弟たちのやり取りを横目に、日巫女は今後の予定について話を続けた。


「もっとも、一度にすべての村を回るつもりはありませんわ。何日か調査をしたら家に戻り、集めた資料を整理してから次の村へ向かう。その繰り返しになります」


「ずいぶん地道ですね。そこまでしなければならないのですか?」


「当然ですわ。まずは自分の目で山門壱国の実態を確かめなければなりません。私はまだ各村の事情を十分に知りませんし、会議でも経験不足だと軽く見られがちですもの。数字と事実を把握しておけば、村長たちとも対等に議論できるようになりますわ」


 日巫女の答えに月読は感心したものの、すぐに別の問題に気づいた。


「でも姉上、それだけの調査となると、記録する木簡や木札も相当な数になりますよね? 持ち運ぶだけでも大変ではありませんか?」


「ふふん、そのために取り寄せておいたものがあるのよ」


 日巫女は得意げに微笑むと、傍らに置いていた包みを開き、中から無地の紙の束を取り出した。


「おお、これは紙ではありませんか!」


挿絵(By みてみん)


「そうよ。これなら木簡や木札を何枚も持ち歩くより、ずっと軽くて済むでしょう? 書き込める量も多いから、今回の調査にはうってつけですわ」


 月読が興味深そうに紙を手に取る一方で、那岐はその束を眺めながら小さくため息をついた。


「それでも、たくさん集まれば重たくなると思うけどね……」


 視察の道中、増え続ける資料を誰が運ぶことになるのか、那岐にはすでに見当がついていた。


 娘は調査への意欲に満ちているが、父親の方は早くも荷物持ちとしての苦労を予感しているのだった。




 最初に向かったのは、山門壱国の南部に点在する村々だった。


 村に到着すると、那岐の姿に気づいた人々が次々と集まってきた。


 長年にわたって各地を巡り、農業や治水の指導を続けてきた那岐は、どの村でも親しまれている。


 しかし那岐を取り囲んだのは、なぜか若い女性ばかりだったのである。


「那岐様、お久しぶりです!」


「今日はいつまでいらっしゃるのですか?」


「よろしければ、うちにも寄っていってください!」


 女性たちは口々に声をかけ、那岐も一人ひとりに笑顔で応じていた。そのため、肝心の村長のところへ行こうにも、なかなか前へ進めない。


 日巫女はしばらく黙って眺めていたものの、とうとう我慢できなくなった。


「ほら父上、村長のところへ参りますわよ。さっさと視察を始めましょう」


「あ、うん。それじゃあ、みんな、またね」


挿絵(By みてみん)


 名残惜しそうな女性たちに手を振る父の腕を引き、日巫女はようやく人垣から抜け出した。


 ところが、村長のもとへ到着して調査の目的を説明すると、今度はあまり歓迎されなかった。


「税も収穫も、我らがきちんと把握しておる。わざわざ調べ直す必要などないぞ」


「その数字が実際の状況と合っているかを確認するための調査ですわ。各村の実情を正しく把握しなければ、国全体のことも考えられませんもの」


「ふむ……まあよい。それで、何が知りたいのだ?」


「まずは昨年の作物ごとの収穫量を教えてくださいませ。田畑の広さも併せてお願いしますわ」


 村長が記録を持ってこさせると、日巫女は一つひとつ数字を確認し、紙に書き留めていった。


 那岐は基本的に口を挟まず、娘が村長に質問する様子を見守っていたが、収穫量の違いについて疑問が生じたときだけ、慎重に助言することがあった。


 というのも、田畑は同じ広さであっても、必ずしも同じ量の作物が収穫できるわけではないからだ。


 土の性質や水はけ、日当たり、肥料の使い方によって収穫量は変わるため、数字だけを見て不正や誤りと決めつけることはできなかった。


 日巫女が不自然に感じた場所については、実際に田畑へ足を運んで確かめることにした。


挿絵(By みてみん)


 那岐は土を手に取って状態を調べ、ときには水の流れや畦の様子まで確認した。すると、収穫量が少ない理由に気づいたらしく、村長に説明を始めた。


「ここの土は少し痩せているね。肥料の入れ方を変えてみたらどうかな。それと、この辺りは雨が降ると水が溜まりやすいでしょう? 少し水の逃げ道を作るだけでも違ってくると思うよ」


「なるほど。では、こちらの田はどうでしょう?」


「そっちはね、まず土をもう少し柔らかくして……」


 話が進むにつれて村長も熱心になり、那岐は田畑を指さしながら、次々と改良方法を教え始めた。


 日巫女も農地の改善が大切なことは理解していたので、最初は黙って二人の話を聞いていた。


 しかし、いつまで経っても終わる気配がなく、次の村へ向かう時間ばかりが過ぎていく。


 ……長いですわ。まだ調べる場所がたくさんありますのに。


 とうとう日巫女は、父と村長の話が一段落したところで口を開いた。


「父上、今回は実態調査が目的ですわ。確かに実りの悪い田を改善することも大切ですが、そこまで一つ一つ指導していては、時間がいくらあっても足りません」


「あっ、ごめんね、姫。つい気になっちゃって……できるだけ控えるようにするよ」


「まったくもう……」


 日巫女は呆れたようにため息をついた。


 父は目の前に困っている人がいれば、どうしても放っておけないのだ。


 そうした姿勢が人々から慕われる理由であることも理解していたが、今回は国中の村々を巡らなければならない。


 父の気の済むまで農地の改善に付き合っていては、いつになっても調査が終わらないだろう。


 こうして南部の村々を順に調べていくうちに、日巫女は一つの問題に気づいた。


 村によって、収穫量に対する税の負担が大きく異なっていたのである。


 同じ程度の収穫があっても、ある村では多くの税を納め、別の村ではそれほど納めていない。


 土地の条件や作物の違いを考慮しても説明のつかない差があり、税の取り決めや徴収の仕方が村ごとに異なっていることが見えてきた。


 一方、戸数については、村長たちの把握している数字と実際の状況に大きな食い違いはなかった。


 人が生まれたり亡くなったり、別の村へ移り住んだりする以上、多少の増減が生じるのは当然であり、その程度の違いまで問題にするつもりはなかった。


 しかし、税の負担が村によって異なるとなれば、話は別だった。


 日巫女は各村の収穫量と納税量を紙に書き留めながら、調査を続けるほどに、山門壱国の実情を正しく知ることの重要さを実感していた。




 南の村々を一通り調べ終えて山門邑へ戻った日巫女は、旅の疲れを癒やす間もなく、次の視察に向けて準備を始めていた。


「姉上、もう次の村へ行かれるのですか?」


 月読が驚いて尋ねると、日巫女は持ち帰った紙の束を机に置きながら、ため息をついた。


「まだまだ回るところが多いのよ。それなのに父上ったら、どこの村へ行っても女の人たちに囲まれてばかりだし、痩せた土地を見つければ、その場で改善策を考え始めるでしょう? おかげで調査に時間がかかって仕方ありませんわ」


「あはは、ごめんね、姫。困っている人を見ると、つい放っておけなくて」


「姫ではなく、日巫女ですわ。まったく、父上はいつもそうなのですから」


 日巫女は呆れたように言ったものの、父の性分を誰よりも理解しているだけに、それ以上は責めなかった。


 代わりに、机の上へ積み重ねた調査資料を指さした。


「ああ、それと月読。留守の間に、そこに置いた資料の整理と集計をお願いするわね」


「えっ、これを全部ですか?」


「そうよ。村ごとの収穫量や戸数、税の負担をまとめて比較しないと、山門壱国全体の実態がわからないでしょう?」


 月読は積み上がった紙の束を見つめた。姉が持ち帰った資料は相当な量であり、目を通すだけでも骨が折れそうだった。


「ひえええ……姉上、これを私一人で?」


「あなたならできるわ。よろしくね」


 日巫女は当然のように微笑むと、次の視察で必要になる道具の確認へ戻ってしまった。


 月読はしばらく姉の背中を見つめていたが、断っても無駄だと悟り、深いため息をつきながら最初の一枚を手に取った。




 その夜、久しぶりに自宅で眠ることになった日巫女は、いつものように那岐の寝所へ潜り込んできた。


 幼い頃から何かと理由をつけて父の隣で眠りたがるのは変わらず、十四歳になり、巫女として人々の前に立つようになっても、その習慣だけは続いていた。


「巫女になっても、こうして来るんだね」


 那岐が柔らかく笑いかけると、日巫女は父の隣に横になり、少し不満そうに答えた。


「疲れましたわ。父上は行く先々で女の人たちに囲まれて、さぞ楽しかったのでしょうけれど」


「そんなことないよ。みんな歓迎してくれているだけだよ」


「歓迎、ねえ……ふん」


 日巫女は納得のいかない様子で顔を背けた。父には悪気などまったくなく、村の人々が親しみを込めて集まってくることも理解している。


 それでも、若い女性たちに囲まれて嬉しそうに笑う父の姿を思い出すと、どうにも面白くなかった。


 そんな娘の胸の内など知る由もない那岐は、旅の疲れが残っているのだろうと思い、静かに休ませてやることにした。


 翌日からも父娘は村々を巡り、調査を終えるたびに山門邑へ戻って資料を整理し、また別の土地へと出向いた。


 こうして山門壱国全域の収穫量や戸数、税の実態を調べ上げるまでには、数か月もの歳月を要することになった。


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