帰宅・後始末と事情聴取
見る人が見れば分かる
「ただいまー、やっと帰って来られた。あー、お腹空いたぁ」
気だるそうにぼやいて、リビングのドアを開けるカミユ。
みつきを中に入れて、俺もリビングへ入り、ドアを閉めた。
あれからしばらく、事態の確認なんかのために拘束を余儀なくされた。
俺に脳を揺らされて昏倒した男を、駆けつけてきた警備員たちが捕縛した。
そしていち早く、男を運んでいった。
みつきの顔見知りで、仲の良い警備副主任という女性が俺と彼女の無事を確認したあと、頼み込むように頭を下げて、警備監視ルームにまでついてきてほしいと言ってきた。
そこにはカミユもいるはずだが。
ちらりと背後のみつきを見やる。
彼女の手は、まだ俺の背中のシャツをギュッと掴んだままだったから。
みつきだけは先に、もう絶対安全な自宅へ帰してやるべきじゃないだろうか。
俺がそう提案しかけたのを、彼女は感じ取ったのかもしれない。
俺を見て、少しだけ首を振ると、背中から離れて真っ直ぐに立った。
そして、淡々とした声で、警備副主任の女性についていくとしっかり伝えた。
そこに震えも、怯えも、感情らしいものはほとんどなかった。
俺とみつきは、先導してくれる警備員たちに促され、囲まれて、まるで守られるようにして歩いた。
こんなことをされても遅いんだけど、と思わなくもないが、言葉には出さない。
ガラス張りの廊下を抜け、警備監視ルームに向かって違う雰囲気の通りにまで来たとき、ふと気づいた。
歩調を合わせた隣にいるみつきの手が、いつかのときみたいに、たった一本、俺の指を掴んでいることに。
まるですがりつくような頼りなさで。
離れてくれるなと必死の思いで絡ませているかのような強さで。
そうして一方的に手を繋いでいることに、みつきはまた気づいていない。
気づかないままでいい、と、ほんの少しだけ、だけどしっかりとみつきの手を包むように握った。
カミユとも合流して、警察も到着して、やったことはほぼ事情聴取だ。
しっかりと録画された映像がある分、こちらに非があるなんて「吹っ掛け」は起こらないだろう。
ましてや、襲われたのは国の重要保護対象の大事な大事な未成年Ω。
そんな彼女を守った側の俺たちにお咎めがあるとかいう不条理は受け入れられない。
不審者を見逃し、建物内に侵入を許し、接触まで許してしまった警備体制こそが責められるだろう。
でも、そのせいでみつきの少ない自由が奪われる結果になってほしくはないものだ。
あと、やっぱり危険視されたのは、俺の行動だった。
警察はみつきを守るために容疑者(この時点でもうあのαの男の罪状は固まっていたので)に振るった暴力が正当であったのか、なんてことを見てきた。
最初に一緒に映像を見た警察官たちは、俺が容疑者を投げた姿に「おお……」と声を漏らし、顎を打った一撃を見て首を傾げていた。
そして、現場を預かっているなんていう彼らの上司にあたる恰幅のいい刑事とその部下がやって来て、映像を見て、俺に問いかけてきた。
「容疑者の彼は、何分後に目覚めると思いますか?」
そんなことを聞くもんだから。
「三十分から一時間ってとこだな。あんまり長く眠らせたら、あんたらの仕事に支障が出るだろ?」
答えてやると、刑事はニヤリと笑った。
どうやらその答えで、俺はまったくもってお咎めなしと言われ、Ωを守るために行った正当な行動、と彼らのお墨付きをもらった。
秋露には連絡が行っている。
ある程度の警察からの聴取が終わり、許可も下りて、みつきが秋露に電話をかけた。
二人の会話を、耳をそばだてて聞いていた、なんてことはない。
だけど、電話越しでも秋露がどれだけみつきのことを案じていたかは十分感じ取れたし、みつきも秋露の声を聞いて、ようやく少し緊張が緩んだようでもあった。
みつきが何度も小さくごめんなさいと謝る声が、まだ忙しく他の者たちが後処理に動き、騒がしい警備監視ルームの中に静かに滲む。
なにも悪くないはずの少女の謝罪が、誰の耳にも聞こえていないはずがない。
それでも、大人たちはなにも言わない。
それぞれやらなくてはいけない作業に専念しているだけ。
カミユがみつきの近くへ行こうとしたのを、今だけは止めた。
子供の真っ直ぐさで、みつきに「謝る必要なんてない」と伝えたかったんだろう。
無言のまま振り返ったカミユに、なぜ止めるんだと睨みつけられたが、今は黙って少し首を振って見せるだけに止めておいた。
今、彼女の謝罪は、心配をかけてしまった秋露に、家族にだけ向いている。
そんなみつきがもし、この場にいるすべての人間に対して、申し訳ないなんて気持ちを抱いてしまったら。
カミユは不服そうだが口を閉ざし、みつきが秋露との電話を終えるのを大人しく待つことにした様子だった。
俺はそんなカミユの頭を撫で、案の定、べチリと手を叩き払われて、苦笑いを浮べる。
また後日にも連絡をすることになるだろうという警察とのやり取りを俺が受ける約束をして、ようやく、家へと帰ることができた。
ちなみに余談だが、ここに来た警察やら関係者のほとんどが、俺が映画俳優のヴァルティ・ノーススターだと気づいていたらしい。
だが、誰一人としてそのことに触れてくる者はおらず、あくまで俺は襲われたΩを助けたイチ一般市民として扱われた。
母国の警察も、場合によっては捨てたものじゃないと思えるけれど、この国の警察もそうみたいだ。
少し嬉しくなった気持ちが、勝手に笑みになって溢れた。
ヴァルティ
カミユ
みつき
警備関係者
警察関係者




