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ここは世界で一番空に近い檻 ディストピア一歩手前のオメガバースの世界で運命の番が幸せになるまで 《第一部完》  作者: 庭師K炎


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売店 その帰り道

スタッフは幅広い年齢層

 売店までやってくると、二人の顔なじみのスタッフがいた。二人とも、売り子もやってくれる方たちだ。

 一人は店長さん。

 一人は基本早朝のみ勤務のマダム。


「あら、みつきちゃん。おはよう」

「おはようございます。お菓子販売の売上金を取りに来ました。預かっていただいて、ありがとうございます」

「おはようございます、水実さん。待ってて、今出すよ」


 店長さんはバックヤードに入っていった。

 今のうちに、と私はお店の棚から折り紙を見つけて、レジに持っていった。


「折り紙買うの? 今度はなにを作るの?」

「えへへ、ちょっと海外から来た子に手裏剣を……」


 なんだかずいぶん子供っぽいことを言っている気がして、照れながら途中で説明を止めた。


「ああ、この前水実さんを訪ねてきた金髪の男の子は海外からのお客さんだったのか」


 お菓子販売の売上金をいつも入れている目立ちやすい明るい色の花柄のポーチを持って、店長さんも戻ってきた。


 十中八九、カミユくんのことを言っている。


「あの子は、……α?」

「最近、お菓子の販売日でもないのにαの人がウロウロしているって警備員さんが話していたわよ?」


 ウロウロ……?


 ヴァルティさんとカミユくんが研究センターのほうをウロウロしているのは当たり前だけど、住居が私と同じこの研究センターの中なんだから、警備員さんにはそのあたりの連絡はしっかりされているはずだ。

 秋露おじさんが、そんな大事そうな通達を怠るなんてありえない。


「ああ、マダム、それはあれだよ。……水実さんの」

「……注意事項で聞いたやつね」


 二人も神妙な雰囲気になって、心配そうに私を見た。


「ああいう症状の人は定期的に出てくるものねぇ。もう何人目かしら?」

「今回の人はちょっと酷いなぁ」

「みなさん今回も、病院のスタッフと先生を呼んでいらっしゃるんでしょう?」

「もちろん。でもちょっと……」


 店長さんが言葉を濁す。

 なにが起こっているのか、分かっている。 

 そしていつものように、彼らが病院のスタッフと協力して、必要最大限の対応をしてくれていることも。


「みつきちゃんのお菓子には、ちゃんと親切に書いてあるのにねえ?」

「あれ以上親切な文言は無理ですよ。どうして理解できないんでしょうねえ?」


 ため息を吐く二人の心配そうな視線を受けながら、小銭入れから折り紙の代金を取り出して支払い、店長さんからお菓子の売上金のポーチを受け取った。


「水実先生は今、ご不在なんですっけ? あらあら、みつきちゃん、気をつけて早くお家に戻りなさいな」

「はい」

「途中まで一緒に行こうか? 警備員さん呼ぶかい?」

「あー……」


 心配してくれる気持ちはとてもありがたく、とても嬉しかった。

 用心のためにそうしてもらおうかと考えなかったわけでもない。

 でも。


「ありがとうございます。用心して、表の道じゃない、一般の人は来ない道から帰ります。それでは、また来月もよろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げて、二人に見送られて売店を後にした。




 急いで帰ろう。

 きっともう、ヴァルティさんもカミユくんも帰ってきているはずだ。


 先に朝ご飯を食べていて、とメッセージは送ったけれど、もしかしたら待ってくれていたりなんかして?

 それはあまりにも申し訳ない。


 走っても早歩きと大差ないくらいのスピードだけど、自然と駆け出していた。


 言っていたとおり、病院関係者でも一般来訪者でも滅多に通らない中庭の脇道を通り抜けて、研究センターを目指す。


 秋の深まった朝の少し冷たい空気の中、中庭の緑の匂いが清々しい。


 この前、ここでヴァルティさんに声をかけられて、話をしたんだっけ。

 割れたクッキーのことと、短くなった髪のこと。


 あのクッキー、ヴァルティさんはどうしたんだろう?


 食べちゃったかな?

 ……味の感想、聞かせてくれるかな?


 自分の短くなった髪をちょっと触る。


 走っていても、頭も背中も軽い。

 長かった分だけ重さのあった髪は、すっかりさっぱり無いのだ。当たり前だけど。


 首を覆うような服を着て、うなじを守る特殊な幅広のチョーカーを着けて。

 それでも、絶対安全とも言えず、不安はつきまとう。


 髪を伸ばすということは、番のいないΩにはよく見られる傾向だ。

 長い髪を緩く編んで首の後ろに垂らしておけば、それだけでひとつの、気休めではあるが無いよりマシなうなじを守る防御壁になるから。


 それを自分の意思で切った。


 ……やがて番になる人には、いい顔はされなかったけど。


『ヴァルティさんは、長い髪が好きだったのかぁ……』


 残念なことをしたなと思わなくもない。


「どうせなら切る前に言ってくれたら……、って、同じことをヴァルティさんに言われたんだった……」


 切ってから言われてもどうしようもない。

 正(まさ)しくそう。


 苦笑いをして、一人で笑って、心を決める。


 帰ったら、二人きりになれるタイミングがあれば、謝ろう。


 ちゃんと目を見て、真っ直ぐに、自分が髪を切ろうと思えた気持ちを説明して、ヴァルティさんの短くなった髪型をもう一度、ちゃんと、かっこいいと伝え……。



「ああ、ああ!! ついに見つけた!!」



 静かだったガラス張りの廊下に響く、初めて聞く人の声。


 振り返った私に、満面の笑みで近づいてくる、身なりの良い男の人。



 ……αだ。



 血の気が一瞬にして引いた。





みつき

売店のスタッフ(店長とマダム)

???のα

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