待望の帰宅 みつきのお留守番の日々7
そして衝撃的
カミユくんがお風呂から上がって、私もお風呂に入る用意を整えて、リビングに向かって廊下を歩く。
テレビの上にある壁掛け時計を見てみると、もうなかなかに遅い時間になっていた。
ヴァルティさんはいつごろ帰ってくるんだろうか?
本当に帰ってくるんだろうか?
漠然とした不安が胸を占める。
たとえそれが今日中でなかったとしても、帰ってくる。
必ず帰ってくる、はず。
……そんなふうに期待して、誰かの帰りを待つのは嫌いだ。
繰り返し繰り返し、叶わなかった落胆の気持ちを覚えているから。
「みつきサン、ルティ、今帰ってきたって」
キッチンで冷えた水を飲んでいたカミユくんが、携帯を片手に声を投げてきて、跳ねるように顔を上げた。
腕に抱えるように持っていたパジャマをソファーに投げつけるようにして置いた。
「ほんと?」
「うん」
でもまだ、玄関に人の気配はない。
私の目線を追ってカミユくんも玄関を見たけれど、すぐにクスリと笑われた。
「ルティのことだから、多分まだこの建物に着いたばっかりとかだよ。いっつもそう。玄関で連絡入れてくるよりマシだけど、もうちょっと早く、詳しく連絡欲しいもんだよね」
私が慌てて短くなった髪を手で梳いて、あくせくと動き出したから、カミユくんはニヤニヤと楽しげに笑った。
思わず頬が染まる。
でも、そんな自分の行動に言い訳を並べ立てている余裕なんてない。
私は急いでエプロンを着けて用意し、下ごしらえを終わらせてあったベーススープにご飯を入れて煮込み始めた。
「やっぱり飯は食ってないってさ」
カミユくんのくれる情報に、ホッとしたのと同時に心配になった。
ヴァルティさん用の夜ご飯をちゃんと用意しておいて良かったこと。そして、こんな時間までご飯を食べられずにいたことへの心配だ。
きっとヴァルティさんはお腹を空かせている。そう確信を持って、もう少しだけご飯を追加する。煮立ったところに、たっぷりとチーズを混ぜ込んだ。
トマトとチーズのリゾット。
夜ご飯にカミユくんと食べたみたいなベーコンとほうれん草の濃厚なカルボナーラスパゲッティだと重いかなと思って、メニューを考えた。
「なに? いい匂い」
カミユくんは鼻がいい。
興味深そうに私の側にやってこようとしたとき、玄関のドアが開く気配がした。
「タダイマ」
聞こえてきた声に、どきりと胸が鳴った。
「あ、ルティ、おかえりー!!」
カミユくんが元気に声を投げかける。
リビングのドアが開く。
そして現れたヴァルティさん。
ライダースジャケットとヴィンテージジーンズ、ライダーグローブをはめた手にはバイクのヘルメットと鍵束。腕に抱えた、なにかいっぱい詰め込まれた袋。
少し疲れの見える表情が、大人の男の色気というのだろうか、黄色い悲鳴を上げてしまいたいくらいかっこいい。
そんな内心の自分をギュッと抑え込んで、カミユくんを真っ直ぐに見ている横顔に声をかける。
「おかえりなさい」
一生懸命、平静を装って声に出した。
頭の中はいっぱいいっぱい。
なんでバイカースタイルなの? 似合いすぎなんですけど?!
お仕事どうでした? お疲れですよね?
ご飯は食べるでしょう? これで足りるかな?
やっぱり短い髪型はとても似合っている。まだ私が髪のことを気にしていると思って、怒っているかな?
私の髪のこと、……少しでも、褒めてくれるかな?
賛辞とか、心配とか、期待とか、ぐるぐるした。
ヴァルティさんがこちらを向く。
「タダイマ、みつ……、……?」
青い目が大きく見開かれる。
私の名前も呼び切らないうちに、ヴァルティさんが手に持っていた大量のお土産が入った袋がドサァッ、と音を立てて床に落ちた。
疑問と驚愕と、落胆に似た感情が、彼の顔にありありと浮かんだのを見た。
だから、驚いてしまった。
私はなにか、ひどい失敗をしてしまったんじゃないかという、理由も分からない罪悪感が胸に込み上げたのを感じた。
みつき
カミユ
ヴァルティ




