カミユの制服試着 みつきのお留守番の日々3
よくある少女漫画のワンシーン
カミユくんの制服の試着を、制服の業者さんと、秋露おじさんが付き添いを頼んだスタッフ二名が手伝っていた。
「キュークツ」
ちょうど学ランを着たところのカミユくんの第一声はそれだった。
私と秋露おじさんが部屋に入ってきたことに気づいて顔を上げる。
カミユくん以外は、彼の制服姿に大変感動を覚えていた。
プラチナブロンドと神秘的な宝石のように赤い瞳の美少年が、漆黒の詰襟学ランに身を包んでいる。
どこのファンタジー学園物語の一幕かな? と思わずにはいられない絵図だった。
「秋露おじさん、カミユくんの行く学校は共学ですよね?」
「うん。第二の性に理解が深く、αβ問わず、国内有力な企業や家々の子供たちも通っているよ」
漠然とした不安は、どうしても感じてしまう。
学校は、子供たちの小さな社会。
αが多くいるのならそこは、この国の縮図に他ならない。
カミユくんの優秀さは、この見た目だけでも、しっかりと表されてしまっている。
『転校初日の自己紹介のときとかだけでも、どうなるか見たい……。絶対に、少女漫画とかの美少年ヒーロー登場シーンだ……』
ワクワクしたのは、私だけではなかった様子だ。
秋露おじさんも隣で必死に笑うのを堪えていた。
「秋露センセイ、みつきサン。ワオ、とってもイイね、みつきサンの新しい髪型。似合ってる。動きやすそう」
笑顔で賛辞を送ってくれるカミユくんの容赦の無さに照れてしまう。
「着心地はどうですか?」
恥ずかしさに耐えかねて、尋ねた。
「着てはみたけど、こんなにキュークツなの? 動きにくい……」
カミユくんがぐっと、ぐっと手や足を伸ばすと、強い布地であるはずの学ランがギチッ、ギチッと軋んだ音を立てた。
業者の人たちが一際慌てた。
「今着ている制服のサイズ、ぴったり過ぎるんじゃないかな? 少し大きめのものを選ぶほうがいいよ?」
「そう? オレがデカくなったらその都度買えばいいんじゃないの?」
「制服はそんなにしょっちゅう買い替えるものじゃないよ? 案外値が張るものだし」
「ああ、金がかかるってことか。……ルティはあんまりそのへん、気にするなってすぐ言うからなぁ」
ヴァルティさんの収入状況を考えたらそうなのかもしれない。
だけど、あまりにもお金に無頓着で散財を厭わない思考は、将来的に心配になる。
カミユくんは詰襟に指を突っ込み、少しでも窮屈さがマシにならないかともぞもぞしている。
「ルティと手合わせして、ちょっと本気出したら買ったばかりの靴とかすぐ穴開くし」
ん?
「有名なスポーツブランドのウェアだってもらって、着てみたけど、やっぱりルティに投げられたら破れるし」
んん?
「ルティもおんなじようなもんだぜ? 最近は特に、オレが本気で掴みかかったら破っちゃうし」
想像の斜め上だった。
二人のワークアウトというトレーニングは、思っていた以上にハードだ。
「αとして発現した力が身体の感覚に追いついてないんだろうね。この年代のαによくある出来事だよ。……ヴァルティくんとどんなトレーニングをしているかは興味深いが」
秋露おじさんは研究者目線で楽しげに二人のトレーニング内容に思いを馳せているが、私は、カミユくんが破ったヴァルティさんのシャツがどうなったのか、その行方に思いを馳せていた。
あわよくばもらえないかな、なんて邪な野望を抱いたことを、わざわざ口にしない。
「制服に穴が空くのも破れるのもよっぽどの事態だよ。そんなことは起こらないほうがいいけど、とりあえずはもうワンサイズ大きなもののほうがいいんじゃない?」
カミユくんの背中を見たり、袖の長さを見たら、やっぱりそう思えた。
「そう? みつきサンが言うなら、そうする」
カミユくんは素直に私の意見を取り入れてくれて、業者さんからもうワンサイズ大きな制服を受け取ると、さっさと着替えに行った。
着替えて戻ってきたカミユくんは少しだけ大きな制服に「着られている」状態に見えなくはなかったが、首回りのキツさもなさそうで、なおかつ秋露おじさんもイイねと賛同してくれたので、そのサイズで購入を決めた。
あらかじめ言われていたとおり、ヴァルティさんに渡されていたファミリーカードで支払いを済ますカミユくん。
それから秋露おじさんは学会へと出発し、私は午後の販売の準備、制服の試着と購入を終えたカミユくんは朝のうちに用意しておいたお弁当を持って、学校までの道のりを確かめに出かけていった。
それぞれがそれぞれの午後の過ごし方。
売店にクッキーを運びながら、ヴァルティさんは今頃、撮影なのかなあ、と、遠い空を見上げた。
カミユ
みつき
秋露
制服業者さん
付き添いスタッフ




