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ここは世界で一番空に近い檻 ディストピア一歩手前のオメガバースの世界で運命の番が幸せになるまで  作者: 庭師K炎


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各企業コーディネーターたちとの夕食

ヴァルティ仕事時間説明

出発した日の午後は国際免許切り替え試験・夕食・打ち合わせしつつ移動・仮眠(日付またぐ)・一本目の撮影(明け方)完了・スタッフと朝食、仮眠

昼食・移動・打ち合わせ・小物ポスター撮影・会談・二本目のCMの部分撮り・遅めの夕食が済んだ

今ここ

 二日目の仕事が終わったのは、結構遅くになってからだった。


 遅い時間だったが、スタッフたちと歓迎と歓待の意味が込められた豪華な夕食を食べた。親睦なるものが深められたのは、俺と、というよりも、企業間のコーディネーターたち同士だった。


 明日が撮影の大詰めだから軽くだけ、と酒を飲んでいた彼らはいつの間にか出来上がっていて、ヴァルティ・ノースス(本人)スターを前にヴァルティ・ノーススター談義を始めたのだった。(ちなみに俺は撮影を控えた日は飲まない)



「あのシーンのバイクの乗り方を観て、オファーするしかないと営業担当と語り明かしました」

「なんで引退なんですか」

「最初の映画のときからファンで」

「CM絵コンテ描いた担当者が、SNS見て席から飛びました」

「憧れのヴァルティが自社のヴィンテージジーンズ穿いてる……っ」

「身体、絞りましたよね? 以前測りましたサイズより少し……」


 もうすでに色々な話題に晒されていた。苦笑いしながらそれでも楽しく談義に付き合っていたんだが、その話題には思わず反応した。


「絞ったつもりはないぜ? 食べてる量も運動も、減らしたり増やしたりしたつもりはない」


 コーディネーターたちは揃って俺を見る。


 彼らの目は、確かだ。

 それだけの場数を踏んで、仕事をこなして、信用を勝ち取って、この大きなプロジェクトのメインキャストに据えられた俺に接している。


 その中の一人が、代表するみたいに口を開いた。


「追求するのは失礼かと控えてはいるのですが、この国で今お住まいの場所は、信用の置ける方のサポートのもとだと推察いたしております。海外から来られて、この国に長期滞在される俳優、女優の方たちによくあることなのですが」


 この仕事をするに当たって、国や、国際的に立場を持っているDr.水実秋露の後ろ盾は本当に大きかった。

 国際免許の切り替えも、住まいの信用も、映画俳優ヴァルティ・ノーススターとコーディネーターたちだけではもたつく場面もきっとあったはずだ。


 それがなかったのは、彼の名による後ろ盾という立場を(かさ)に着た優遇があったと思っても不思議じゃない。


 「αだから」ということは、こういうことにはあまり関係がない。

 もしもこれが「Ωだから」であったならば、対応も、かけられる時間も、スタッフたちに走る緊張も、ケタ違いなものになっただろうけれど。


 続く、コーディネーターの話に興味深く向き合う。


「ただ『この国の当たり前の食事を摂っていただけなのに、体調が改善して、体重が減った』と、皆さんおっしゃるんです。大体、来日されて一週間以内ほどが顕著ですね」


 俺が驚いている間に、まわりの皆が「ああー」と声を出して激しく納得していた。


「一ヶ月くらい過ごされたら、もっとよく分かるらしいですね」

「よく、聞きますねー」

「うちも聞きました。そして、仕事が終わって帰られて」

「リバウンド……、げふんげふんっ」

「仲良くなった社員に嘆きのメールが……」

「なにか仕事はないかとか、また長期滞在の予定が組めないかとか……」

「ありがたいことですね」

「ですねぇ」


 感謝の言葉を述べつつも、コーディネーターたちの顔には苦労の疲れが見えている。

 きっと色々あったんだろう。


「確かに、作り手いわく『この国の普通の家庭料理』を食べさせてもらっていたけど、ラーメンもバーガーも食べてるぞ?」


 喉を鳴らして笑いながら伝えると、コーディネーターたちも自然と笑みをこぼす。


「家庭料理ですか? お店や、和食のデリバリーではなく?」

「いやぁ、店のデリバリー和食も最近は素晴らしいものが多いけれど」

「家庭料理かぁ。自分も最近、なかなかに『家庭料理』なるものとは縁がない」

「このプロジェクトも大詰めでしたからね。家庭をお持ちの方はうらやましい」

「いえいえ、忙しすぎて帰れず、最近はもっぱらコンビニ弁当ですよ……」


 あ、この国のビジネスマンたちのとんでもない働きすぎ事情が垣間見えた気がした。


 俺でさえ心配になるほど有名な話で、知っている。

 カミユならもっと詳しく知っているかな。


「野菜の摂取量なんかが心配になって、無駄なあがきで野菜ジュースを毎日飲むというていたらくです」

「分かります、分かります」

「自炊すれば分かるのですが、どうしても野菜は取りにくいですよね」

「そうでなくとも、野菜を使った『もう一品』はハードルが高いですよー」

「うちの妻もよく言っています。だからこそ作っていると言われると感謝以外なくて、頭が上がりません」

「ははは、ごちそうさまです」

「良い御家族ですね」


 ほろ酔いの彼らの話題は、自然と穏やかな家庭の話にシフトしていった。


 その内容から、平和だなぁ、としみじみ思う。


 今までいた世界と全然違う。

 生まれ育った世界と全然違う。

 おかしなくらいの安全と、気遣いと、感謝なんかで成り立っているこの国。


 これだけ平和で安全なのに、チラホラと、狂気じみた行動も見え隠れしているのがどうしても心配だけど。


『……一ヶ月後、俺はどうなってるんだ?』


 真剣に考えてしまった。



 だが、一ヶ月後なんて時間は必要なく、俺は一日後の自分の行動で、明確に、明確に、……己を知ることになるのだった。





ヴァルティ

各企業コーディネーターたち

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