仕事に向かう車内で
がっくりと
隣で、迎えに来てくれた仕事相手のコーディネーターが、発車した車の運転手と道路状況のことで話し合っている。
どうやら到着予定時刻にズレはないようで、俺が作ってしまったロスタイムは問題にもされないようだ。
憎々しい携帯を握りしめたまま、膝の上に肘をついて、神にでも祈る体勢でうなだれる。
……顔を上げる気力もない。
言葉を口に出す気力もない。
『なにしてんだよ……、俺……』
げんなりと、がっかりと、ひたすら落胆していた。
「ノーススターさん、髪を切られたんですね。SNSで拝見して、社員一同驚いておりました」
高揚感を全身に漂わせたコーディネーターの上擦った声も耳を滑りそうになるけれど、一応答えなければと、落ちきったままの気分で口を開く。
「……ああ、契約には髪の長さについて規定はなかったし、営業の誰かが『社長が髪の短いヴァルティ・ノーススターを見てみたい』って言ってたって話も聞いたから……」
最終的には自分が切りたいから切ったのに、この発言じゃ、まるで仕事相手のために髪を切ったみたいじゃないか。
またまた自分に落胆する。
みつきの意見を差し置いて?
意見を聞く機会が前後したのだから、どうしようもないはずなのに。
髪を切ったこと一つで、……これはもう喧嘩だろう?
お互いのことを知っていく過程で喧嘩するのはともかくとしても、コレはナイだろ……。
コーディネーターは、俺の髪を切ったことが仕事相手に対しての深い親愛と情熱だと勝手に解釈して感動している。
良いように解釈してくれたことを、そんなわけはない、とわざわざ否定するつもりもない。
そして、些細な会話をするだけの気力が、今の俺にはなかった。
ただ、気になったことが、一つ。
髪をどうするかなんて自由、とみつきは言った。
そして、俺を褒めてくれた言葉も確かに本心だと。
なら、髪が短くなったこと自体は気にしていないってことじゃないか?
じゃあ、いったい、なんだというんだ?
……秋露が、なにか言っていた。
ええっと、なんだったっけな……。
考えようと思うのに、思い出すのはみつきの暗い表情ばかり。
あんな顔をさせたかったわけじゃないのだけは確かなんだ。
どうやって挽回しよう?
どうやって説明しよう?
どうやって、……許しを乞おう?
この際、どちらが悪かったかなんて、そんなことは二の次でいい。
そもそも、どちらも悪くない可能性もある。
善悪の所在を明確にしなくても、俺が彼女にあんな顔をさせた、……それだけでもう。
『……、……こんな狭量な男、……もう、嫌われてたら……』
それ以上、考えることもできなかったし、うなだれて、また顔を上げることもできなかった。
ヴァルティ
仕事相手コーディネーター




