話し合い後、お昼ご飯の相談
空腹時、難しいことは考えないほうがいい
秋露との話し合いが終わり、カミユの学校のことについてもあらかた決めた。
例えば、制服がガクラン(学ラン)で、明日業者がサイズ合わせに来てくれるだとか。俺は仕事に行っていていないが、既製服のサイズを合わせて買うことくらいは、カミユ一人でやったってなんの問題もない。
初登校は俺が仕事から帰ってきてからになりそうだ。週明けに、ということ。
それまでの間に、カミユは学校への登校の仕方などを学んでおくことになる。
……車なんかでの送り迎えじゃないのか。
国内でも指折りの学校で、第二の性への教育にも力を入れているらしい。
カミユ以外にもたくさんのαが通っているそうだ。
同世代との子供らしい青春の日々を、この国で改めて、カミユは送ることができるだろうか。
親としての期待はあるが、それを口には出さない。
カミユにおかしなプレッシャーを与えるつもりはないから。
「少し早い時間だが、今じゃないと時間が空いてなくてね。私は昼休憩を取ろうと思っているんだが君たちの分も一緒に頼むかい?」
秋露はひらひらと携帯を振って見せた。
どうやらウーバーやドアダッシュをするつもりなんだろう。
「今日はみつきサンのお弁当じゃないの?」
「ん? みつきも今日は忙しいんじゃないかな? いつもお菓子販売のときはみんなが昼食時間のあたりから準備を始めてね。食事は昼を回ってから摂っていることが多いよ。そういう日は、お弁当はナシ」
「え? 朝はそんな話してなかったよ?」
「そうかい? みつきはそういうところはしっかりしている子なんだけど?」
秋露の言葉に短い沈黙が落ちたあと、三人が三人とも一斉に携帯のメッセージアプリを開いた。
「連絡来てた」
声を上げたのはやっぱりカミユだった。
そして読み上げようとはしたけれど、みつきからのメッセージを見つめてそのまま黙る。
カミユから、若干焦りのような気配まで感じた。
「……、……あ、カミユ、翻訳機能使え」
「あ」
携帯を操作して、カミユはすぐにみつきからのメッセージに翻訳をかけた。
カミユは流暢にこの国の言葉を話すことはできるが、まだ読むのも書くのもそれほどできるわけじゃない。
形式張った丁寧な書き方のみつきの文章は、カミユには難しすぎたようだ。
「『先程お伝え損なったのでメッセージを送ります。本日は忙しくしておりまして、昼食の用意は叶いません。どうぞ各々、有意義な昼食を取れることを願っています。よろしければヴァルティさんにも言伝をお願いいたします』」
カミユが翻訳で内容を理解したあと、秋露がみつきからのメッセージの原文を読み上げてくれた。
……硬い。
「……丁寧すぎない?」
「かったいなー」
秋露まで、声を上げてみつきの丁寧な文章に笑みをこぼした。
「じゃあ、みつきの分も一緒に注文しといてあげようかな。『ハンバーガー注文するよ。みつきはいつものセットでいいかい?』っと」
「え、バーガー?!」
「うん。ご存じ、世界的に有名なチェーン店のバーガーだよ。変わり映えしなくて退屈かな?」
秋露が見せてくれた携帯の画面には、見慣れた色味のバーガーメニュー。
ああ、あのチェーン店か。
俺がそんな秋露の携帯を見ている間に、みつきからのメッセージが返ってきたポップアップが出た。
感動して涙を流して喜んでいるウサギのスタンプと一緒にだ。
「『ありがとう〜。食べるのはもっとあとになると思うので、ソーダの氷は……』」
秋露がメッセージに気づいて画面を見たので、それ以上は読めなかった。
先程カミユに送った文章の硬さとはまた違う。
秋露に送るメッセージなのだから、砕けた接し方なのは分かる。
……そもそも、俺には一言もメッセージはなく、カミユに言伝を頼んで終わり。
打ちのめされそうだ。
「確かこの国オリジナルのメニューがあるでしょ?!」
とりあえず今のところ俺の羨望の的であるカミユは食い気一直線で、微笑む秋露からバーガーチェーン店のメニュー画面を見せてもらって目を輝かせている。
誰にも気づかれないようにため息を吐いた。
気分が落ち込むのは、きっと腹が減っているせいだ。
そんなふうに気を紛らわせる言い訳を自分に思い込ませて、息子と一緒にメニュー画面を覗き込んだ。
ドアダッシュとは……、
家まで届けてくれるデリバリーのこと。(基本ウーバーと同じ)
ヴァルティ
秋露
カミユ




