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ここは世界で一番空に近い檻 ディストピア一歩手前のオメガバースの世界で運命の番が幸せになるまで  作者: 庭師K炎


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焦げつく

その意味

 食べ終わった朝食の食器を、みつきはディッシュウォッシャーに入れていく。

 残りの食器を俺が運んで、カミユはなにもなくなった食卓をきれいにアルコールで拭いていた。


「みつきサン、できた」

「はい、ありがとう」


 みつきに笑顔で礼を言われ、カミユにも笑顔が自然と溢れる。


 俺はやっぱり、そんな二人を微笑ましく眺めるのと同時に、じりっと頭の奥が焦げるような一瞬を味わった。


 しかたなく頭を少し掻く。


 そして、カミユとみつきの交わった視線を遮るように動いて、話しかけた。


「なあ、みつき。この辺でちゃんとした服が買えそうな場所はどこだ?」


 俺から受け取った皿も全部ディッシュウォッシャーに入れて、みつきは洗浄のボタンを押す。


 それから俺を振り返り、見て、……なんとも言えない難しい表情を浮かべた。


「駅周辺にいろんなお店屋さんがあります。もちろん男性服屋さんも。……けど」


 みつきの脳裏にはきっと、昨日のパッツパツになったシャツ姿の俺が鮮やかに浮かんでいるのだろう。


 この国の標準的なLLというサイズでは合わなかった俺の体格。自慢の(?)胸筋に、みつきの視線が注がれた。


 彼女の頬がほんの少し色付く。

 そして、視線はあさってのほうへと泳いだ。


「駅、二つほど向こうに大きなショッピングモールもありますし、更にもう少し行けばブランド店の建ち並ぶ繁華街もありますよ? ヴァルティさんなら、そっちのお店のほうが安心して選べそう?」


 諸外国仕様のサイズ規格なら、昨日のような悲しい(パツパツ)事件は起こらないだろう。

 みつきの意見にはおおむね賛成なのだが。


「あー、まあそうなんだが、特にブランド物だとかこだわりもないからなぁ。別に着られるならなんでも良くて」


 こだわりがあったら多分、バックパック一つで長期滞在のために国を渡ってくるなんてことはしない。

 最低限いくつか大きなラゲッジ(スーツケース)にでも身の回りのものを詰め込んでくるのが、普通の人のやることだろう。


 まるで今までの自分の生活をすべて捨ててくるみたいな行動は、ちょっと珍しいかもしれない。


「それに今日は時間もないから遠くにも行きにくい。足がいるなぁ。車は大袈裟だし、……秋露センセイに話せば、駐車場を借りられるんだろうか?」


 考えはじめると、みつきも一緒に首を傾げて考え出してくれた。

 緩い三つ編みに束ねられた長い髪が揺れる。かわいい。


「あ、ルティ、今日から仕事だっけ?」

「おう。夕方出発予定だったんだが、クライアントが急ぎたいみたいで少し早まった。午後すぐには行く」


 予定の変更も、突然の出発も、急の留守も慣れっこなカミユは平然とうなずくだけ。

 みつきはそれに驚いたようだった。


「お仕事ですか? どこまで?」


 問いかけられたけれど、思わず詰まった。

 答えられない。


「悪いが、まだ公開されてない内容だから言えない。『どこで』『どんな』『なにの』ってことは身内にも言えないんだ」


 ハッとなって、みつきが目を見開く。


 特別扱いなんてものはできない。

 身内だから。家族だから。番だから。

 そんなものを関係させない、仕事としての守秘義務だ。


「俺も聞かないようにしてるから、みつきサンも気にしなくていいよ」


 カミユがフォローでもするかのように声を投げかけてくる。


 みつきは小さくうなずいた。

 納得した様子だとはいえ、その表情は少し寂しそうだった。


 ぽやっと、胸に甘やかな火が灯る。


「……なに? 俺が仕事行くの、……寂しいのか?」


 そっとみつきの耳元で囁いてみた。

 カミユにはもちろん聞こえなかったようだ。こちらを見ながら首を傾げている。


 みつきは俺が囁いた耳をベチン、と音を立てて手で塞いで、びょんと一歩、飛び跳ねて距離を取った。


 なんて素早い動き。

 それに顔が真っ赤だ。


 思わず、くつくつと喉を鳴らして笑ってしまう。


「心配しなくても、明後日には帰ってくる。もしも撮影が延びるようならちゃんと連絡するから」


 逃げたみつきを追うように手を伸ばす。

 でも、そんな俺の手に、みつきはきゅっと目を閉じて身構えた。


 思わず手を止めた。

 俺が伸ばした手に彼女が怯えるような反応を見せたのは、明確に二回目。


 そのとき、さっきから何度も、じりっと身の内側を焼いている焦げつきの意味を理解した。


 みつきには触れずに、ゆっくりと手を下ろす。


 彼女が隠して、ほっとしたのに気づかないほど鈍感じゃない。

 それでも、そんなみつきに詰め寄るなんてことはしなかった。


「カミユ、秋露センセイから学校のことについてなにか話があるとか聞いてないか? 転入はそろそろだろ?」


 みつきから視線を逸らし、離れて、カミユの方へ歩み行く。


「えっーと、急ぎじゃないけど、制服? のことがあるから来てくれとは言われてる。正式な転入はルティが仕事終わって帰ってきてからのほうがいいんじゃないかって」

「そういう相談があるなら早めに言ってくれるか? まったく……」


 携帯を取り出して、秋露にメッセージを送った。

 俺の方の時間がないから、彼の時間が取れるなら早めに話を聞いたほうがいいに決まっている。


 すぐに秋露からメッセージが返ってきた。

 だから、カミユを促す。


「秋露センセイ、時間取れるってよ。行くぞ。じゃあ行ってくる、みつき」


 ほんのちょっと振り返って、みつきを見る。


「いってきます、みつきサン」

「はい、いってらっしゃい」


 カミユの元気な声に笑顔を浮かべ、みつきは手を振って見送ってくれた。


 そして俺はまた、身の内側が焦げるような気分を味わうのだった。





ヴァルティ

カミユ

みつき

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