きっとこれからの朝の日課
やっと発見、やっと購入
早朝、いつもどおりワークアウトに出るために起き出した。
隣の部屋で微かに小さく、ピピピピピ…と電子音が鳴っている。
前にもカミユが目覚ましに使っていた音だ。
携帯を手に入れたから、俺がワークアウトに出るために起き出す時間に合わせてカミユも目覚ましをかけているんだろう。
別に、弟子だからといってカミユに俺と同じように陽が昇るかどうかという早朝に起きて身体を動かせ、なんて強制したことは一度もない。
むしろ成長期の子供なんだからよく寝ていても問題なんてないと言っても、カミユのほうが勝手にやると言って聞かないのだ。
だから、やりたいようにやらせている。
ただし、俺と同じだけの運動量をカミユにやらせるなんて明らかなオーバートレーニングは見過ごせないので、そこの管理だけは毎度厳しくしてやっていた。
αとして第二の性が発現する前からそうやって身体を動かしてきたカミユ。
そして、αとして発現してからの成長も目覚ましい。
俺がもしも、裏の世界から強制的に追い出されて表の世界に送り出されるような状況になければ、カミユはそれはそれは素晴らしい格闘家として、裏の世界を沸かせて、次代の王者候補として育っただろう。
『……これは親の欲目だな』
そう。
裏の世界でいくら名を轟かせようと、良いとは一言で言い難い。
それなら、そんな血生臭くて命の危機がいつだって隣り合わせではないはずの表の世界で、いろんな可能性を自身で見つけて、将来を決めていけばいい。
若いころを思い返して今のカミユと比べてみると、どうしても「例」となってやれる自分の経験や将来の展望とやらの視野が狭い。
カミユには広く、制限なんてない、自分で自由に勝ち取れる将来を掴んでほしい。
そのためにも、有能で優秀で各国から一目置かれたオメガバース研究の権威、Dr.水実秋露の手厚いサポートは手放せない。
顔を洗い終えて、タオルで水を拭く。
いつものクセで長い髪をまとめようと髪を触って、短く切ったことに気づいた。
そうだ、もう括る必要もない。
洗面所を出ると、眠そうな目を擦りながらもちゃんと起き出してきたカミユと出会う。
「おはよ、ルティ」
「おはよう、カミユ」
今までとも変わらない朝の光景だったけれど、ここはもう今までとは違う国で、違う環境で、今までどおりなんかじゃない。
少なくとも、俺は最良を選び取ってここへ来たんだ。
俺のことは分からない。
ただし息子にとっては、確実にと願って。
研究センター外周のランニングを済ませ(今日もゴミ拾いの老人たちはいた。やっぱりエージェントなのか?)、三階のジムへ行く(今日は秋露はいなかった)。
これがこれからの朝のルーティンになりそうだ。
カミユはカミユのペースで、俺についてきた。
というか、途中で道を逸れて早朝のコンビニに寄り、ようやく念願のタマゴサンドを買えたと飛び上がるような勢いで俺を追いかけてきたが。
ジムのベンチに上機嫌にどかっと座ったカミユ。
「ずっと見つからなかったんだ。昨日みつきサンに相談したら、時間が悪いんじゃないかって」
ガサガサと、カミユはタマゴサンドを二つビニール袋から取り出してわざわざ俺に見せつけた。
「時間? なんで?」
「学校とか仕事の通勤時間が終わったあと、昼飯時間後、そんなときに行っても売り切れちゃってて、だから見つからないんじゃないかって。さっき走り出してから気づいたんだ。こんな早朝なら売ってるかもって」
そしてとうとう、カミユは憧れのタマゴサンドを手に入れた。
「二つしか売ってなかったー。でも満足!! あとでみつきサンに一緒に朝食に並べてもらおうぜ」
タマゴサンドの包装ビニールにキスをするかのように頬を寄せ、それからカミユはワークアウトに戻った。
ご機嫌と上機嫌は収まらなかったが、真剣に取り組むカミユを見て目を細め、俺たちはひとしきり汗を流した。
「いえ、こちらこそ無理を言いました。ごめんなさい。今日もお仕事頑張ってください。それでは、失礼します」
カミユと一緒に帰ってきたとき、リビングからそんなふうに誰かと話しているみつきの声がした。
どうやら電話をかけていたようだ。
ピッと通話を切る音がしたのと、みつきが電話をしていたことに気づいていなかった様子のカミユがリビングのドアを開けたのは同時だった。
「タダイマー」
帰りを知らせた元気な声に振り返ったみつきが電話を耳から下ろした動作を見て、カミユもまた、彼女が誰かに電話をかけていたのだと気づいたようだった。
「おかえりなさい、二人とも。先にシャワー浴びますよね?」
「うん。電話もういいの?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
携帯を置くと、みつきはキッチンの方へと行ってしまった。
食卓にはまだなにも並んでいないが、食べ物のいい匂いはしている。
俺たちがシャワーを浴びたりしている間に朝食を用意しようと調整してくれているんだろう。
「ルティ、オレ先シャワー浴びるね」
「おう」
素早く部屋から着替えを取ってきたカミユが、浴室へと駆けていく。
それを見送ってから、俺も着替えを取りに行こうと部屋へ向かう。
だが、キッチンからみつきがじっと俺を見つめていたことに気づいた。
「なに?」
足を止めて、声をかける。
するとみつきはハッとして、慌てて首を振った。
「なにもありません」
「そう?」
それ以上深く考えずに、部屋へ向かった。
ヴァルティ
カミユ
みつき




