帰り道のヴァルティ
コンビニに寄り道
短くなった髪にサングラスをかけると、ますます「ヴァルティ・ノーススター」だと気づく者はいなくなった。
今までも、たいして声をかけてこられたわけじゃないけれど、それでも気づく者はいた。その数がさらに激減したら、なんだか自由になった気がして、開放感があって、浮かれた気分で帰り道にある店に寄って買い物なんかして帰ってしまった。
みつきが言っていたドラッグストア、と呼ばれる店もあったけれど、結局選んで入ったのはコンビニだった。
カミユから送られてきた写真の一つにあったコンビニだ。
息子はいったい何軒の店を回ったんだろうか?
今からでも一番最後の店に寄ったらまだそこにいるんじゃないかとさえ思ったが、買いたいアイテムを選んでいる最中に携帯がメッセージを受信して、カミユが研究センターに帰り着いたことを知らせてきた。
ほっと安堵の息を吐き出す。
まだ夕方と呼ぶよりも早い時間だ。なんだかんだと、息子はちゃんと言いつけも守って、危機管理もしっかりしていることが知れて、いい体験だったと思う。
そして俺はといえば、みつきが言っていたとおりコンビニでシャツが売っていることに軽く驚き、そしてきっちりと畳み込まれてビニール包装されたシャツを手に取って、悩むハメになっていた。
「……L? ラージサイズってことだよな?」
自国でシャツを買うときは確かにLを選ぶけれど。
「この国のL基準……、……もうワンサイズ上を買うか」
と思って探してみたけれど見つからず、かろうじて一つだけLLと表記された物を見つけて、ますます困惑した。
「LL…? なにそれ? XLって意味か?」
少し考え込んだ。
急いでいるわけじゃないけれど、荷物として持ってきたシャツはそう多くない。
全部こちらで買い揃えようと思っていたからだ。
手持ちのシャツは昨日着ていたものと、今朝ワークアウト後に着替えたもの、そして今着ているもの。今日の夜に着替える分として余分に一枚はほしい。
まあ、洗濯に関してみつきがあれこれ言っていたから、昨日着ていたシャツももう乾いているかもしれないけれど。
「ま、いいか」
結局、どんなものか分かりきらないまま、LL表記のシャツを持ってレジへ並ぶ。
ついでにコーヒーを買った。
店を出るとき、すれ違った学生たちが俺をチラ見したもんだから、反射的にサービスとして、サングラス越しに片目を瞑って笑ってみせた。
若者たちが驚きで目を見開き、信じられないものを見たという驚愕の引きつり笑いを浮かべた。
そのまますれ違って、さっさと立ち去る。
しまった。髪も切ったばかりだから、俺が知らんぷりしていたら気づかれなかった可能性も高いのに。
ついついやってしまう、ファンサービス。
このクセもさっさと抜いてしまわなければ、後々面倒くさいことになりそうだ。
この後の予定は、秋露のところへ行って抑制剤の調整だ。
どれだけ時間がかかるかは分からないけれど、新しい髪型を見せるのはその後だろう。
カミユはなんて言うかな?
……それに、みつきも。
ニヤつきそうな口にコーヒーを運んで、自分が思っていた味じゃないことに驚いた。
コンビニのコーヒーなんて微塵も期待するようなものじゃない。
ちょっとカフェインを取りたいなという気分だったから買っただけの気まぐれだったが、なかなかどうして、これはちゃんとコーヒーだ。
高級志向でもない俺には十分の、美味しいコーヒー。
「……え? 一ドルだったぞ?!」
そして、またその値段に驚きと困惑を浮かべるのだった。
ヴァルティ




