それぞれの午後へ
環境は当たり前に違う
大満足の昼食を終えて、上機嫌で行くカミユに目を細める。
「美味かったー!! ラーメン!! こんなに早く食べに来られるとは思ってなかった」
「あれもお前の食べたいものリストに入ってたのか?」
「もちろん。ラーメンって一括りにしても、あの店だけじゃないんだぜ? 店ごとに味が違ったりして、どれもこれも魅力的なんだ」
「お前に付き合って飯を食ってたら、太っちまいそうだ」
喉を鳴らして笑うと、カミユはニヤッと歯を噛み締めて笑い返してきた。
「ルティ、今体重いくつ?」
「さあ? 相変わらず187lbs程度だと思うぞ?」
「一週間後に体重測ろうぜ。楽しみだ」
謎にウキウキと、カミユは足取り軽く進む。
「なんで一週間?」
問い返して、同じことを聞きたかった相手がいたことを思い出した。
秋露にもまた、一週間と言われた意味を聞かなければ。
「んー、一週間もすれば、ある程度違いが明確に見えてくるんじゃないかと思って」
カミユの言葉が、まるで秋露が答える言葉と重なった。
いや、本当にただの想像だけれども。
「カミユ、俺の用事はこっちの道だ。時間もかかると思う。お前はどうする?」
カミユはポケットから携帯を取り出して、時間を確認した。
まだ十三時にはなっていない。
「携帯の設定がまだほとんどできてないんだよね。だから早めに家に帰る。帰り道のコンビニと、他の店も見て帰るから、ルティ、持ってる現金、ちょうだい」
遠慮なんてまるでなく、カミユは手を差し出してきた。
「基本、カードで払ってるから、あんまり持ってないぞ? それもこの国の現金なんて」
国を出るときに、万が一のために、と思って両替したものが少し、財布に入っている程度だ。
「だから、俺なんて携帯の設定まだ出来上がってないから、キャッシュレス決済すらできないんだよ。ちょうだい!!」
「はいはい」
財布からこの国の紙幣を数枚取り出し、差し出されたカミユの手に握らせた。
「無駄遣いするなよ?」
「分かってるって。ちゃんとこの金で収まるようにやりくりするから」
カミユはポケットに紙幣を無造作に突っ込みながらそう宣言した。
……それは、今渡した金を使い切ることも含まれているんじゃ?
「これでみつきサンとの約束のお土産も買えるや。タマゴサンドももっかい探しに行く」
カミユが少し遠くなった研究センターを確認するために、辺りを見渡した。
研究センターと病院という大きな建物は、どこにいても目印になる。
地図アプリがなくとも帰るだけなら迷子になりようはないし、込み入った場所にさえ入らなければ、ここまで来た道や寄った店なんかにもう一度寄りながら帰るなんて簡単なことだ。
今は夜でもない。
ここまでで、危険だと思えた場所なんてなかった。
カミユが一人歩きをしていても心配はない、と思える。
「俺の番号は登録したな? なにかあったらすぐにかけてこいよ? 帰りに寄った店、全部の写真をメッセージで送ってこい。家に着いてもだからな? それと」
「うわあ、急に過保護……、気持ち悪っ!!」
カミユは盛大に顔をしかめて、悪態を吐いた。
「当たり前だろう? ここじゃ契約した運転手が店から店へ、家から学校へ送り迎えしてくれるわけじゃない。今までもお前を一人で、街中をご自由に、なんて歩かせたことはないぞ?」
それは自国では当たり前の、未成年を守る最低限の防衛策だ。
仕事でカミユから離れることはあった。
どうしても一緒に連れていくことができないときは、いつだって雇ったナニーをつけていた。彼を一人で行動させたことなど無いに等しい。
いくらカミユが、かつて裏社会の格闘王者にまで登り詰めた俺の愛弟子であろうと。
本気を出せば、そんじょそこらの鍛えた大人のβ男性を軽くいなし、αであっても制圧できるほどの実力を備えていても、だ。
裏の世界と表の世界では、戦うことに対しての基準が根本的に違う。
だから、表の世界の常識を逸脱した行動だけはしない、させない。
それを心配のし過ぎや親バカと言われても、しかたないと俺は思う。
「分かってるよ、まったくもー。じゃあね、ルティ。新しい髪型楽しみにしてるよ」
「おう、気をつけて行けよ」
「ルティもね」
カミユは自分の手で、ポンポン、と顔を指差した。
食事をしたときにサングラスを外したままだったのを指摘してくれたのだ。
慌ててサングラスをかけると、カミユは元気に手を振って元来た道を帰っていった。
やっぱりその姿を、心配なしでは見送れない。
カミユの姿が路地を折れて見えなくなってから、気持ちを切り替えて、俺も歩き出した。
ヴァルティ
カミユ




