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ここは世界で一番空に近い檻 ディストピア一歩手前のオメガバースの世界で運命の番が幸せになるまで  作者: 庭師K炎


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お出かけとイッテキマス

タダイマとセットで

 食事の席でこのあとの予定を話し合う、なんていう効率的な時間の使い方はしばらくできなさそうだ。

 そう思えるほど、俺たちは美味しい朝食を夢中になって食べた。


 皿に出され提供されていたものを全て平らげたあと、中央に置かれていた焼いてない食パンにジャムをたっぷりとつけて、これもまた美味しくいただいた。


 カミユは始終感動しっぱなしだった。

 そして、みつきが俺たちとは比べものにならないくらい少ない彼女自身の食事を食べきる前に、俺たちの食事は終わってしまった。


 サクサクと音の立つトーストを一生懸命咀嚼して、飲み込んで、みつきは心配そうに声をかけてくる。


「お腹、膨れました? 足りませんでした? どうしよう、他にもなにか……」


 そう言って、自分の食事を終えてもいないのに席を立とうとする。


 確かに、俺もカミユも決して満腹だと言える量ではなかった。

 だけど、彼女の心尽くしは十分理解できたし、なにより俺たちにまだなにか食べさせるために、彼女の食事を途中で中断させることを良しとはしたくなかった。


「ああっ、いい、いい。座って飯を食ってくれ」

「そうだよ、みつきサンは食べてて」


 引き止めると、みつきはためらいながらも席を立つのをやめる。


「確かに、もう少し量があったほうが助かる。だけど今日はこれでいい。ありがとう」


 みつきは肩を落とし、力なく微笑んだ。


「そうだよ。俺らがどれだけ食べるかなんてみつきサンまったく知らないんだから。それに俺、このあとコンビニ寄って、噂のタマゴサンド買いたいんだ。他になにが美味いか、教えてほしい。だからみつきサンの美味い飯でお腹いっぱいにならないのは惜しいけど、ちょうどいい」


 うきうきしているカミユを見て、みつきの申し訳なさそうな雰囲気が少し緩和される。


「このあとカミユの携帯を買いに行くんだが、あんたの予定は?」

「あ、……え?」


 なにを聞かれたか分かっていない様子に、もう一度言い直す。


「カミユと買い物に出るが、あんたも来るか? 俺は午後も予定があるから、そのままカミユと外で昼飯を食べるつもりだ。みつきはどうする?」


 みつきは大きく目を見開いて、驚いていた。

 手に持っていたトーストが強く握られて、クシュッと潰れてしまう。


「……えっと、午前中はオンライン授業で、勉強で、午後は抑制剤の調整と、明日の準備とネットスーパーで頼んだものが来るから、受け取らなくちゃいけない、……です」


 みつきの一日の予定は、もうしっかりと詰まっていた。


「そうか。じゃあまたの機会だな」


 都合が合わないならしかたがない、と引いた俺に、みつきは唇を引き結んだ。

 その仕草の意味に、そのときは気づかなかった。


「よし。みつきサンが食べ終わったら、オススメの食べ物教えて。それとお土産なにがいいか」

「え…?」


 カミユの提案にも、みつきは疑問を浮かべる。


「みつきサンはなにが好き? なにお土産に買って帰ってきてほしい?」


 カミユは手早く、空になった皿を手元に集めはじめた。


「えっと、えっと、……カミユくんが初めて見たって思ったお菓子を一つ、私の分もお土産にお願いします」

「任された。お皿、全部ディッシュウォッシャーに突っ込んでいいよね? ルティも自分の皿、持ってきて」

「はいはい」


 カミユに急かされて、のろりと皿を集めて持っていく。

 みつきは自分がまだ食事を食べ終えていないことにようやく気づいて、ずっと持っていたトーストを慌てて口に詰め込んだ。


 小さな口を一生懸命もぐもぐさせている姿を横目に、カミユに皿を渡して任せて、ポケットの携帯を取り出した。


「あー…、……みつき。昼飯のオススメの店、どこかいいところはあるか? メッセージのアカウントを教えてくれ。地図付きで知りたい」


 みつきの側まで寄って、携帯を差し出した。

 こくりと咀嚼したものを飲み込むと、みつきは小さな手で口を押さえながらうなずいた。


「ヴァルティさんは、どんな食べ物が好きですか?」


 尋ね返されて、胸が温かくなったのを確かに感じた。

 どうやら彼女は俺のことを「ヴァルティさん」と呼ぶことに決めたようだ。



 ……一瞬、そんな呼び方だったか? と疑問を感じた。



「携帯買ったら、俺にもアカウント教えてね。みつきサン」


 カミユも戻ってきて、みつきに念を押した。


「はい」


 嬉しそうに微笑んだみつきを見て、勝手に口元が緩んだ。




 みつきが食事を終えて、俺たちが出かける直前に、彼女は俺とメッセージの交換をして、お互いのアカウントを登録し合った。


 すぐに、いくつか地図付きでオススメの店を送ってきてくれた。


「いってらっしゃい」

「イッテキマス」


 見送ってくれるみつきに、カミユが元気に返す。


「……イッテキマス。これもWhen in Rome.(郷に行っては郷に従え)か?」


 カミユの真似をして言ってみた。


「そう。家に帰ってきたら、タダイマ、とセットね」


 ああ、それはなんとなく聞いたことがある。

 もう一度みつきの顔を見て、改めて告げる。


「いってきます」

「はい、いってらっしゃい」


 手を振るみつきを残して、俺たちは初めてこの街での自由な買い物へと出かけた。





ヴァルティ

カミユ

みつき

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