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ここは世界で一番空に近い檻 ディストピア一歩手前のオメガバースの世界で運命の番が幸せになるまで  作者: 庭師K炎


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朝食の風景

洗濯の仕方も、牛乳パックも

 帰り着いて、リビングへ行くと、やっと帰ってきたか、とばかりにカミユが苛立った表情で俺を見た。


「ルティ、おっそい!!」

「悪い悪い」


 そして謝る俺の汗だくの姿に、ぎゃっ、と短い悲鳴を上げた。


「その格好で席に着いたら絶対後ろから飛び蹴りするからな?! 先にシャワーだろ!! あーっ、この期に及んでまだ待つの?!」


 腹ペコ過ぎてイライラMAX。

 そんな言葉がぴったり当てはまりそうなカミユを、みつきがクスクスと笑う。


「じゃあ、あと七分だけ待つって決めちゃうのはどう?」


 そんな提案をしてくる。


「どうして七分?」


 みつきは食卓に小さな瓶をいくつも運び終えて、カミユに向き直った。


「パンをトーストするのにかかる時間が七分だからです。さっとシャワーだけだったら、それくらいでできますか? ヴァルティさんの分はその後に焼きますから、少し遅れても大丈夫ですよ?」


 そう言って、みつきは既に食卓に並べてあったホワイトブレッドらしきものを乗せた皿を持った。


「え?! そんなふわふわ焼いちゃうの?! ショクパン!!」

「焼いても美味しいんですよ? バターをあと乗せするか、塗って焼いちゃうかでも美味しさは違うんだから」


 みつきがオススメしてくれる食べ方に、カミユは贅沢な混乱を見せている。

 そして、二人のやりとりをじっと見ていた俺にハッとなって、叫んだ。


「ルティはぼーっとしてないでシャワー!!」

「あ、ああ」


 急かされて、部屋に着替えを取りに行き、浴室へ向かうために戻ってきた。

 その途中で、みつきも慌てて俺に声をかけてきた。


「あのっ、カミユくんにはもう言ったんですけど、洗濯物は、洗濯物だけは絶対に私が全部やります!!」


 足を止めて、みつきに向き直る。

 ……汗臭いって言われないといいが。


「洗濯物を全部ってどういうこと?」

「日常の洗濯物は、全部まとめて洗います。よほど汚れているとか、どうしても自分で洗うというこだわりのないものは、洗濯機に入れておいてください。洗って、干して、乾いたらお部屋のベッドの足元に届けます」


 干して?

 みつきの言葉に首を傾げる。


「洗濯機を使うな、なんて言いません。乾燥機も使いたいなら使ってください。でも毎日の基本の洗濯と干すのと取り込みは私がやります!! あと、私の洗濯物は触らないで欲しい…っ」


 かなり切実な懇願と訴えだ。


「分かった。洗濯のやり方一つであんたの心の平穏が守られるならそうしてくれ。俺は従う。……でも、干すの、の意味が分からないんだけど?」


 みつきは目を丸くして、ちょっと考えて、カミユのことも見た。


「正直、俺もよく分かってない」


 どうやらカミユにも、洗濯物の案件について先んじて了承だけは得ていたらしい。

 だが、きちんと意味が分からないまま、カミユもまたみつきの要望を受け入れていた様子だ。


「……洗濯物を、洗います」

「うん」


 説明をはじめたみつき。

 俺とカミユがうなずく。


「バルコニーのサンルームに持っていって干します」

「うん?」


 二言目でダメだった。


「なんで持ってくの?」

「そのままランドリーで乾燥じゃないの?」


 質問を飛ばす俺たちに、みつきも首を傾げる。


「乾燥機は雨続きの日に使います。お日様が出ているときは、干します」


 一片の間違いもないと言い切るみつきの真っすぐさに、これは口で説明を受けるよりもそのうち見たほうが早い、と思い直して、それ以上の追及を止めた。


「分かった。あんたの思うようにしてくれ。じゃ、シャワー浴びてくる」

「はい」


 ホッとした様子のみつきを見て、間違った選択をしていないことに、こちらもまたホッとした。



 ……ゆくゆく、このときの選択にも驚愕するときが来るんだけど、それもまたずいぶん先の話だ。





 俺が手早くシャワーを終えて、軽くだけ髪を乾かして戻ったときには、もう待ちきれずに朝食に手をつけ始めていたカミユが、食卓に突っ伏すんじゃないかという勢いで身体を折り曲げて悶えていた。


 なにが起こったんだと思いながら席に着く。

 カミユの手にはトーストされた、先ほど彼がショクパンと叫んでいたブレッドが握られている。


「なにやってんだよ?」

「……美味いんだよ、とんでもなく」


 そう俺に答えて、カミユはもう一口、トーストされたショクパンにかじりついた。


 サクリと音が立つ。

 そしてまた打ち震えるカミユの様子に、勝手に期待が込み上げて、今にも腹が鳴りそうになった。


「はい、ヴァルティさんの分も焼けましたよ」


 コトリ、と俺の前に皿が置かれる。


 二枚のトーストされたショクパン。

 その他にも俺のために用意された、二つのサニーサイドアップ(目玉焼き)とカリッと焼いた厚切りベーコン。色とりどりのパプリカのマリネが乗ったサラダ。粒のコーンが浮いたスープ。そして、足りなければどうぞとばかりに、俺とカミユの真ん中に小さなバスケットに入った焼かれていないショクパンが置かれていた。


 小さな瓶も並べて置いてある。どうやらジャムなんかのスプレッドのようだ。

 見たところ、ストロベリー、アップル、ピーナッツバター、残り二つは見ただけじゃなにか分からなかった。(あとでみつきが教えてくれた。あんことさつまいもペーストだそうだ)

 バターとマーガリンも置いてある。


 飲み物は水とミルク。スリムな一リットルパックのミルクだ。母国ではガロンのプラスチックボトルか、ハーフガロンのパックで見慣れているから、ずいぶん小さく見えた。


 自分でミルクをコップに注いで、忘れていなかった挨拶を口にする。


「イタダキマス」


 それを聞いて、みつきが嬉しそうに微笑んだ。


「このショクパン、みつきサンが作ったんだぜ」

「え?」


 ……数秒後、先ほどのカミユと同じように、食卓に突っ伏す勢いで悶える俺を見て、カミユがひどく満足げに笑った。





ヴァルティ

カミユ

みつき

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