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ここは世界で一番空に近い檻 ディストピア一歩手前のオメガバースの世界で運命の番が幸せになるまで  作者: 庭師K炎


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19/62

お部屋とお風呂

入浴文化とバスボムと

 食事が済んで、俺たちは部屋へ案内された。


 主寝室はみつきが使っているそうだ。

 その隣の部屋が俺、そのまた隣の部屋がカミユにあてがわれた。


 手で持ってきたバックパック一つ分の荷物を部屋に運び、中を見渡す。

 足もしっかり伸ばして眠れそうな大きなベッド。大きめのクローゼット。その他の家具はない。


 ブラインドがしっかり下りた窓に手を伸ばして隙間を作り、外を見てみたが、変わらずに静謐な闇夜が広がっているだけだった。


 小さな足音が廊下を歩いていく。

 隣のカミユの部屋へ向かうみつきが、開けっ放しのドアの向こうに見えた。


 同じく開け放たれていたカミユの部屋のドアを、それでもノックする音がした。


「カミユくん、お風呂、先にどうぞ」

「え、あ、はい? 風呂……、はい!!」


 カミユが戸惑いながら返事をして、廊下へ出てくる。


「あの、お風呂の使い方の説明を一緒に聞いていただけますか?」


 俺も廊下へ出てきたものだから、みつきはついでとばかりに俺たちを引き連れて、バスルームを案内してくれた。



「バスタオルはここにあります。使ったらランドリーの洗濯機に入れておいてください。着替えとかはお持ちですか?」


 立派な脱衣所で、浴室の設備の使用方法を軽く教えてくれたあと、みつきはバスタオルの位置や、ランドリールームの場所を指差して教えてくれた。


「お持ちでないなら、今の時間、下着やシャツはコンビニでも買えますけど」

「コンビニ!!」


 止める間もなく、カミユが興奮して飛び上がる。

 そして、すぐに冷静になった。


「え? 下着やシャツがコンビニで買えるの?」

「売ってます。それに、男性用のシャンプーとか、今すぐ必ず必要ですか? それもコンビニで売っているけど、一日だけ、私が使っているので我慢してくださったら明日ドラッグストアにでも行って色々買えますけど」

「ドラッグストア? ……一般のファーマシー(調剤薬局)に用はないぜ? 抑制剤は明日から秋露センセイが調整し直してくれるし」


 先ほど、食事を終えたすぐにそれぞれが飲んだ抑制剤のことを思い出した。


 そして、みつきの言っているドラッグストアと、俺が言ったドラッグストア(ファーマシー)の噛み合わなさに、短く沈黙が落ちた。


「もしかして全然お店としてのイメージが違う? あの、ドラッグストアは、お薬も売っているスーパーのようなお店です。目薬とか、市販の風邪薬とか、湿布とかも買えて、シャンプーとか歯ブラシとかも売ってます」


 なるほど、と納得していると、カミユがやっぱり目を輝かせて身を乗り出してきた。


「それって、めっちゃデカいディスカウントストアみたいな?! マッチャのチョコレート菓子いっぱい売ってるとこだ?!」

「お菓子は売ってるけど、間違ってないけど……、なんだかな……」


 否定こそしなかったが、みつきはどうやら思うところがあるのか、考え込んでしまった。


「まあ、一日くらいシャンプーがまともじゃなくても我慢はできるぜ? 死んじまうわけでもねぇんだから」


 カミユも同意してうなずく。

 ただし、息子の思考は、もう明日の買い物に思い馳せ、埋め尽くされているようだった。

 今まで一度たりとも悩んだことがなかったカミユの小遣いの使い道を、しばらくの間チェックすべきか? と真剣に悩んだ。


「じゃあ、一番にお風呂に入る方に。はい」


 難しく考えることをやめたみつきは、先ほど洗面所の前を通ったときから持っていたなにかを、カミユの手にぽんと渡した。


 少年の手のひら大のなにか。

 カラフルな絵が描いてあり、説明が色々書いてあったけれど、細かいこの国の言葉で書いてあるため、カミユには読めそうにない。


「バスボムです。では、ゆっくり入ってくださいね」


 それだけを言って、みつきは気を遣ってか、そそくさと出て行ってしまった。

 こうすることが当たり前なんだというようななんでもなさで。


 さっき説明を受けたときにも見たけれど、立派な浴槽には、もう既にたっぷりの湯が張られている。

 みつきがいなくなったあと、俺とカミユはお互いの顔を見合わせた。


「……これが『イタレリツクセリ』ってやつ?」

「なにそれ? 何の呪文?」


 カミユが呟いた呪文に俺が首を傾げても、息子は反論すらしてこなかった。


「お言葉に甘えようぜ。長距離移動で疲れてるし、湯船に入るのもいいだろう。お前の服、取ってきておいてやるからさっさと入っちまえ」 

「うん、そうする」


 脱衣所を出る。


 リビングのほうへ戻ると、キッチンでみつきが食事のあとの食器を食洗機に入れてボタンを押しているところだった。


 カミユのための部屋まで来て、バッグから彼の着替えを取り出す。


 また通り過ぎるリビングからキッチンのみつきを見ると、彼女は鼻歌を歌いながら、なにか、粉のようなものを計量していた。


 またなにか料理でも作るんだろうか?

 本当に料理が好きなんだな、と考える。


 彼女が俺たちに振る舞ってくれた料理も、楽しく作ってくれているならいい、と安堵にも似た感情を覚えた。


 洗面所を通り抜けて、脱衣所まで戻ってくる。


「カミユ、服置いとくからな」

「サンキュー、ルティ…、うわーっ?! バスボムからスシ出てきた?! なにこれ?! 玉子のスシ!!」


 浴室内で、カミユがワケの分からないことを叫んでいる。


「……、今日はもう疲れた……」


 さすがにこれ以上構ってやれなくて、大興奮の息子を放って部屋に戻った。 





ヴァルティ

カミユ

みつき

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