カミユへの提案? 同意と追い打ち
聞かなくても分かるときはある
「カミユくんは学校に通うからね。給食のかわりの学食はあるけれど、その日の気分でお弁当持参も選べるんだ」
秋露の説明は、カミユに対しての説得に移行した。
「ベントーッ?!」
カミユはまたユサユサと俺を揺する。
「もちろんその分の費用は、カミユくんに支払われる研究協力費などの必要な学費内に含まれている。お弁当を買って食べてもいいし、あの学校の学食の食事もオススメだよ? とても美味しい」
秋露の説明に、先ほどからお弁当という言葉に、みつきがそわそわしている。
そんなみつきの挙動に、秋露が気づいていないわけがない。
「みつきは時々私にお弁当を作ってくれるんだ。望めばカミユくんの分のお弁当も作ってくれるはずだよ」
だから秋露は、そんなみつきを目を細めて見ながら、確認した。
コクコクとみつきは黙って何度もうなずく。
「オレのためのベントー…!!」
カミユの目がますます輝いた。
「言い忘れていたけれど、みつきの料理の腕は大したものだよ。飲食店には飲食店の良さがあって私たちも外食はするけれど、……私たちはαだ。Ωが心を込めて作った食べ物というものを口にして、得られるものがどんなものか、身をもって味わえるよ」
変わらない穏やかな話し口調ではあったが、今、初めて秋露の説明に恐怖を感じた。
お料理グッズに釣られて同居生活を許す中で。
食べ物に釣られて同居生活を許す中で。
αとΩという、逃れられない己の性が初めて明確に絡みついた。
その不安を、逃れられない現実の苦労をカミユに味わわせていいものかと内心、逡巡する。
そんな俺の瞬間的な戸惑いをまるで見透かしたかのように、秋露は俺を見て、言葉を続けた。
「ヴァルティくんはもう、みつきの作ったものを一度食べているけれどね」
さらりとなんでもないことのように、とんでもないことを言う。
「は……?」
驚くと同時に、即座に思考を巡らせる。
みつきが作った食べ物?
……、……二年前、初めてセンセイ様に会ったときにもらったクッキー。
勝手にブルリと身体が震えた。
それはこれから自分の身に訪れる未知への恐怖だったのか、それともあのときにもう体感した、既知の、美味さを改めて味わえるという歓喜だったのか。
どちらにせよ、それほど遠くないうちに、下手をすれば数時間以内に、俺はまたとんでもない体験を味わわされると決まってしまったと言っても過言じゃない。
思わず、みつきを見た。
俺と目が合ったみつきも驚いている。
「みつきとカミユくんは、同居生活に対して同意でいいかな?」
ハッとして、みつきは秋露に振り返った。
良いとも嫌とも言い難いようだ。
納得してしまうだけの利益は提示されたが、最後の理性と羞恥が、素直にうなずくことをためらわせているようでもあった。
だがそれこそが、了承を前提に理解していることに他ならない。
あとは口に出して「はい」とでも言うだけを、言えずにいる。
そんなみつきの態度に。
「このあとヴァルティくんを説き伏せたら住居へ案内するけど、みつき、準備はいいのかい?」
「え……、準備? 家の中はいつも散らかしていません。秋露おじさんも知っているでしょう? 使わない部屋は使わないし」
「うん、みつきが綺麗好きなのは分かってるよ? でも、さすがに今から同じタイミングで、家に入りますよ、今から一緒に住みますよ、と言って中に通すには、心づもりもいるだろう? 例えば……」
例えば、と言っておきながら、秋露はその続きの言葉を言わなかった。
彼女をじっと見て、にこにこしているだけ。
そんなみつきの目がすうっと泳いで、顔色がさあっと青くなって、両手で口を押さえて、小さな声で叫んだ。
「今日の洗濯物…っ!!」
みつきは飛び上がって、機敏な動きで身をひるがえした。
「一時間以内にはそっちに向かうからねー」
「いやぁあああぁっ!!」
バタバタと大慌てで、みつきは部屋から飛び出していった。
思わず、ドアがバタンと閉まり切るまでを呆然と眺め見てしまった。
秋露はくつくつと愉快そうに喉を鳴らしている。
……みつきからの同居生活の了承を改めて聞く必要はないとばかりに。
秋露
ヴァルティ
みつき
カミユ




