第46話 最後の観客席
劇場は、
静かだった。
巨大な円形空間。
崩れた赤い客席。
天井へ走る演算リング。
無数のモニター。
その全てが、
冷たい白光に照らされている。
中央舞台だけが、
ぽっかり闇に沈んでいた。
シオン達は、
ゆっくり中へ入る。
足音が響く。
まるで。
誰もいなくなった世界だった。
アスターが小さく呟く。
「……ここ、
変」
グレンが低く答える。
「昔は違った」
シオンが振り返る。
グレンは客席を見上げていた。
「中央区が出来る前、
ここは本当に劇場だった」
静かな声。
「下層の人間も、
普通に来れた」
エヴァが意外そうな顔をする。
「アンタ、
来たことあるの」
「ああ」
グレンは少し笑った。
「ガキの頃な」
その笑みは、
妙に寂しかった。
その時。
劇場全域へ、
無機質な女声が響く。
『侵入者を確認』
『感情汚染率上昇』
『修正を開始します』
次の瞬間。
客席の暗闇へ、
無数の赤い光が灯った。
シオンが息を呑む。
人影。
観客席すべてに、
黒い人型機体が座っていた。
静かに。
まるで観客みたいに。
アスターが震える。
「……やだ」
赤い単眼が、
一斉にこちらを向く。
エヴァが即座に銃を構えた。
「来る!」
轟音。
観客席から、
人型機体群が飛び降りる。
金属音。
衝撃。
劇場全体が戦場へ変わった。
ローズが前へ出る。
銀色の残光。
一機を切断。
さらに回転して二機目を叩き潰す。
だが。
敵が多すぎる。
まるで。
終わらない拍手みたいに、
次々降ってくる。
エヴァが発砲する。
グレンが援護する。
火花。
爆発。
赤い照明。
その中で。
シオンだけが、
舞台中央を見ていた。
暗闇。
誰かいる。
そんな気がした。
その瞬間。
舞台照明が点灯した。
白い光。
舞台中央。
そこに、
ひとりの少女が立っていた。
白いドレス。
長い黒髪。
裸足。
年齢は、
シオン達と同じくらい。
だが。
瞳だけが、
機械みたいに赤い。
アスターが息を呑む。
「……誰」
少女は静かにシオンを見る。
それから、
ほんの少し首を傾げた。
『観測対象、
シオンを確認』
声が重なる。
少女の声と、
都市AI音声。
完全同期。
シオンの背筋が凍る。
アベルの顔色が、
初めて明確に変わった。
「……まさか」
少女が舞台から降りる。
静かな足音。
『中央演算補助人格ユニット』
『識別名——EVE』
静寂。
エヴァの表情が凍った。
「……は?」
少女――EVEは、
ゆっくりエヴァを見る。
赤い瞳。
感情のない顔。
『戦闘補助端末EVAとの、
構造一致率87%』
地下が静まり返る。
エヴァの呼吸が止まる。
グレンが低く呟く。
「おい……
冗談だろ」
アベルは、
ただEVEを見ていた。
その目には、
初めて明確な後悔があった。
EVEは静かに言う。
『感情ノイズ確認』
『原因個体、
ROSEを優先排除します』
次の瞬間。
舞台照明が真紅へ変わる。
EVEの身体が消えた。
高速。
ローズの瞳が見開かれる。
轟音。
二人の衝突で、
劇場舞台そのものが砕け散った。




