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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第4クール「選択の都市」

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第37話 地下搬送路

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

地下は静かだった。


静かすぎて、

逆に息が詰まるほど。


錆びた搬送レールが、

暗闇の奥へ続いている。


天井の非常灯だけが、

弱々しく点滅していた。


シオン達は歩いている。


エヴァが先頭。


銃を構えたまま、

足音を殺して進む。


アスターはシオンの手を握っていた。


冷たい。


小さな手。


シオンは少しだけ握り返す。


遠くで、

低い振動音が響いた。


都市上層を走る警備輸送機。


地下にいても、

追われている感覚が消えない。


エヴァが低く言う。


「止まって」


全員が止まる。


静寂。


その数秒後。


頭上で、

重い駆動音が通過していった。


監視ドローン。


シオンは息を止める。


やがて音が遠ざかる。


エヴァが小さく舌打ちした。


「前より数増えてる」


その時。


通信機が微かに鳴る。


グレンだった。


ノイズ混じり。


『聞こえるか』


エヴァが応答する。


「ギリギリ」


『地下網、

半分死んでる』


背後で爆発音が響く。


グレン側も危険地帯らしい。


『中央区閉鎖が始まった』


シオンの顔が強張る。


グレンは続ける。


『急げ。

旧搬送路も、

いつ封鎖されるか分からん』


通信が乱れる。


シオンが思わず聞く。


「グレン、

どこにいるの」


数秒。


雑音。


そのあと、

低い声が返る。


『仕事中だ』


エヴァが眉を寄せる。


「また無茶してるわね」


グレンは鼻で笑った。


『若い連中だけ働かせるか』


その奥で、

誰かの怒鳴り声が聞こえた。


銃声。


通信が一瞬途切れる。


シオンの顔色が変わる。


「グレン!」


『騒ぐな』


荒い息。


だがまだ生きている。


『地下案内屋を捕まえた』


エヴァの目が細くなる。


「誰」


『昔の知り合いだ』


グレンは少しだけ黙る。


『……中央区の死角を知ってる』


空気が変わる。


中央区。


そこは今、

都市で最も侵入不可能な場所だった。


エヴァが低く聞く。


「信用できるの」


『できん』


即答だった。


シオンが少し驚く。


グレンは続ける。


『だが他に道もない』


その言葉が、

今の状況そのものだった。


地下通路を風が抜ける。


冷たい。


アスターが少し震える。


シオンは自分の上着を掛けた。


その時。


地下奥から、

小さな光が見えた。


誰かいる。


エヴァが即座に銃を向ける。


緊張。


だが現れたのは、

中年の女だった。


疲れた顔。


作業服。


両手には袋を抱えている。


女はシオン達を見る。


その視線が、

アスターで止まった。


それから。


何も言わず、

袋を床へ置いた。


缶詰。


水。


簡易薬品。


エヴァは警戒したまま聞く。


「……なんのつもり」


女は視線を逸らす。


「南区画で見た」


小さな声。


「白い子が、

子供庇ってた」


ローズのことだった。


女は続ける。


「うちの弟も、

TARGETで消えた」


静かな声。


怒鳴りもしない。


泣きもしない。


ただ、

疲れ切っていた。


「……だから、

放っておけない」


地下通路が静まる。


シオンは言葉を失う。


女は長居しなかった。


「監視巡回、

あと七分で来る」


それだけ言い、

暗闇へ戻っていく。


アスターが小さく呟く。


「……やさしい人」


シオンは袋を見る。


世界は壊れ始めている。


でも。


全部が敵じゃなかった。


その時。


エヴァの端末へ、

緊急通信が入る。


グレンだった。


だが今度は、

様子がおかしい。


激しいノイズ。


荒い呼吸。


『……まずい』


背後で銃声。


怒号。


グレンが低く言う。


『追跡が来た』


シオンの背筋が凍る。


グレンは息を切らしながら続ける。


『データだけ送る』


端末へ、

地下構造図が転送される。


中央区旧搬送ルート。


侵入可能経路。


危険区域。


エヴァの顔が変わる。


「グレン、

あんた今どこ」


返事の代わりに、

爆発音が響く。


通信が激しく乱れる。


その奥で。


誰かの声が聞こえた。


『見つけたぞ!』


グレンの荒い息。


そして。


『……走れ、ガキ共』


通信断。


地下通路が静まり返る。


シオンの呼吸だけが、

やけに大きく響いていた。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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