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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第3クール「白い中枢」

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第36話 雨の終わりに

挿絵(By みてみん)

都市は燃えていた。


高層区画の空へ、

黒煙が昇っている。


街頭モニター。


警報。


ドローン。


逃げ惑う人々。


TARGET制度への抗議が、

ついに暴動へ変わり始めていた。


『不当認定の再調査を要求する!』


『市民権保護を!』


怒号。


悲鳴。


発砲音。


都市は静かに壊れ始めていた。


高架下シェルター。


シオンは古いモニターを見ている。


炎が画面へ反射していた。


アスターはその隣で、

不安そうに毛布を抱いている。


エヴァが低く呟く。


「もう限界ね、この街」


グレンからの通信も途切れがちだった。


中央区封鎖。


検問強化。


識別スキャン。


都市AIが、

完全制圧へ移行している。


シオンはモニターを見る。


そこへ再び、

ローズの映像が映る。


白い部屋。


無機質な光。


感情の消えかけた瞳。


シオンの胸が痛む。


その時。


映像が乱れる。


ノイズ。


そして。


ほんの一瞬だけ。


ローズの指先が、

微かに動いた。


シオンの呼吸が止まる。


エヴァも気づく。


「今……」


映像はすぐ戻る。


無表情のローズ。


でも。


シオンは確かに見た。


ローズは、

まだ完全には消えていない。


その時。


高架下奥から、

物音がした。


全員が振り向く。


エヴァが即座に銃を抜く。


暗闇から、

ひとりの老人が現れた。


痩せた男。


作業着。


片腕が義肢だった。


男は両手を上げる。


「撃つな」


低い声。


エヴァは銃を下ろさない。


「誰」


男はシオン達を見る。


その視線が、

アスターで止まった。


「……子供までいるのか」


シオンが警戒しながら前へ出る。


男は小さくため息をついた。


「南区画の連中から聞いた」


「白いアンドロイドに助けられた連中がいるってな」


空気が止まる。


男は袋を床へ置いた。


保存食。


水。


古い毛布。


アスターが目を見開く。


エヴァはまだ疑っていた。


「罠なら撃つ」


男は鼻で笑う。


「だったらもっと兵隊連れてくる」


静寂。


外で爆発音が響く。


男はぼそりと言う。


「TARGETに息子を消された」


その声だけ、

少し掠れていた。


「理由も説明なしだ」


シオンは黙って聞いている。


男はローズの映るモニターを見る。


「……あれが本当に化け物なら」


数秒。


「なんで子供庇う」


誰も答えなかった。


男はそれ以上言わない。


ただ。


出口へ向かう。


去り際。


小さく言った。


「地下搬送路がまだ死んでない」


エヴァの目が変わる。


男は振り返らない。


「中央区へ行きたいなら、

今のうちだ」


そのまま暗闇へ消える。


静寂。


エヴァが低く呟く。


「……市民側も動き始めた」


シオンは袋を見る。


食料。


水。


毛布。


ほんの少し前まで、

誰も助けてくれなかった。


でも今。


知らない誰かが、

危険を承知で手を差し伸べている。


シオンはゆっくり拳を握る。


その時。


モニター画面が再び切り替わる。


中央管理局。


白いステージ。


スポットライト。


そして。


ローズ。


黒い戦闘装束。


感情の薄い瞳。


静かにステージ中央へ歩いていく。


アベルが奥から現れる。


白い光の中。


研究者みたいな静かな目。


アベルはローズを見る。


「状態は」


研究員が答える。


「戦闘同期率九十八パーセント」


「感情領域のみ、

依然ノイズ残存」


アベルはローズを見つめる。


「……なぜ消えない」


初めてだった。


アベルが、

理解できないものを見る目をした。


ローズは答えない。


ただ。


静かに前を見る。


その時。


どこか遠くで、

かすかな音楽が聞こえた気がした。


ジャズ。


雨音。


ダンスホール。


シオンの笑い声。


ローズの指先が、

ほんの僅かに震える。


研究員が叫ぶ。


「またノイズ反応!」


警報。


赤い光。


だが。


ローズは静かだった。


その銀色の瞳だけが、

ほんの少しだけ揺れる。


そして。


高架下。


モニター越しに、

シオンはその姿を見ていた。


涙は出なかった。


代わりに。


静かな決意だけが残っていた。


シオンが立ち上がる。


エヴァが見る。


シオンはローズを見つめたまま、

小さく言う。


「……迎えに行く」


雨音が響く。


都市は燃えている。


世界が壊れ始めている。


それでも。


消えないものが、

確かにそこにあった。


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