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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第3クール「白い中枢」

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第34話 雨の記憶

挿絵(By みてみん)

雨だった。


高架下の外で、

静かに降り続いている。


シオンは眠れなかった。


毛布へ包まったまま、

ぼんやり天井を見ている。


アスターは隣で眠っていた。


小さな寝息。


時々、

不安そうに身体が揺れる。


シオンは静かに毛布を掛け直した。


その時。


エヴァが奥から戻ってくる。


濡れたコート。


煙草の匂い。


シオンを見る。


「寝ないの」


「……寝れない」


エヴァは何も言わない。


壁へ背を預ける。


雨音。


遠くで警報。


都市はまだ騒がしかった。


シオンがぽつりと言う。


「ローズ、

今なにされてるんだろ」


エヴァはすぐ答えなかった。


それが逆に怖い。


数秒後。


「考えない方がいい」


静かな声。


シオンは俯く。


でも考えてしまう。


白い部屋。


拘束。


冷たい機械。


ローズが、

少しずつ消えていく想像。


胸が苦しくなる。


シオンは小さく呟く。


「……私、

また守られてばっかだった」


エヴァが横目で見る。


「そうね」


否定しない。


シオンは苦く笑う。


「ひど」


「優しく慰めてほしい?」


「……別に」


エヴァは小さく煙を吐いた。


「でも事実よ」


静かな声。


「ローズは、

あんたを守ろうとして捕まった」


その言葉が刺さる。


シオンは唇を噛む。


エヴァは続ける。


「だから次は、

あんたが行く番」


シオンが顔を上げる。


エヴァの目は真っ直ぐだった。


逃げていない目。


「助けたいなら、

立つしかない」


雨音。


シオンは拳を握る。


怖かった。


今でも。


銃声を聞くだけで身体が固まる。


血を見ると吐き気がする。


でも。


ローズを失う方が、

もっと怖かった。


その時。


アスターが寝言みたいに呟く。


「……おかあさん」


シオンの胸が止まりそうになる。


エヴァも静かになる。


アスターは眠ったまま、

少しだけ眉を寄せていた。


シオンはその横顔を見る。


小さい。


守られなきゃ生きられないくらい。


なのに。


あの時、

ローズを庇おうとした。


シオンは静かに目を伏せる。


その瞬間。


頭の奥で、

何かが引っかかった。


雨。


冷たい床。


暗い部屋。


小さな自分。


誰かの声。


『シオン』


優しい声。


シオンの呼吸が止まる。


映像は一瞬だった。


すぐ消える。


でも。


今までより、

少しだけ鮮明だった。


シオンは額を押さえる。


エヴァが気づく。


「どうした」


「……分かんない」


シオンは苦しそうに言う。


「最近、

変なの思い出す」


エヴァは黙って聞いていた。


シオンはゆっくり話す。


「雨の日の記憶」


「知らない部屋」


「誰かの声」


震える声。


「でも顔が思い出せない」


エヴァは少し考えた。


それから低く言う。


「人間、

極限になると埋まってた記憶が浮くことある」


シオンはぼんやり雨を見る。


「……私、

どこから来たんだろ」


初めて口にした言葉だった。


自分の過去。


今まで考えないようにしてきた。


生きるだけで必死だったから。


でも。


ローズと出会ってから。


少しずつ、

空っぽだった場所へ、

感情が入り始めている。


エヴァが静かに言う。


「知りたい?」


シオンは数秒黙った。


それから小さく頷く。


「……うん」


エヴァは煙草を消す。


「なら生き残りな」


冷たい言い方。


でも。


少しだけ優しかった。


「死んだら、

何も思い出せない」


雨音だけが響く。


シオンはゆっくり拳を握る。


怖い。


でも。


逃げたくなかった。


その時。


高架下奥の古いモニターが突然点灯する。


ノイズ。


警報。


都市中央ニュース。


機械音声が流れる。


『特殊危険個体ROSEの再調整処理を開始』


シオンの顔色が変わる。


モニター画面。


白い部屋。


一瞬だけ。


拘束されたローズの姿が映った。


銀色の瞳。


感情の消えかけた目。


映像はすぐ切れる。


でも。


シオンの呼吸は止まっていた。


エヴァが低く舌打ちする。


「……見せつけてる」


都市側の警告だった。


逃げても無駄だと。


逆らえばこうなると。


シオンは震えながら、

暗くなったモニターを見る。


その拳が、

ゆっくり強く握られていく。


雨音が、

少しだけ強くなった。


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