第31話 切断
排水路へ銃声が響く。
火花。
コンクリート片。
回収屋達が入口から侵入してくる。
強力なライトが暗闇を裂いた。
『生死不問』
無線音声。
『アンドロイド個体を優先回収』
シオンの背筋が冷える。
少女が怯えて震えていた。
エヴァが低く言う。
「奥へ行って」
シオンが少女の手を掴む。
だが。
ローズは動かなかった。
静かに立っている。
銀色の瞳だけが暗闇で光っていた。
シオンが振り返る。
「ローズ!」
ローズは小さく言った。
「ここで足止めする」
シオンの顔色が変わる。
「何言って——」
「このままでは逃げ切れない」
冷静な声。
でも。
どこか静かすぎた。
エヴァが険しく言う。
「時間を稼ぐだけよ」
ローズは答える。
「十分」
その瞬間。
爆発。
入口付近が吹き飛ぶ。
回収屋達が突入してくる。
重武装。
赤いレーザーサイト。
ローズが即座に撃つ。
火花。
敵が倒れる。
エヴァも応戦。
だが数が多すぎた。
シオンは少女を庇いながら後退する。
息が苦しい。
怖い。
でも。
ローズから目が離せない。
ローズは戦っていた。
まるで最初に会った頃みたいに。
正確。
冷酷。
迷いがない。
でも違う。
どこか無理をしている。
感情を押し殺して。
人形へ戻ろうとしているみたいだった。
シオンが叫ぶ。
「戻って!」
ローズは振り向かない。
ただ低く言う。
「シオン」
その声だけで、
胸が締めつけられる。
「君は生きて」
銃声。
轟音。
ローズが敵を撃ち抜く。
だが次の瞬間。
高圧ワイヤー弾が発射された。
ローズの身体へ絡みつく。
電流。
火花。
ローズの動きが止まる。
シオンの顔から血の気が引く。
「ローズ!!」
エヴァが叫ぶ。
「下がれ!!」
さらに複数のワイヤー。
拘束。
ローズが膝をつく。
敵が一斉に距離を詰める。
回収用装備。
完全に、
生け捕り目的だった。
ローズは動こうとする。
だが。
電流が身体を焼く。
白い液体が床へ落ちる。
シオンが駆け出しかける。
エヴァが腕を掴む。
「行くな!」
「離して!!」
シオンは叫ぶ。
涙が滲む。
ローズがこちらを見る。
その瞳。
苦しそうだった。
でも。
どこか静かだった。
ローズは小さく言う。
「……大丈夫」
全然大丈夫じゃない。
シオンは必死に手を伸ばす。
届かない。
敵がローズへ拘束装置を打ち込む。
銀色の瞳が揺れる。
その瞬間。
少女が泣きながら叫んだ。
「やだ!!」
空気が止まる。
少女は震えながら、
ローズを見ていた。
「そのおねえちゃん、
悪い人じゃない!」
回収屋の一人が怒鳴る。
「ガキは下がれ!」
だが少女は動かない。
涙を流しながら叫ぶ。
「やめてよ!!」
ローズの目が止まる。
ほんの一瞬。
感情が戻る。
その隙だった。
回収屋がスタン弾を撃ち込む。
轟音。
ローズの身体が崩れ落ちる。
シオンの呼吸が止まる。
「……ローズ?」
反応がない。
銀色の瞳が、
静かに閉じていく。
回収屋達が即座にコンテナへ収容する。
エヴァが歯を食いしばる。
「シオン!」
シオンは動けなかった。
頭が真っ白だった。
コンテナ搬送車が動き出す。
ローズが連れていかれる。
遠ざかる。
シオンは震えながら呟く。
「やだ……」
届かない。
何もできない。
また。
守れなかった。
その瞬間。
排水路上部で爆発が起きた。
瓦礫。
煙。
グレンの声が通信へ響く。
『今すぐ逃げろ!!』
エヴァがシオンの肩を掴む。
「行くわよ!」
シオンは動かない。
目だけが、
ローズの消えた方向を見ていた。
エヴァが強く言う。
「生きて取り返すの!」
その言葉で、
シオンの瞳が僅かに揺れる。
少女が震えながら、
シオンの服を握っていた。
崩れる排水路。
警報。
都市の赤い光。
シオンは唇を噛む。
血の味。
涙。
そして。
初めて。
胸の奥へ、
静かな怒りが生まれていた。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




