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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第3クール「白い中枢」

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第28話 不要認定

挿絵(By みてみん)

南区画の夜は静かだった。


中央都市みたいなネオンもない。


雨水で汚れた路地。


古い集合住宅。


薄暗い電灯。


都市の外側。


切り捨てられた場所だった。


シオン達は、

使われなくなった整備工場へ身を隠していた。


グレンの知り合いらしい。


もう何年も稼働していない。


油の匂いだけが残っている。


エヴァは壁際へ座ったまま、

拳銃を分解していた。


無駄のない手つき。


でも疲れている。


シオンはそれを見ていた。


以前のエヴァなら、

こんな顔はしなかった気がする。


ローズは奥で通信端末を触っていた。


都市監視網を調べている。


空気は静かだった。


だが落ち着けない。


まるで都市全体が、

外で耳を澄ませているみたいだった。


その時。


外で足音が止まる。


全員の空気が変わる。


ローズが顔を上げる。


エヴァが即座に銃を構えた。


静寂。


数秒。


それから。


ドアの向こうで、

小さな女の子の声がした。


「……だれかいるの?」


シオンが目を見開く。


エヴァが低く言う。


「待って」


ローズは動かない。


足音は一つだけ。


小さい。


子供。


シオンが小さく言った。


「違うと思う」


エヴァはまだ警戒していた。


だが。


ドアが少し開く。


小さな少女。


七歳くらい。


ボロボロの服。


大きな目。


少女は三人を見る。


それから、

ローズを見て止まった。


シオンの胸が冷える。


通報される。


そう思った。


でも少女は小さく首を傾げただけだった。


「おねえちゃん、

けがしてるの?」


ローズの肩。


白い修復跡が見えていた。


ローズは答えない。


少女は近づく。


エヴァが険しい声を出す。


「来ないで」


少女がびくっと止まる。


シオンは慌てて言う。


「ご、ごめんね」


少女はしばらく三人を見ていた。


それから。


ポケットから小さな包みを取り出す。


古い包帯だった。


「これ、使う?」


「弟がよく怪我するから」


空気が止まる。


ローズの目が僅かに揺れる。


少女は無邪気だった。


TARGETも。


危険対象も。


知らない。


ただ。


傷ついてるように見えたから。


包帯を差し出しただけ。


シオンの胸が痛くなる。


エヴァは目を伏せた。


その時。


外のスピーカーから音声が流れる。


『危険対象確認時は通報してください』


都市アナウンス。


冷たい声。


少女が外を見る。


それから小さく呟いた。


「またあれ」


慣れている口調だった。


シオンが聞く。


「怖くないの?」


少女は不思議そうにする。


「なにが?」


シオンは言葉を失う。


少女はローズを見る。


「その人、

そんな悪い人に見えないよ」


ローズが静かに止まる。


その言葉が、

理解できないみたいだった。


少女は少し笑う。


「うちのお母さん、

前に言ってた」


小さな声。


「ほんとに怖い人は、

怖そうな顔してないって」


エヴァが僅かに苦笑する。


シオンも少し笑った。


久しぶりだった。


こんな空気。


その時。


ローズの端末が警告音を鳴らす。


空気が変わる。


ローズが画面を見る。


顔が静かに険しくなる。


エヴァが立ち上がる。


「なに」


ローズが低く言う。


「執行局ネットワーク更新」


数秒。


そして。


「エヴァの識別コードが削除された」


静寂。


シオンが意味を理解できない。


「……削除?」


エヴァは動かなかった。


ローズが続ける。


「執行官権限消失」

「存在記録凍結」


エヴァの顔から、

感情が抜け落ちる。


シオンの背筋が冷える。


それはつまり。


社会的に、

存在を消された。


ということだった。


エヴァが小さく笑う。


乾いた笑い。


「早かったわね」


シオンが言う。


「ちょっと待って……

それって……」


エヴァは壁へ寄りかかった。


疲れた顔。


「私はもう、

この都市の人間じゃない」


その言葉が重かった。


執行官だった。


都市を守る側だった。


その全てを、

一瞬で切り捨てられた。


少女が不安そうに聞く。


「おねえちゃん、

だいじょうぶ?」


エヴァは少し驚いた顔をした。


それから。


ほんの少しだけ笑う。


「……ありがと」


その笑顔は、

初めて年相応に見えた。


だが次の瞬間。


ローズが鋭く振り向く。


「伏せて!」


轟音。


窓ガラスが砕け散った。


銃弾。


少女の悲鳴。


エヴァが即座に少女を抱えて床へ倒れる。


外。


複数のライト。


エンジン音。


武装車両。


スピーカーが響く。


『危険対象を確認』


『抵抗を停止してください』


シオンの顔が強張る。


ローズが低く呟く。


「回収屋……」


赤いレーザーサイトが、

暗闇の中で無数に揺れていた。


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