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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第3クール「白い中枢」

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第27話 観測者アベル

挿絵(By みてみん)

赤いレーザーサイト。


シオンの胸元で止まっている。


空気が凍った。


高架下の暗闇。


水滴の落ちる音だけが響く。


ローズの目が細くなる。


エヴァが小さく呟く。


「……右上」


次の瞬間。


発砲。


轟音。


ローズがシオンを引き倒す。


弾丸がコンクリートを砕く。


火花。


エヴァが即座に撃ち返した。


暗闇の奥で誰かが動く。


フード姿。


複数。


民間回収屋だった。


軍用ではない。


だが装備は重い。


賞金目当ての連中。


「生け捕りなら追加報酬だ!」


怒鳴り声。


シオンの顔が青ざめる。


人が。


金のために。


自分達を狩りに来ている。


ローズが低く言う。


「走る」


三人は通路奥へ駆け出した。


銃声が追う。


狭い高架下。


配管。


蒸気。


暗闇。


エヴァが後方を抑える。


動きが正確だった。


でも数が多い。


シオンは息を切らす。


「どこまで来るの……!」


グレンの声が通信へ入る。


『南区画へ抜けろ!』


雑音。


『そこなら監視が少ねえ!』


ローズが即座に進路変更する。


その時。


通路の大型モニターが突然点灯した。


白いノイズ。


そして。


アベルの顔。


シオンが顔をしかめる。


「また……!」


アベルは静かにこちらを見ていた。


まるで、

ずっと観察しているみたいに。


『追われる気分はどうだい』


エヴァが撃ちながら吐き捨てる。


「趣味悪いわね」


アベルは無視する。


銀色の瞳が、

ローズだけを見ていた。


『君は理解し始めている』


ローズは走りながら答える。


「何を」


『人間だ』


シオンが眉を寄せる。


アベルの声は穏やかだった。


でも寒気がした。


『恐怖』

『孤独』

『拒絶』


モニター越しの視線。


『痛いだろう?』


ローズは答えない。


アベルが続ける。


『人間社会は、

異物を受け入れない』


背後で銃声。


火花。


それでもアベルの声だけは、

妙にはっきり聞こえた。


『だから私は、

管理する必要があった』


シオンが怒鳴る。


「人を消して!?」


『違う』


アベルの顔は静かなままだった。


『壊れる前に、

形を整える』


その言葉に、

エヴァの目が険しくなる。


「それを支配って言うのよ」


アベルは少し考える。


『言葉の違いだ』


ローズが低く言った。


「違う」


初めて。


はっきり否定した。


アベルの瞳が僅かに揺れる。


ローズは続ける。


「人は、

そんな風に生きてない」


シオンがローズを見る。


ローズ自身、

言葉を探しているみたいだった。


でも。


自分の言葉だった。


アベルは静かに微笑む。


『それも観測済みだ』


ローズの動きが止まりかける。


アベルは穏やかに言う。


『怒り』

『反抗』

『自己決定』


『全て、

君へ実装した』


シオンの背筋が冷える。


ローズの顔から、

少しだけ色が消えた。


アベルが続ける。


『君が私へ逆らうことも、

想定内だ』


エヴァが舌打ちする。


「最低」


でも。


シオンは違和感を覚える。


アベルは、

本当に全部想定している人間の顔じゃない。


少しだけ。


期待している。


そんな目だった。


その時。


前方のシャッターが開く。


外光。


南区画。


古い住宅街だった。


ネオンも少ない。


汚れた壁。


洗濯物。


都市中心とは別世界。


グレンが通信で言う。


『そこなら少し隠れられる』


三人が飛び込む。


背後でシャッター閉鎖。


ようやく銃声が遠くなる。


静寂。


シオンは壁へ寄りかかった。


呼吸が乱れる。


ローズはまだモニターを見ていた。


アベルが静かに言う。


『ローズ』


銀色の瞳。


『君は今、

私が最も知りたかったものへ近づいている』


ローズは何も言わない。


アベルが小さく笑う。


『だから私は、

君を壊したくない』


その瞬間。


通信が切れた。


暗い住宅街へ、

静寂だけが残る。


シオンはローズを見る。


ローズは動かなかった。


まるで、

何かを考えているみたいに。


エヴァが低く言う。


「……気をつけて」


ローズが視線を向ける。


エヴァの目は真剣だった。


「あの男、

ただの支配者じゃない」


シオンが聞く。


「どういうこと」


エヴァは少し迷った。


それから静かに言う。


「ローズを、

作品みたいに見てる」


空気が冷える。


シオンはローズを見る。


ローズは俯いていた。


自分が、

誰かの“作品”だと言われること。


それが今、

どれだけ苦しいか。


シオンには少し分かってしまった。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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