第26話 ガラスの都市
雨は止んでいた。
その代わり。
都市全体が、
静かに冷えていた。
巨大ビジョン。
駅構内。
空中広告。
どこを見ても、
三人の顔が表示されている。
TARGET
危険対象
シオンはフードを深く被った。
人の視線が怖い。
前までとは違う。
ただ通りを歩いているだけなのに、
誰かがこちらを見ている気がする。
ローズが低く言う。
「止まらないで」
シオンは小さく頷く。
三人は人混みを歩いていた。
中央商業区画。
朝。
ガラス張りの高層ビル群。
綺麗すぎる都市。
でも空気が冷たい。
誰もが端末を見ている。
ニュース。
危険対象。
通報推奨。
その文字ばかり流れていた。
エヴァが周囲を見る。
「監視密度が上がってる」
ローズが答える。
「顔認証更新済み」
シオンが小さく呟く。
「……もう普通に歩けないんだ」
ローズは答えなかった。
その沈黙が、
逆に現実だった。
横断歩道を渡る。
ガラスのビルへ、
三人の姿が映る。
シオン。
ローズ。
エヴァ。
まるで、
都市へ馴染めていない異物みたいだった。
突然。
近くの子供が足を止める。
端末画面。
TARGET表示。
それから、
ローズを見る。
シオンの呼吸が止まる。
子供が小さく言う。
「……この人」
母親が慌てて子供の肩を掴む。
「見ちゃダメ」
すぐに立ち去る。
でも。
その視線だけが残る。
シオンは俯く。
胸が痛かった。
今までの敵は、
組織だけだった。
でも今は違う。
街そのものが、
自分達を拒絶している。
エヴァが低く言う。
「地下へ入る」
ローズが頷く。
三人は商業区画を抜ける。
その時。
道路向こうで、
一人の男が端末を見ていた。
それから、
こちらを見る。
目が合う。
男の表情が変わる。
シオンの背筋が凍る。
男が叫ぶ。
「TARGETだ!」
空気が止まる。
次の瞬間。
周囲の人間が一斉に振り向いた。
端末。
視線。
ざわめき。
都市監視ドローンが起動する。
赤い光。
警報。
シオンの呼吸が乱れる。
「走って!」
エヴァが叫ぶ。
三人が駆け出す。
人混みが割れる。
悲鳴。
ガラスへ映る逃げる姿。
ドローンが追尾する。
『危険対象確認』
無機質な音声。
ローズが後方を撃つ。
ドローン爆発。
火花。
でも次々現れる。
空。
ビル壁面。
監視カメラ。
全部が敵だった。
シオンは息を切らす。
「なんなのこれ……!」
エヴァが走りながら言う。
「都市AIが学習してる!」
「学習……!?」
「人間の恐怖と監視行動を!」
つまり。
市民すら、
システムの一部になっていた。
シオンの顔が青ざめる。
三人は高架下へ飛び込む。
暗い通路。
息を潜める。
外では警報が鳴り続けていた。
シオンは壁へ背中をつける。
呼吸が震える。
ローズが周囲を確認する。
エヴァは通信妨害装置を起動した。
ようやく、
少し静かになる。
沈黙。
シオンが小さく言う。
「……私達、
ほんとに化け物みたい」
ローズが振り向く。
シオンは笑えなかった。
「みんなあんな目で見るんだね」
ローズは数秒黙る。
それから静かに言った。
「君は違う」
シオンが顔を上げる。
ローズは続ける。
「君は最初から、
私を見てた」
シオンの胸が少しだけ痛む。
エヴァが壁へ寄りかかりながら呟く。
「この都市は、
異物を嫌うようにできてる」
疲れた声だった。
「少しでも外れた存在は、
全部排除される」
シオンが聞く。
「エヴァも?」
エヴァは小さく笑う。
「今はね」
その笑いは、
少し寂しそうだった。
その時。
グレンから通信が入る。
『おい、生きてるか』
シオンが少し安心する。
「グレン……!」
『安心するのは早い』
背後で何か激しい音が聞こえる。
グレンの声が低くなる。
『お前ら、
都市AIだけじゃないぞ』
ローズの目が細くなる。
「どういう意味」
数秒の沈黙。
それからグレンが言った。
『賞金首になってる』
シオンの顔色が変わる。
『民間の回収屋まで動き始めた』
エヴァが舌打ちする。
最悪だった。
組織だけじゃない。
都市AIだけでもない。
金のために人を狩る連中まで、
三人を追い始めていた。
そして。
高架下通路の暗闇で。
誰かが静かに銃を構える。
赤いレーザーサイト。
真っ直ぐ。
シオンの胸元へ伸びていた。




