第25話 都市の敵
赤い警告灯が都市全域で回っていた。
巨大モニター。
広告ビジョン。
駅構内。
路地裏の古い端末。
全て同じ映像へ切り替わる。
TARGET
ROSE
TARGET
EVA
TARGET
SHION
無機質な警告音。
街がざわめき始める。
シオンは巨大モニターを見上げたまま、
息を失っていた。
都市中枢。
白い光。
警報。
まるで都市そのものが、
自分達を睨んでいるみたいだった。
グレンの怒鳴り声が通信へ響く。
『おい! 最悪だぞ!』
ローズがモニターを見る。
『識別コード公開』
『市民危険対象認定』
エヴァの顔が険しくなる。
「市民監視網まで使ってる……」
シオンが呟く。
「どういうこと……」
エヴァが低く答える。
「この都市全員が、
私達を監視する」
シオンの背筋が冷える。
アベルは静かだった。
警報の赤い光を浴びながら、
ただローズを見ている。
『興味深い』
ローズの銃口は、
まだアベルへ向けられていた。
アベルは微笑む。
『都市AIが、
自律判断を開始した』
「止めろ」
『もう私でも完全停止は難しい』
シオンの顔色が変わる。
「なにそれ……」
アベルは平然としていた。
『最適化が始まっただけだ』
エヴァが怒りを抑えた声で言う。
「人を消すことを最適化って呼ぶな」
アベルは視線すら向けない。
『不要な感情だ』
その瞬間。
中枢空間の壁が開いた。
重武装ドローン。
複数。
赤い光学センサー。
ローズが即座にシオンを引き寄せる。
発砲。
轟音。
白い床へ火花が散る。
エヴァが撃ち返す。
「動いて!」
三人が走る。
中枢空間へ警報が響き続ける。
ローズは後退しながら射撃。
動きが鋭い。
だが。
以前より、
どこか迷いがある。
完全な兵器ではない。
シオンはそれを感じていた。
アベルは撃たれない位置で、
静かに三人を見送っている。
追わない。
観察している。
それが逆に不気味だった。
グレンの声。
『西側シャフト使え! 急げ!』
エヴァが端末へ撃ち込む。
電子ロック解除。
シャッターが半開きになる。
その瞬間。
都市全域のスピーカーから、
女性音声が響いた。
『市民の皆様へ』
冷たい音声。
『危険対象三名を確認しました』
シオンの顔が強張る。
『対象発見時は、
最寄り監視端末へ通報してください』
都市が敵になった。
完全に。
エヴァが苦い顔をする。
「ここまでやる……」
ローズがシオンの腕を引く。
「行く」
三人はシャフトへ飛び込む。
背後でドローンが迫る。
狭い通路。
非常灯だけの暗闇。
シオンは息を切らしながら走る。
怖い。
でも止まれない。
突然。
通路奥のモニターが点灯した。
アベル。
また現れる。
シオンが苛立つ。
「なんなの……!」
アベルは穏やかだった。
『ローズ』
ローズは無視して走る。
『君は今、
人間へ近づいている』
エヴァが吐き捨てる。
「黙れ」
アベルは続ける。
『だが人間は脆い』
ローズの目が僅かに揺れる。
『恐怖し、
迷い、
壊れる』
モニター越しの銀色の瞳。
『それでも、
君は人間になりたい?』
ローズは答えない。
シオンはローズを見る。
その横顔は静かだった。
でも。
迷っていた。
シオンには分かった。
その時。
前方の隔壁が突然閉鎖される。
轟音。
三人が急停止する。
エヴァが舌打ち。
「先回りされた」
直後。
天井の機銃が起動した。
赤いレーザー。
照準。
シオンの呼吸が止まる。
ローズが前へ出る。
「下がって」
機銃が火を吹く。
轟音。
ローズがシオンを抱き寄せ、
壁へ叩き込む。
弾丸が金属を抉る。
火花。
衝撃。
ローズの肩へ弾丸が掠める。
シオンが息を呑む。
「ローズ!」
ローズは動じない。
でも。
血ではない。
白い液体が、
肩から静かに流れていた。
エヴァが機銃を撃ち抜く。
爆発。
静寂。
シオンはローズを見る。
肩の傷。
白い液体。
人工筋肉。
機械骨格。
見えてしまった。
ローズは一瞬だけ目を逸らす。
初めてだった。
自分の身体を、
隠すみたいな顔をしたのは。
シオンは何も言わない。
ただ静かに、
ローズの手を掴んだ。
ローズの瞳が止まる。
シオンは小さく言う。
「行こう」
ローズは数秒動かなかった。
それから。
ほんの僅かに頷いた。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




