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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第2クール「未定義感情」

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第19話 止める

挿絵(By みてみん)

夜だった。


窓の外で雨が降っている。


細い雨。


ネオンが滲み、

街全体がぼやけて見えた。


シオンはソファへ座ったまま、

ぼんやり床を見ていた。


静かだった。


静かすぎた。


男を撃ってから、

頭の中がずっと曇っている。


ローズは奥の机で、

分解した左腕を調整していた。


金属音。


工具の擦れる音。


その規則的な音だけが、

部屋に残っている。


シオンはふと口を開いた。


「……ローズ」


「なに」


「人を殺したあとって」


喉が少し詰まる。


「どうしてたの」


工具の音が止まる。


ローズは数秒黙っていた。


それから静かに答える。


「次の任務へ行った」


シオンは目を伏せる。


やっぱり違う。


自分とは。


ローズは感情がないわけじゃない。


でも、

生きてきた場所が違いすぎる。


ローズが腕を戻しながら言う。


「最初は、少しだけノイズが出た」


シオンが顔を上げる。


「ノイズ?」


「演算誤差」


ローズは淡々としていた。


「でも調整された」


静かな言葉だった。


でも、

シオンは妙に寒くなる。


調整。


つまり、

迷わないようにされた。


ローズは続ける。


「だから私は、慣れた」


シオンは何も言えない。


ローズがどれだけ、

“兵器”として生きてきたのか。


少しずつ見えてくる。


シオンは膝を抱えた。


「……私は慣れたくない」


ローズの手が止まる。


シオンは俯いたまま続けた。


「思い出したくない」


声が震える。


「でも忘れたくもない」


ローズは静かにシオンを見る。


その言葉が、

少し意外だったみたいに。


シオンは小さく笑う。


泣きそうな顔のまま。


「変だよね」


ローズは数秒考える。


それから低く言った。


「変じゃない」


その声が、

少しだけ柔らかい。


シオンは目を細める。


窓へ雨が流れる。


静かな夜だった。


その時。


モニターが点灯する。


二人の視線が向く。


グレンだった。


顔色が悪い。


背後では誰かが走っている。


騒がしい。


『おい、今すぐそこ出ろ』


ローズの目が細くなる。


「何があった」


『追跡じゃねぇ』


グレンが息を荒くする。


『掃討だ』


部屋の空気が止まる。


グレンが低く言った。


『上層区画ごと消す気だ』


シオンの顔色が変わる。


「……は?」


グレンは端末を叩きながら続ける。


『証拠隠滅だよ。お前らが潜伏してる区域ごとな』


ローズの声が冷える。


「民間人がいる」


『連中には関係ねぇ』


シオンの背筋が冷たくなる。


ローズは立ち上がった。


「時間は」


『三十分切ってる』


窓の外で、

遠くサイレンが鳴り始める。


ローズが武器を取る。


シオンは立ち尽くしていた。


区域ごと消す。


そんなこと。


ローズが振り返る。


「行くよ」


シオンは動けない。


窓の外を見る。


あの街。


靴磨きをしていた場所。


劇場。


細い路地。


眠っている人達。


全部消える。


シオンが掠れた声で言う。


「止めないの」


ローズの動きが止まる。


「……難しい」


「難しいじゃなくて!」


思わず声が強くなる。


「人いるんだよ!」


ローズは黙る。


シオンの呼吸が荒くなる。


「逃げるだけなの……?」


ローズの瞳が揺れる。


ほんの少しだけ。


シオンは初めて見る。


ローズが迷っている。


戦闘じゃない。


選択に。


ローズは静かに言う。


「成功確率が低い」


「でもゼロじゃない」


シオンの声は震えていた。


怖い。


でも。


ここで逃げたら、

本当に何かが終わる気がした。


長い沈黙。


雨音だけが響く。


そして。


ローズがゆっくり視線を落とす。


まるで、

自分の中を見ているみたいに。


それから小さく言った。


「……グレン」


通信の向こうで、

グレンが眉をひそめる。


『なんだ』


ローズが静かに続ける。


「中央制御塔までの最短ルートを」


グレンの目が見開く。


『お前、本気か』


ローズは窓の外を見る。


滲むネオン。


雨の街。


そして。


隣にいるシオン。


ローズが低く言った。


「止める」


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます

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