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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第2クール「未定義感情」

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第18話 逃亡者たち

挿絵(By みてみん)

朝になっていた。


灰色の空。


昨夜の雨がまだ道路へ残っている。


シオンは無言のまま歩いていた。


ローズの少し後ろ。


足取りが重い。


頭の中で、

何度も銃声が鳴っていた。


引き金の感触。


倒れる男。


血。


全部、

離れない。


ローズは何も言わない。


それが逆に苦しかった。


責めない。


慰めない。


ただ隣にいる。


その静けさが、

余計に現実だった。


二人は古びた雑居ビルへ入る。


人気はない。


薄暗い階段。


ローズが三階で止まる。


古い扉。


電子ロック。


短い認証音。


扉が開く。


中は狭い部屋だった。


最低限の家具。


モニター。


武器ケース。


生活感がほとんどない。


シオンはゆっくり部屋へ入る。


ここも、

ローズの世界だった。


自分の知らない。


ローズが言う。


「しばらくここを使う」


シオンは頷く。


でも頭がぼんやりしている。


ローズがコートを脱ぐ。


脇腹の傷。


循環液が固まり始めていた。


シオンの胸がざわつく。


「……見せて」


ローズが見る。


「傷」


「問題ない」


「問題ある」


少し強めに言ってしまう。


ローズは数秒止まり、

静かに椅子へ座った。


シオンは棚から修復キットを探す。


手が震えていた。


うまく掴めない。


ローズが静かに言う。


「シオン」


「……なに」


「無理しなくていい」


シオンは動きを止める。


胸の奥が熱くなる。


無理してる。


そんなの自分でも分かっていた。


でも止まったら、

さっきの光景が全部戻ってきそうだった。


シオンは俯いたまま言う。


「ローズは平気なの」


沈黙。


「人が死ぬの」


ローズは少し考える。


それから、

正直に答えた。


「慣れてる」


シオンの喉が詰まる。


ローズは続けた。


「でも、君には慣れてほしくない」


その言葉が、

胸へ刺さる。


シオンは傷の処置を始める。


金属フレーム。


人工筋繊維。


裂けた外装。


人間じゃない。


なのに。


痛そうだった。


シオンは小さく言う。


「……エヴァの言ってたこと」


ローズの視線が動く。


「壊れるってやつ」


「……うん」


シオンは傷口を見たまま続ける。


「もし本当にそうでも」


喉が少し震える。


でも止めなかった。


「私は、ローズが決めればいいと思う」


ローズは黙っている。


シオンは俯いたまま言う。


「兵器とか、命令とかじゃなくて」


手が少し震える。


「ローズが、どうしたいか」


静寂。


部屋の換気音だけが響く。


ローズは長く黙っていた。


それから、

ほんの少しだけ目を伏せる。


「……難しい」


シオンは少し笑う。


「また分かんないんだ」


ローズがシオンを見る。


シオンは初めて、

少しだけ自然に笑っていた。


泣きそうな顔のまま。


ローズの視線が、

ほんの僅かに柔らかくなる。


その時。


モニターが突然点灯した。


二人が同時に振り向く。


ノイズ。


暗い画面。


そして。


エヴァが映った。


シオンの身体が強張る。


エヴァは静かにこちらを見ていた。


まるで最初から、

そこにいたみたいに。


『おはよう』


ローズの目が冷える。


「どうやって入った」


『グレンの回線、脆い』


遠くでグレンの怒鳴り声が聞こえた気がした。


エヴァは少しだけ笑う。


でもすぐ真顔へ戻った。


『ローズ』


静かな声。


『上が本格的に動く』


ローズは何も言わない。


エヴァは続ける。


『もう執行官だけの問題じゃない』


シオンの背筋が冷える。


『あなた達、都市から消される』


部屋の空気が凍る。


エヴァの目が、

ゆっくりシオンへ向く。


『特にあなた』


シオンの喉が乾く。


『一般人が知りすぎた』


ローズが前へ出る。


庇うみたいに。


エヴァはその動きを見て、

僅かに目を伏せた。


「……やっぱり遅かった」


ローズが低く言う。


「何をしに来た」


エヴァは少し黙る。


その沈黙が、

妙に人間らしかった。


それから静かに言う。


『逃げなさい』


シオンの目が見開く。


ローズも僅かに止まる。


エヴァは画面越しに続けた。


『次は私でも止められない』


その声だけが、

少し苦しそうだった。


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