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Rose Code ― 感情未定義都市 ―  作者: Laica
第2クール「未定義感情」

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第17話 引き金

挿絵(By みてみん)

廃駅を出た頃には、

夜が明け始めていた。


灰色の空。


濡れた高架橋。


街はまだ眠っている。


シオンはフードを深く被り、

ローズの隣を歩いていた。


二人とも無言だった。


エヴァの声が、

まだ耳に残っている。


「誰かの隣で、生きるようには作られてない」


あの言葉が、

胸の奥へ引っかかって離れなかった。


ローズは前を見たまま歩いている。


でも動きが少し重い。


左腕。


まだ完全じゃない。


シオンは小さく言う。


「……休んだ方がいい」


「追跡が先」


「でも」


「私は平気」


シオンは眉を寄せる。


平気じゃない。


そんなの見れば分かる。


でもローズは、

昔からこうやって動いてきたんだろう。


壊れても。


止まらず。


シオンは少しだけ苦しくなる。


二人は人気のない裏通りへ入った。


古い自販機。


閉まった店。


濡れたネオン。


静かな街だった。


その時。


ローズの足が止まる。


シオンも止まった。


「ローズ?」


ローズの目が細くなる。


視線の先。


路地裏。


そこに男が立っていた。


黒いスーツ。


細い身体。


片手に拳銃。


男は静かに笑った。


「見つけた」


シオンの背筋が冷える。


ローズが前へ出る。


男は銃を向けたまま言う。


「抵抗しないでくれると助かる」


「断る」


「だよね」


男が肩を竦めた瞬間。


銃声。


ローズがシオンを引き寄せる。


弾丸が壁を砕く。


シオンの耳がキンと鳴る。


ローズが即座に発砲。


男が路地へ飛び込む。


「シオン、下がって」


「でも!」


「早く」


その声に、

シオンは反射的に動く。


壁の陰へ。


呼吸が荒い。


銃声が何度も響く。


火花。


金属音。


ローズの動きは速い。


でも万全じゃない。


左腕の反応が、

ほんの少し遅れる。


男が笑う。


「本当に壊れてるんだな」


ローズの目が冷える。


次の瞬間。


男がナイフを投げた。


ローズが避ける。


だが。


二本目。


死角。


シオンの目が見開く。


「危な――」


路地裏へ銃声が響く。


火花。


砕けるコンクリート。


シオンは壁際へ身を寄せながら、

荒い呼吸を繰り返していた。


ローズが前へ出る。


黒いコートが揺れる。


男は笑いながら発砲した。


「動き鈍いな、ローズ!」


ローズは答えない。


銃声。


一歩。


回避。


発砲。


動きは速い。


でも左腕だけ、

ほんの少し遅れる。


男がそこを狙う。


低く滑り込みながら、

ナイフを抜いた。


ローズの目が細くなる。


金属音。


ローズが蹴りで男の手首を払う。


拳銃が弾き飛ばされた。


回転しながら、

濡れた地面を滑る。


カラン、と音を立て、

シオンの足元へ止まった。


シオンの呼吸が止まる。


銃。


黒い金属。


重い。


その瞬間。


男がもう一本、

ナイフを抜く。


ローズが反応する。


だが左腕が遅れた。


ほんの一瞬。


その隙を、

男は見逃さない。


一直線。


ローズの喉を狙っていた。


シオンの視界が狭くなる。


耳鳴り。


ローズ。


迫る刃。


足元の銃。


時間が引き伸ばされたみたいだった。


ローズが動く。


間に合わない。


シオンは反射的に銃を掴んだ。


冷たい。


重い。


両手で構える。


震える。


狙いなんて分からない。


でも。


撃たなきゃ。


引き金を引いた。


銃声。


男の身体が止まる。


額。


小さな穴。


数秒遅れて、

男が崩れ落ちた。


静寂。


シオンの呼吸が消える。


自分の手。


煙。


倒れた男。


ローズも動かなかった。


街の音だけが遠い。


シオンの指が震え始める。


カタカタと、

銃が鳴る。


「……え」


喉が乾く。


男は動かない。


血がゆっくり広がっていく。


シオンの顔色が消えた。


「わ、たし……」


胃がひっくり返る。


シオンは口を押さえ、

その場へ膝をついた。


吐きそうだった。


呼吸ができない。


耳鳴り。


視界が揺れる。


ローズがゆっくり近づく。


シオンは顔を上げられない。


「……死んだ」


声が震える。


「私、撃って……」


ローズは数秒黙っていた。


それから静かに、

シオンの前へしゃがむ。


「シオン」


シオンは首を振る。


「違う……こんなの……」


手が震えて止まらない。


ローズは低く言った。


「君が撃たなければ、私は止まってた」


シオンの呼吸が詰まる。


ローズは続ける。


「助けられた」


「でも……!」


シオンの目から涙が落ちる。


「人、死んだ……」


ローズは何も言わない。


それを軽くしてはいけないと、

分かっているみたいに。


朝の街は静かだった。


遠くで電車の音が響く。


シオンは震えながら俯く。


その肩へ、

ローズの手が触れた。


冷たい。


でも、

離れなかった。


ローズが低く言う。


「……戻れないって思った?」


シオンの肩が揺れる。


ローズは静かに前を見る。


「私は、ずっとそうだった」


シオンはゆっくり顔を上げる。


ローズの横顔は、

いつもより少しだけ寂しそうだった。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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