第2話 フラれた翌日
二度と亮介の部屋には行けないと思った。
もう石咲アンナとは顔を合わせられないと思った。彼女は好きだった子から一気に憎むべきビッチに変わった。あんな奴だとは思わなかった。
『おい。今日部屋来ないのか?』
亮介からラインのメッセージが届く。
『行かない。ちょっと体調が悪い。』とだけ返信をした。
『そうか』の一言だけが返って来た。
イライラする。外に出て何かをする気にはなれずひたすら家に引きこもって勉強をする。三年後の受験勉強のためにひたすら上の学年で習う科目を予習し、英単語を頭に入れ、歴史の用語をいくつもいくつもノートに書き留めて頭に叩き込む。
それでも、石咲アンナのにやけ面が頭から消えてくれない。
「あぁ……マジでムカつく……どんだけ好きなんだよ。あの女の事……もう、フラれたから忘れろよ……」
墾田永年私財法、墾田永年私財法、墾田永年私財法、石咲アンナ、石咲アンナ……。
「馬鹿が‼」
途中から違う単語になった部分を二重線で消す。
「……やめた。ゲームしよ」
ボールペンをペン立てに戻したその時だった。
ピコンと着信が鳴った。
メッセージの送信主は———〝石咲〟。
『今から釣り行かない?』
釣り……だと……これが女の子から男へ、遊びに誘うメッセージか?
どの面下げて、そう思った。だが、このままだと自分はもやもやした気持ちを抱え続けるということはわかっていた。
「だぁ~……めんどくせぇ……」
嫌だが。
多分彼女ともう一度会ったら関係性が致命的に壊れるが……会うしかないと思った。歴史の単語を途中で好きだった女の名前に変えるようなキモい奴でこれ以上いたくないと思った。
◆
「やっは~! 来た来たぁ!」
ブンブンと手を振る石咲アンナ。
自転車のハンドルを片手に、その背中には釣り竿がはみ出たリュックサック。頭には赤いキャップ帽を嵌めている。
「小学生男子か」
「えぇ? だって釣り行くんだからさ。誰だってこんな格好になるでしょ。そっちこそ釣り舐めてない? TシャツGパンにチェーンのネックスレス。いかにもオシャレしてきましたって感じ」
「う、うるせぇ! これが普段着なんだよ!」
そりゃ……! 好きだった女から誘われたんだからデートだと思って気合入れて来るだろうがよ……逆にアンナは全くそんなつもりがないとわかってどれだけ今、俺が落ち込んでいることか……。
「まったくTPOってものをわきまえなさいよ? 今日は街で映画見るとかじゃなくて、湖のほとりの泥んこに足を突っ込むんだから」
そして、「ほい」と釣竿を差し出してくる。
「行くのかよ?」
「何しにここまで来たのよ?」
大きな湖に面した駐輪場。そこから穏やかな波を立てるキラキラと光る水面を見つめる。
「さ、行こ」
ガシャンとアンナが後輪スタンドを降ろした。




