第1話 友達以上になりたい俺は、
———俺は石咲アンナが好きだ。
彼女とは高校入学時に友達になり、ゲームが好きという共通点。それに共通の友達に雨洞亮介という自分の部屋が屋敷の離れという金持ちがいたおかげで、亮介の部屋というたまり場にたまる四人の男女という関係に落ち着いていた。
彼女とは気が合う。ゲームの趣味も似ているし、漫画の好みだって同じ。彼女が少年向けのラブコメが好きな時は天啓かと思った。彼女とはヒロインの好みが違うのも良かった。彼女は大人しめで巨乳が好きだが、俺は彼女と同じようなスレンダーなショートカットの子が好きだった。そんな二人が「あの子のどこがいいの?」と罵り合うのだ。楽しく分けがないわけがない。
ある日亮介に彼女ができた。
相手はたまり場に一緒にいるアンナの親友、絵潟春が告白したのがきっかけだ。亮介はそれに対してOKをした。「ま、これでいっかって。好きなんだよ。お前らといるの」と、亮介は俺にだけは最低な本音を言ってくれた。だが、それは春も了承しているようで、彼らは積極的に二人きりになろうとせず、俺達といる時間を大切にしてくれ、四人で遊ぶことにこだわり続けていた。
そんな様子を見て、俺はこのままでいいのか? と思い始めた。
だから———、
「好きだ。石咲。俺と付き合ってくれ」
今は青々としている校舎裏の一本桜。
夏の日差しの下で、俺は意を決してアンナに告白をした。
「それで?」
彼女の第一声はそれだった。
「付き合って、私たちの今までの関係って何か変わるの?」
「そりゃ、友達から彼氏彼女の関係に……」
「あのねぇ、有島」
彼女は染めている金髪のショートカットをクシャリと掻いた。
「私、石咲アンナとあんた有島修司は友達。でしょう?」
あ、これフラれるな。いや、フラれたか……。
「そうだな。ごめん。悪かったな。先走って」
俺は一歩、後ろに下がった。
「いや、それこそ先走ってない?」
アンナが問う。
「だってそうだろ。告白までしたんだ。俺、有島修司と石咲アンナはこれからは友達でいられない。ならもう、俺はお前の前から消える。お前だって俺と顔を合わせるのは気まずいだろ?」
「どうしてそう……極端になるのかなぁ。あのねぇ、有島。私とあんたは友達。でしょう?」
また念を押してきた。
「いや、そういう関係にはもう戻れないだろ」
「どうして?」
「俺が戻りたくない」
流石に……これ以上、アンナと顔を合わせるのは気まずすぎる。
「私は戻るも戻らないもなく、あんたとはこれからも友達でい続けたいよ?」
「無理だ。情けなさすぎる」
「有島。実はね。私、愛情と友情の違いがわからないんだ」
「は?」
「愛情って相手を思いやる事でしょ? それって友達を思いやることと何が違うの?」
「そう言われると……違いがわからないけど……」
「ねぇ、有島」
アンナは俺に向かって歩を進め、その距離がゼロになると、
「————ッ⁉」
唇を重ねてきた。
「私は、友達にもこうすることができるよ」
「は⁉ あ? お前今何をやって……⁉」
「愛情表現。まぁ私にとっては友情表現でもあるけど。私は有島との縁をこれからも大事にしたい。そう伝えたつもりだけど。伝わった?」
伝わってない。
キスはもっと別の意味があるはずだ。
「あ……あぁ……く、クソ……!」
言葉が上手く出てこない。
好きな子にキスをしてもらえた嬉しさと、それが相手にとっては大した意味も持たないと宣言された悔しさと、俺の好きな女はどんな男でもキスをしてしまう女だと知ってしまった悲しさと。感情が渦巻いて整理できない。
「別にいいじゃん。このままでこのまま四人でずっと遊ぶ関係でいようよ。私は有島のこういうところが大好きなんだからさ。この縁を大事にしたいよ」
そう言って、何を考えているのかわからない女は笑っていた。




