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第八章 緊急事態からの生還 〜人間の尊厳の喪失の危機〜

備えあれば憂いなし、という話。

 シニアサッカー市リーグ戦は、県リーグ戦のオフシーズンである冬季に行われる。そのため、たいへん寒い環境で行われる試合もある。今回の試合はまさにそんな試合だった。

 天気予報ではこの冬最大級の大寒波が日本列島を襲うと予報されていた。南国静岡でさえも、試合前日に降雪を記録した地域が多かった。しかし、そんな状況でも私の住む地域はやはり雪は降らなかった。

 今日も朝から季節風が強く、準備運動のアップをしていてもなかなか身体が温まらない。強風のため、どんどん身体の熱が奪われていくのだ。

 風に向かって走ると、まるで自動車を走らせた時のような風切り音が耳元で鳴っていた。キック力がない我々年寄りには辛い試合になりそうだ、と思った。

 試合開始。北風は、さらに強くなり、それだけでなく対岸の山にかかっている雲からなんと風花が舞ってきた。身体は強張り、いつも以上に動きは鈍く、相手も含め、どの選手も満足のいくプレイができていなかった。

 前半終了。身体が冷え切ってしまった私は、緊急事態に陥った。猛烈に尿意を催したのだ。トイレは遥か彼方に……。

 ここで二句

 大至急 クルマに乗りて 携行器

 人間の 尊厳守り お花畑

 

 間一髪、自家用車に常備していた携行トイレで用を足し、滑り込みセーフ。危うく人間の尊厳を失うところだった。

 試合自体は、互いに低調な動きと同様お寒い内容で、スコアレスドローで終了。ベンチに戻ると、先輩から「次の線審やってくれ」との命令が下った。高校の先輩の命令は絶対なのだが、試合後で疲れ切った上、このくそ寒い状況での審判は罰ゲームに等しい。それでも、そんな不満などおくびにも出さずに急いで審判着に着替えようとした。

 その時、それまで風花程度で済んでいた雪がいきなり強く降り出し、あっという間に河川敷全体は一面の銀世界と化した。サッカーグラウンドに引いたラインも全く見えなくなってしまった。そして、なんと試合中止。こんな悪条件の中で審判をやるのか、と内心不満たらたらだったため、神に感謝した。

 ここで一句

 ゲーム中止 感謝感激 雪あられ

  

 

 この携行トイレの詳しく話は次章で語りたいと思う。

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