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第三十八章 だんご坂 ~画期的な自主トレ法、野生に敗れる~

 試合日の間隔が2週間以上も空くと、その間に自主トレーニングをして、体力維持・体調管理をしておかなければならない。しかし、平日は、再雇用後も終日勤務しているため、帰宅後にトレーニングする気にはなれない。しかも、元来ただ走るだけということが苦手な性分なため、なかなかジョギングにも行く気にならなかった。

 そんなある日、ある場所でジョギングをすれば短時間で効率よく体力・筋力維持になると思いつき、そこを走ることにした。

 その場所とは、自宅から徒歩1分もかからない通称「だんご坂」と呼ばれる200mに満たない坂である。そこを暑さが和らいだ夜間に走るのだ。

 走るといってもずっと走っているわけではない。まずは、ストレッチをしてから1本目。坂の頂上から歩いて下り、坂の一番下でUターンして、また歩いて出発地点に戻る。2本目から、「下りを走り、上りを歩く」を繰り返し、走る速度を少しずつ上げて、4本走った。

 走るのは下りだけ?と思う方も多いだろうが、下りを走るのは私にとって理にかなっているのだ。まずは、下りだと勝手に脚が前に進むのだ。「ただ走る」という行為が好きではない私にとっては、否が応にも脚が前に出る、つまり、自然と楽に走ってしまう行為がありがたいのである。

 そして、下りは上りのように肺活力を必要としないが、下り坂では重力によって勢いがつくため、体重を受け止めるために筋肉が引き伸ばされながら力を発揮し、筋力を鍛えることができるのだ。また、下り坂では着地衝撃も大きくなるため、ボールを蹴るときの軸足の強化にもなる。「楽して足腰を鍛える」。これこそ怠け者で持久走嫌いの私にとって最良のトレーニング方法だった。


二日後に 職場の廊下で ひざカックン


「年寄りあるある」だが、2日後の職場の廊下を歩いていると、不意に「膝カックン」に襲われた。だれにも見られなかったのは幸いだ、と思いきや、仕事場の椅子に腰かけると、大丈夫ですか、と心配した管理職に声をかけられてしまった。

 このトレーニングを開始して3回目の夜だった。いつもと同じように、2本目の下り坂を下りきろうとした時、30mほど前方の暗闇に何やらうごめいている物体があった。犬かもと思い、もう少し近づき、目を凝らして見ると……

 イノシシではないか!しかも4頭も。この坂の終着点は、旧国道一号線に合流するのだ。そんな場所に4頭のイノシシ!びっくりたまげてしまった。走って逃げたくなったが、刺激するとかえって危険であることをニュースで知っていたので、固唾を飲み、イノシシを睨みながらゆっくりと後ずさりを始めた。

 その時、坂の上から勢いよく一台のクルマが下ってきた。そのクルマは私の横を通り過ぎるといきなり急ブレーキをかけて急停止した。クルマの勢いと激しいブレーキ音に驚いたのか、イノシシたちは、身を寄せ合いながらトコトコトコと、その場から沿道の人家の敷地内に逃げ込んでいった。

 イノシシに襲われないで済み、安堵したが、その後、夜のジョギングを控えるようになり、ますます自主トレをサボる口実ができてしまった。

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