第三十七章 真夏日その3 〜老いは膝から来るとはよく言ったもので…〜
この日3本目。時刻は11:30。暑さが増してきた。しかもご丁寧に先ほどまで曇り空だったのに、今は太陽が雲間から顔を出し、ギラギラと灼光を振り注いでいた。この暑さの中で、残り少ない体力がもつのだろうか。
この試合には当初25分フル出場の予定であったが、事前に給水前の12分で交替するように変更しておいてよかったと胸を撫で下ろした。夕方には通夜に参列しなければならないのだ。ここでエネルギーを使い果たす訳にはいかない。
脛当てをしていることを確認してピッチに入った。試合開始のホイッスルが鳴った。試合が始まると不思議に暑さや日差しは気にならなかった。
試合が進み、前の試合とほとんど同じシチュエーションがおとずれた。
敵陣ペナルティエリア付近の左サイドで、MFからまた私にバックパスが来た。またルックアップして逆サイドの選手まで同じように蹴った。
ここで一句
また行くぞ 狙いを定めて ひざカックン
だが、同じようなパスにはならなかった。自分が狙った選手までの距離よりも半分ほど手前でボールは力なくお辞儀をし、10m手前の相手選手に渡ってしまった。自分が思った以上に脚に力が入らなかったのだ。不備キックの問題以下である。
ホイッスルが鳴って給水タイムとなり、交替した。ベンチには座らず、本部横の日陰に座り、水分を補給したり、氷で首筋を冷やしたりしながら、遠くの戦況を眺めていた。
試合があと数分で終わりそうなので重い腰を上げ、再び暑い日向に出て、熱せられたベンチに腰掛けた。
我々のベンチ前にいる相手MFにパスが渡った。すると、相手ベンチから
「フリー!そのままドリブルだ!」
などの歓声が上がった。その人物こそ私の後輩であり、鍼灸で厄介になっている男だった。こんな歓声がかけられるなんて、きっとチームの愛されキャラなんだろうな、と微笑ましくなった。
ここで一句
さあフリー ドリブル突破だ ひざカックン
まるで、テディベアがガクリと膝から崩れ落ちたようだった。相手ベンチから爆笑が上がった。彼は愛されキャラではなくイジられキャラなのだろうか。その笑いを誘うプレイで試合終了のホイッスルが鳴った。
試合後の挨拶に相手選手がこちらのベンチ前に整列した。ちょうど目の前に彼が来た。
「ナイス・プレイ!」
と親指を立てた。彼は
「すみません。」
と苦笑いして頭を掻いていた。やはり、愛されキャラだと確信した。
日陰でストレッチをしてからロッカールームで着替えをして帰宅した。その後、遅い昼食を摂り、昼寝をした。目が覚めると通夜開式15分前だった。慌ててベッドから起き、床に足をつけ、歩き出そうとすると、ひざカックンして床に膝をしこたま打った。




