第三十章 熱中症 〜♪夏が来れば思い出す…遥かなオレ遠い空〜
どうやら私は熱中症になりやすい体質らしい。身体に熱が籠りやすいようなのだ。私は、長距離が苦手なのだが、雨の時は速かった。きっと、身体が水冷式なのだろう。
先日も就寝時にエアコンを消して寝ていたら、次の日、脚に力が入らず、仕事を早退することになった。あれも熱中症だったと思われる。
私たちが子どもの頃は、運動中に水を飲んではいけないとされ、監督や顧問から厳しく言われた。今では信じられない指導方法であった。
あれは、中学3年の夏、中体連中部大会のことであった。今から50年以上も前のことなので、記憶が欠落し、ぼやけている。ひとつのことだけを抜かして。
地区大会で予想外に優勝し、中部大会に進出できた私たちチームは、藤枝の強豪校と対戦することになった。
当日、行ったこともない遠くの静岡市内の中学校に朝早くから行ったのはよいが、顧問の先生が試合時間を間違えて、試合は、午後からだった。そのため、長時間待たされた。それでも水はあまり飲んではいけない、と教わっていた素直な少年だった私は、言いつけを守り、その間、わずかな水しか口にしなかった。
やっと試合が始まる前にアップを行った。その時、グラウンドには、ホースで水が大量に撒かれ、サウナのようなムンムンとした湿気でたまらなかった。
そして、試合が始まった。チームの得点王である自負をもって、会場入りしていた私だったが、なんと、試合開始早々からまったく動けなかったのだ。走ることもできず、夢遊病者のようにただピッチ内をふらふらと漂っているだけだった。ボールを触った記憶もない。
前半が終わり、ハーフタイム中、顧問に交代させてほしい、と訴えた。しかし、顧問は、私の体調不良などお構いなく、交代させてくれなかった。
後半が始まっても、意識朦朧の状態でピッチ内を彷徨っていた。もうどうでもよかった。
試合終了のホイッスルが鳴った。
「やっと終わった…」
6対0。完敗だった。だが、その時の私には、死なない済んだ…よかった…という悦びしかなかった。
ベンチを引き払い、グラウンドの隅の木陰で、水に濡らしたタオルを額に置いて横になり、しばらく動けなかった。
その時、顧問がどんな話をしたのか、選手同士でどんな会話がされてのか、全く覚えていない。ただ、センターハーフの同級生からかけられた言葉だけは、いまだに覚えている。
「お前のせいで負けた!」
ここで一句
灼光を 浴び終わったら 罵声浴び
その人物は、現在のシニアサッカーチームの同僚である。
先日、彼が言った言葉を省いて、この話を本人にすると、
「あっ、そうなの…」
と軽く言われてしまった。




