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サブキャラ転生サバイバル ~ポンコツエルフと毒舌吸血鬼と、妹になった俺~  作者: 私はかき氷
第1章『どん底生活』

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6『冒険者……それは夢のない職業だった』

独特な設定があります。

説明回ですがご容赦ください……!

 冒険者ギルドの重い扉を押し開けると、淀んだ生温かい空気が頬を撫でた。

 日本の市役所のような快適な空調などあるはずもなく、埃と汗、そして微かなカビの匂いが鼻を突く。


 想像以上に閑散とした薄暗い室内。左手の壁には依頼書らしき羊皮紙が乱雑に貼られた掲示板があるが、日当たりが悪く、入り口からでは文字の判別すらつかない。

 フロアにいる客といえば、無精髭を生やした身なりのお粗末な中年男性と、ボロ布を纏った痩せこけた少年だけだった。



 中堅冒険者が酒の入ったジョッキを片手に絡んでくる――そんな初心者いびりのテンプレ展開は、どうやら起きそうにない。心のどこかで非日常のイベントを期待していた自分もいたが、平穏無事であることに越したことはないと密かに胸を撫で下ろした。


 ギシギシと軋む床板には、血と思しき赤黒い染みがこびりついている。それを踏まないように避けながら、一番奥の受付カウンターへと向かった。


 そこにいたのは、愛想の良いエルフの美人受付嬢……ではなく、仏頂面の老婆だった。彼女の後ろの小部屋では、ガタイの良い男が二人、けだるげにボードゲームに興じている。十中八九、質の悪い客を黙らせるための用心棒だろう。



「……見ない顔だね。登録かい?」

 しわがれた、ひどく面倒くさそうな声がカウンター越しに降ってくる。


「はい。冒険者登録をお願いできないでしょうか?」

 俺たち一行を代表して、アブ姉が一歩前に出て丁寧に頭を下げた。

 老婆は値踏みするように、濁った目で俺たちの顔を順番にねめ回す。


「お前さんたち、器量よしなんだから適当な男捕まえて嫁に行きな。なんでわざわざ冒険者なんかに」

 鼻で笑うようなその口ぶりからして、この世界において『冒険者』とは決して褒められた職業ではないようだ。


「当分の生活費を稼ごうと思いまして」

 アブ姉が営業スマイルを張り付けて答えると、老婆は深く皺を刻んだ眉をひそめた。

「そうかい。で、紹介状はあるのかい?」

「紹介状、ですか?」

 アブ姉が不思議そうにこてんと首を傾げる。


「持ってないなら一番下のFランクだ。いわゆる、まともな身寄りのない連中が就く掃き溜めさ。流民や元犯罪者なんかが主でね、普通の人間が嫌がる泥仕事を低賃金でやらされる。下水掃除や土方仕事さね。……本当に、それでもいいのかい?」


 意地悪で言っているのかと思ったが、老婆の目を覗き込むと、どうやら本気で俺たちを心配してくれているらしい。

「ええ、日銭を稼げるのであれば構いません。ちなみに、一つ上のEランクに上がる条件は何でしょうか? あと、その仕事内容も教えていただけますか」

 食い下がるアブ姉に、老婆はやれやれと深い溜息を吐いた。


「お前さんたち、見事に何も知らないんだねえ」

 コンコン、と骨ばった指でカウンターを叩きながら、老婆による冒険者講座が始まった。



「いいかい、Fランクはさっき言った通りだ。Eランクに上がればようやく魔物の討伐が許可されて、この街――ナータの出入り口の通行税が免除される。おまけに任務の時だけは武器の携帯が許されるのさ。昇格の条件? Fランクの雑用を真面目にこなして、ギルドの信用を稼ぐことだね」


「魔物討伐というのは、具体的にどんな相手を?」


「ゴブリンやらスライムといった雑魚さ。ド素人でも、武器さえ握ってればなんとか倒せる。それ以上の危険な魔物は管轄外だから安心しな。ま、Eランクで手堅くやってりゃ、人並みの生活はできるよ。命の保証はないけどね」


「……そうですか」


 アブ姉が静かに息を吐く。表情は崩さないが、その目の奥で冷静に情報を処理しているのが分かる。



「で、その上のDランクだ。ここからは別格になる。貴族様の『推薦』が必須になる代わりに、ギルド証を見せりゃ国中を自由に移動できるし、武器の常時携帯も認められる」


「貴族の推薦、ですか」


「ああ。言わば準騎士ってところさ。パトロンになった貴族の依頼を最優先する義務が生じるし、もし不祥事を起こせば通常よりずっと重い罰が下る。ただ、仕事がない時でもお貴族様からお小遣いをもらえる特典付きさ」


 なるほど、貴族の私兵というか、便利な子飼いの戦力といったところか。


『冒険者=何にも縛られない自由な存在』というイメージを持っていたが、現実はそう甘くない。ギルドは独立した中立機関などではなく、国家や権力の仕組みにがっちりと組み込まれているらしい。まあ、よく考えれば当然だ。国からすれば、武力を持った高ランク冒険者なんていう危険分子を野放しにしておけるはずがない。



「とはいえ、要は貴族様の使い勝手のいい捨て駒さね。お偉いさんの領地でヤバい魔物が出た時、真っ先に矢面に立たされるのはDランクの連中さ。うちのへっぴり腰な騎士様たちはみんな温室育ちのボンボンだからねえ、自分の綺麗な顔に傷をつけたくないのさ」


 ぺっ、と見えない唾を吐き捨てるように、老婆が騎士たちに悪態をついた。

 これ以上聞くまでもないだろう。

 俺たちは会釈をして受付から少し離れると、フロアの隅でこそこそと家族会議を開いた。


「どうする? アブ姉」

「そうですね……とりあえず、Dランク冒険者になるのはナシの方向で」

 アブ姉の出した結論に、すかさずリリィも頷く。

「うん。面倒ごとはご免だし。貴族とか絶対関わらない方がいい」


「ですが、私たちが明日のパン代を稼がなければならないのは事実です。どこかで安定した職が見つかるまでの繋ぎとして、ひとまずFランクに登録して土方仕事でも受けるのはどうでしょうか?」


「……まあ、底辺からコツコツ、ってのが一番現実的だね」

 リリィがため息まじりに同意する。



 俺としては「せっかく異世界に来たんだから、チート能力で成り上がって無双する!」なんて胸熱な展開を少しばかり望んでいた。

 けれど、大切な姉貴たちを危険に晒すわけにはいかないし、そもそもこの世界の冒険者は、俺が想像していたような自由気ままなヒーローではなかった。


「俺も姉貴たちの意見に賛成だ。とりあえず、地に足つけて地道に生きていこう」

 異世界での輝かしい大冒険は、肉体労働というなんとも泥臭い現実から幕を開けることになった。

独特な冒険者ギルドで申し訳ないです……。

読んでいただきありがとうございました!

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