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サブキャラ転生サバイバル ~ポンコツエルフと毒舌吸血鬼と、妹になった俺~  作者: 私はかき氷
第1章『どん底生活』

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4『この世界は世知辛いようです』

「姉貴~~!」


 懐からチャラチャラと硬貨の擦れ合う小気味良い音を響かせながら、俺は森の中を全力で疾走した。

 眼前には、昨夜の激闘を物語る、円形に焼け焦げた大地。その中央で、アブ姉とリリィがラズベリーに似た赤い果実を口にしているのが見えた。


 ぐぅ~、と腹が鳴る。


 朝から何も食べていない。狩りの最中は常に動き回るため、胃に物を入れないのだ。最初はキツかった朝食抜きも、今となってはすっかり身体に馴染んでいる。


「おかえりなさい、カグヤ。なんだか嬉しそうですね」

「ん、おかえり。お疲れさま」


「聞いてくれ、姉貴たち!」


 手渡されそうになった果実と水のコップを遮り、俺は懐から鷲掴みにした大量の銀貨を地面に広げた。


「探索の途中で見つけたんだ。これで街に入れるぞ!」


「……ナイス」


 リリィがすっと立ち上がり、俺から銀貨を回収していく。反応が薄いなと思いきや、クールな顔つきとは裏腹に、銀貨を拾い集める彼女の指先は小刻みに震えていた。

 不意に、リリィと視線が交差する。


「……飼い主が投げたおもちゃを取って帰ってきた犬みたい。褒めて欲しくて必死」

「なっ、違うからな!?」


 俺は別にシスコンではない。


 たしかに行動基準に『姉貴たちに恥ずかしくないか』は組み込まれているし、喜んでくれたら嬉しいし、褒められたい。だがそれは純粋な家族愛や尊敬であって、決してシスコンではない。断じて違うのだ。


「私、一言もカグヤがシスコンだなんて言ってないんだけど」

「……あ」

「カグヤは自分がシスコンかどうか、気にしているのですか?」


 アブ姉がナチュラルに致命傷を与えてくる。


「と、ともかく! これで街に入れるはずだ! 危険に満ちた野宿生活ともおさらばだ!」

「そうだね。じゃあ、カグヤ。服を脱いで」

「はい?」


 話題を逸らしたと思ったら、今度はリリィから身ぐるみ剥がされそうになっている。


「服が汚れてるのと、体を洗うのと」


 その言葉でふと思い出した。俺は昨日の夕方以降、体を洗っていない。夜中にあった巨大熊との戦闘と消火活動で大量の汗をかいたが、その後は疲労で泥のように眠ってしまったのだ。


 俺はそっと、自分の首元の匂いを嗅ぐ。


「……アブ姉、俺ってもしかして臭ってる?」


 傷つくのが怖くてリリィを避け、アブ姉にすがる。しかし、アブ姉はそっと目を逸らした。


「……えっと、カグヤの服は土で汚れているので、洗濯が必要です。私が洗っている間に、水浴びでもどうですか?」


 優しい言葉のコーティングが逆に痛い。遠回しに「臭い」と宣告された俺は、涙目になりながら水辺へと向かった。


 現在、俺の魂は『俺の理想を詰め込んだ美少女』の肉体に宿っている。その美少女から獣臭が漂っているという事実は、精神的にくるものがあった。何より、俺自身が臭いのは嫌だ。


 自分の身体を極力視界に入れないよう、慎重に全裸になる。


 サブキャラの肉体に憑依してしばらく経つが、いまだに自分の体を直視できたためしがない。いつかは慣れなくてはいけないと頭では分かっていても、チキンな俺にはハードルが高すぎる。


 前世の日本でも、女の子とお付き合いした経験はなかった。決して俺がモテなかったわけではない。家計を助けるためのバイトに明け暮れていたからだ。顔だって悪くない部類だったし、体もちゃんと鍛えていたし……と、虚しい言い訳が脳内を駆け巡る。


 川底に足を踏み入れると、丸みを帯びた小石が足裏を心地よく刺激した。マッサージを受けているようで、少しだけ気分が和らぐ。


「それじゃあカグヤ、そこに座ってください」


 振り返ると、肌着姿になったアブ姉が立っていた。

 言われた通りに座ると、頭から温かい湯をかけられる。アブ姉の魔法だ。


「本当はシャンプーとかトリートメントを使いたいんですけどね。ないものは仕方ありません」


 アブ姉が、そっと俺の頭に手を添える。指の腹に少し力が込められる度、頭皮が揉みほぐされて血流が良くなり、じんわりと体温が上がっていく。

 あまりの心地よさにウトウトし始めた頃、「終わりましたよ」という優しい声が鼓膜を揺らした。


「ありがと、アブ姉」

「服を洗濯して乾かすまで、待っていてくださいね」


 そう言って、アブ姉は下流で俺の服を洗い始める。相当汚れが溜まっていたのか、澄んだ川の水がみるみる濁っていった。その後、アブ姉が火と風の魔法で服を乾かしてくれるまで、俺は三十分近く全裸で身をすくめて待機する羽目になった。


「よし、それじゃあ出発しましょうか」

 俺が服を着終えたのを見て、アブ姉が号令をかける。

「ようやく……ようやく野宿が終わる」

 リリィがしみじみと呟いた。


 俺はラズベリーに似た果物を口に放り込みながら歩き出す。酸味が強烈で、咀嚼するたびに思わず目を細めてしまう。けれど、ほのかな甘みがあって食べるのをやめられない。


「街に入ってからは職探しをしないといけませんね。出入りするたびに、高額な通行税を払うわけにもいきませんし」

「普通、異世界って悠々自適なスローライフとセットなんじゃないの? 異世界に来てまで働くとか……」


 リリィが空を見上げながら、心底嫌そうに愚痴を吐く。


「まぁ、仕方ありませんよ。……ハローワークもないわけですし、どうやって職を見つけましょう。近代以前の世界って共同体意識が強いので、よそ者に仕事を分けてくれるのでしょうか」

「行ってみないとなんともだろ? とりあえず、俺は冒険者ギルドに行ってみたい」


 俺が呑気に提案すると、リリィがジト目で睨んできた。


「私としては、弟に危ない職業について欲しくないんだけどね」

「そうですね。ここ数日の野宿生活だけでも、下手をすれば死んでいたかもしれませんし」


 アブ姉も、俺が冒険者になることには反対のようだ。


「……そうだよな。ゲームや小説と違って、命がかかっているわけだし」


 世知辛い異世界だな、と思いながら、手に残っていた最後の果実を飲み込む。

 ハズレを引いたのか、それは酷く酸っぱかった。

次回から低賃金労働者編が始まります。

読んでいただきありがとうございました!

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