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サブキャラ転生サバイバル ~ポンコツエルフと毒舌吸血鬼と、妹になった俺~  作者: 私はかき氷
第1章『どん底生活』

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3『俺は森の敵じゃない!』

「カグヤ……カグヤ」

 聞きなれない声が、眠っている体をゆする。

 誰だ。

 カグヤって、俺のことか?


「そろそろ起きて。狩りに行ってもらわないと困る」

「……リリィ?」

 瞼を押し上げると、姉貴の――リリィの顔が視界に飛び込んできた。無表情。いつも通りだ。体は変わっても、中身は変わっていない。それだけで、なんだかほっとした。


「変化した後の声に、カグヤって名前。どっちもまだ慣れなくてさ。誰が誰を起こしてるのか、一瞬わからなかった」

「あなたのお姉ちゃんが、寝坊助な弟を起こしに来たの」

 ジト目になっている。こうなるのは呆れた時だ。


「もうそろそろ慣れなよ。名前だって、カグヤが『サブキャラの体になったんだから名前もサブキャラのものにしよう』って言い出したんでしょ」

「あれは転移直後のハイテンションで――っ、痛ってぇ!」

 上体を起こした瞬間、全身が悲鳴を上げた。昨夜、森の延焼を食い止めるために一時間も木を引き抜いてはぶん投げ続けた報いが、一気に押し寄せてくる。


「姉貴、今日の狩りって……休めない?」

「できなくはないけど」

 リリィが少し間を置く。

「アブ姉が朝から魚とキノコと果実を採ってきてくれたから」


 爆発魔法で魚を吹き飛ばして捕まえるという、アブ姉考案の脳筋漁。焦げて身が散らばるせいで味は壊滅的だが、文句は言えない。

 キノコと果実については、ダークエルフの血が騒ぐのか、食べられるかどうか毒の有無まで嗅ぎ分けられるらしい。アブ姉がいなければ今ごろ完全肉食生活だった。野菜は健康に不可欠だ。鬼人に当てはまるかは知らないが。


「狩りは休んでもいいよ。でも探索はしてよね」

 リリィの声のトーンが、わずかに落ちた。

「高値で換金できるものを早く見つけないと、通行税が払えない。昨日みたいに、いつ魔物に襲われるかわからない野宿生活は、もうやだ。命がいくつあっても足りない」

 リリィの顔に、一瞬だけ影が差した。


「筋肉痛もそこまで大したことない気がしてきた。狩りも探索もどっちも行ってくるよ」

 胸を叩く。そんな顔を見せられたら、誰だってそう答える。それに、俺だって野宿には心底うんざりしているのだ。

「無理にカッコつけなくてもいいんだよ?」

「つけてねえし」

 素直にありがとうが言えない人だ。……まぁ、カッコつけようとした自覚が少しあるのも事実だが。


「行ってくる」

「ん、気を付けて」


 顔を洗い、森へ駆け出す。走り出すたびに全身がじわりと痛む。オーバーワークにならなければいいが。回復魔法が筋肉痛に効くかどうか、リリィに試してもらえばよかった。

 昼前の森を、肩で風を切りながら走る。今日は未踏の方角だ。


 木々の密度は高く、直進できない。倒木を飛び越え、幹の下をくぐり抜け、横へ跳んでジグザグに進む。それでも気分は悪くない。アクション映画の主人公になった気がして、少しだけテンションが上がる。


「やべ、服汚した」

 リリィの言葉が頭をよぎる。『中世において服装は最大の身分証明。だから服は大切にして』。貴族は高価な服を、浮浪者はボロ布を纏う。俺たちは今、一着しか持っていない。破けたら終わりだ。


「よかった。穴はない」

 土と落ち葉で汚れてはいるが、洗えばなんとかなる。水浴びの間にアブ姉が火と風の魔法で乾かしてくれるのだ。


 汚れを確認していると、左足にツタが絡みついていることに気づいた。チクチクと小さく痛い。

 前傾姿勢になり、手を伸ばす。


 ――その瞬間だった。


 ツタが意思を持ったように動き出し、俺の足を後ろへ引いた。体勢が崩れ、踏ん張りが間に合わない。顔から地面に倒れ込む。


「いってぇ!」

 うつ伏せのまま、ずるずると引きずられる。顔を上げて後ろを振り返ると、足首のツタが十メートルほど先の植物につながっていた。

 ウツボカズラに似た形。ただし、成人男性をまるごと飲み込めるほどの大きさだ。昨夜の熊といい、この世界の動植物は何もかも巨大化する傾向があるらしい。


「溶けて死ぬのだけは嫌だ……っ!」

 引きずられる途中にあった木の幹を両腕で掴む。ミシミシと悲鳴を上げる木。巨大ウツボカズラの引力は強く、根が土を割って浮き上がり始めた。

「頼む。昨日あれだけ木を引っこ抜いたのは、森を全焼から守るためだったんだ。俺はお前たちの敵じゃない。……見捨てないでくれ!」


 懇願も虚しく、木は根ごと引き抜かれる。俺は幹を抱えたまま宙に浮き、そのまま逆さ吊りにされた。頭に血が上り、思考が滲んでいく。

「こんなところで死んでたまるか!」

 腹に力を込め、抱えていた丸太を巨大ウツボカズラの口めがけて叩き込む。別のツタが伸びてきて丸太を絡め取り、放り投げた。


 ドスン。


 俺は刀を抜き、足首のツタを一閃する。

「空中で一回転……できるわけがないだろ!!」

 二度目の衝撃音が森に響く。受け身も取れず、頭から落下した。鬼人の頑丈な肉体のおかげで怪我はない――でも、めちゃくちゃ痛い。


「これ以上バカになったら、リリィに笑われる」

 口から漏れた言葉を聞かれたら死ぬほど馬鹿にされそうだが、それでいい。立ち上がる。


 巨大ウツボカズラは何本ものツタをうねらせながら、まだ俺を狙っている。その姿はイカに似ていた。奇妙に滑稽で、奇妙に恐ろしい。

 わざわざ相手の土俵で戦う必要はない。


 射程の外まで全力で走り、二十メートルほど距離を取る。子どもの頭ほどある石を拾い上げ、全力で投げつけた。我ながら清々しいほどの卑怯だ。でも弱いんだから仕方ない。正々堂々は強者の特権だ。


 石は防御しようとしたツタを弾き飛ばし、直撃した。

 巨大な穴が開く。そこから消化液がどろりと漏れ出し、周囲の草が音もなく溶けていった。そこだけが、禿げた大地に変わる。


「……勝ったのか?」

 思わず疑問形になった。

 ツタはすべてだらりと地面に崩れ、動かない。恐る恐る射程内に踏み込むが、反応はない。本当に死んだらしい。


 消化液を踏まないよう足元に気をつけながら近づくと、巨大ウツボカズラの根元に、剣と防具が転がっていた。

 巨大ウツボカズラの被害者のものだろう。金属は溶けないようだ。そして傍らに、銀貨が五十枚ほど散らばっていた。

 以前、門番からさりげなく聞き出した話では、庶民の一日の生活費は銀貨一枚から三枚程度だという。五十枚あれば、門番への賄賂にもなるだろう。


 俺は手のひらを合わせた。

「……申し訳ありません。俺たちが生きるために、使わせていただきます」

 銀貨をかき集め、元来た道を引き返す。


 背後で、風が草を揺らした。

改めて読み返すと、巨大ウツボカズラを倒して銀貨50枚ゲットって少しご都合主義な気がするような……。

読んでいただきありがとうございます!

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