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サブキャラ転生サバイバル ~ポンコツエルフと毒舌吸血鬼と、妹になった俺~  作者: 私はかき氷
第2章『Eランク昇格試験』

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18『腹の底からこみ上げてくるもの(物理)』

ゴブリンとスライムがセットなイメージがあるのは何故でしょうか……?

「うぅ……きもち゛わるい……」



 Eランク昇格試験の二次試験を終えて、ナータへと戻る帰り道。俺は半べそになりながら、やや猫背気味で川沿いの段丘を歩いていた。

 俺の左手には、ゴブリンの討伐証明である左耳が四枚――枚という数え方が正しいのかは謎だが――乗っている。



 毎日体を洗ってお風呂に入れる現代日本ですら、耳の裏が臭う人はいた。

 それがゴブリンのものとなると……むせ返るような泥と血の匂いに、得体の知れない悪臭が混ざり合って鼻腔を直接殴ってくる。これ以上は語りたくない。



「カグヤ。私が持ちましょうか?」

 前を歩いていたアブ姉が心配そうに振り返り――足元の石に躓いて盛大に転びかけた。

「……いや、こんな汚物、アブ姉にもリリィにも持たせられない」

 俺は首を振って断固拒否する。

 こういう汚れ役を引き受けるのは、男である俺の矜持だ。もっとも、今の俺のガワは美少女なのだが。



「なら、文句言わずに持てばいいのに」

 リリィがすまし顔でチクリと刺してくる。いつものことだ。

「……それとこれとは別じゃん」

「ははっ。ほんと仲いいなぁ、お前ら」



 両手を頭の後ろで組み、大きく足を振りながら歩くドットが笑う。無駄に体力を使わないのだろうか。

 今回、ドットには非常にお世話になっているため、彼にこの悪臭放つゴブリンの耳を押し付けるという選択肢は、残念ながら存在しなかった。



 川のせせらぎと、遠くから聞こえる羊の鳴き声。頬を撫でるそよ風が心地よい。

 初めてナータを訪れたときも、今と同じような景色だったはずだ。けれどあの時は、「この街で仕事が見つかるのか」「最悪、飢え死ぬのではないか」という不安でいっぱいで、景色を楽しむ余裕なんてなかった。



 ふぅ、と息を吐いて空を見上げる。雲一つない、青く澄んだ空。

「のどかだなぁ……」

 そう呟いて視線を下ろしたとき、ふと視界の端で、青白く透明な球体がプルプルと動いているのを捉えた。……あれは、もしや。



「なぁドット! あれ、スライムか!?」

 俺はドットの横へ駆け寄り、弾かれたように指を差す。

「ちょっ……! 耳がくせぇからあんま近寄らないでくれ!」

 ドットが本気で嫌そうな顔で身を引いた。……少し傷つく。



「カグヤの言う通り、あれはスライムだ。そんな興奮することか?」

 不思議そうなドットの声をよそに、俺はスライムに向かって駆け出していた。畑と牧場を隔てる柵の足元に、そいつはいる。


「足速ぇな、あいつ……」

「ほんと子供みたい」

「まぁまぁ、元気でいいじゃないですか」


 俺の影がスライムを飲み込む。

 海外ではどうだか知らないが、スライムといえば日本人にとっては親の顔より見たかもしれない大人気モンスターだ。



 動きを止め、ビクッと縮こまったスライムを指でツンツンと突いてみる。指紋がまったく仕事をせず、ツルンとあらぬ方向へ指が滑った。

 どうにかして捕まえようと両手で下からすくい上げるが、スライムは流動的な体を活かし、両手のわずかな隙間からスルリと抜け落ちて逃走を図る。本当に摩擦という概念が存在しないらしい。今度は爪を立てて掴もうとするが、やはり滑り落ちてしまう。



「……なに遊んでんの?」

 リリィが呆れつつも、どこか興味を惹かれたような声色で近づいてきた。

「わっ……ほんとに掴めないです! ひんやりしてて気持ちいい! ……リリィもどうです?」

 いつの間にか隣にいたアブ姉もさっそく捕獲に挑戦していたが、結果は案の定だ。リリィも恐る恐るスライムへ手を伸ばしている。



「なぁドット。スライムが剣聖の全力の攻撃に耐えたって噂、ホントか?」

 俺は地面に置いたゴブリンの耳を拾い上げながら、ドットに尋ねた。

「その話は半分ホントで半分嘘だな」

「半分?」

「スライムは物理攻撃に対しては無敵なんだよ。反面、魔力を含んだ攻撃には脆い。剣聖の『魔力を込めていない』全力の一振りには耐えたが、木剣から放たれた弱っちい魔力の斬撃にはあっさり耐えられなかったってわけだ」



 物理攻撃完全無効。それは一般人からすれば、かなり厄介な性質だ。



「魔力の斬撃ってのも気になるけど……まぁそれはいいや。なら、魔法が使えない一般人はどうやってスライムに対処してんだ?」

「方法は二つある。一つは乾燥した土を被せること。中の水分が抜けて死ぬ」

「もう一つは?」



 ドットは、もったいぶるようにニヤリと口角を上げた。



「食うことだ」

「……は?」



 俺とリリィの声が見事に重なる。アブ姉だけは、未だスライムの感触に夢中だ。

 俺たちのドン引きした反応に、ドットはカッカと笑った。



「スライムってのは、分裂したとき『本体に戻る』という意思に従って行動する習性があるんだ。だから、微弱な魔力を含んだ攻撃でスライムの一部を切り離して、その破片を食うんだよ」

「意味がわからない。アルコールで頭がおかしくなったの?」

 リリィの容赦のない辛辣な言葉。今ばかりは俺も完全同意だ。



「スライムの破片が腹の中に入ると、本体は『自分の欠片と合体しよう』として、食ったやつをどこまでも追跡してくるんだ。手で捕まえるのが困難なスライムを、この方法で箱の中にでも誘導して捕獲する。んで、ギルドに持って行って報酬を得るってわけだ。あとの処理は専門のやつがやる」

「な、なるほど……。ちなみに、捕まえたスライムは何に利用されるんだ?」

「防腐剤や防水材の素材になるんだよ。スライムはそこそこレアだから、一体で銀貨一枚になる。……カグヤ、食ってみるか?」

 貧困に苦しむ俺たちにとって、それはあまりにも魅力的な悪魔の囁きだった。



「カグヤ」

 リリィが俺の名前を呼ぶ。顔を向けると、彼女は無表情のままコクリと頷いた。

 ……多分、「お前が食べろ」ということだ。



「……アブ姉。小規模な魔法でスライムを攻撃してくれ。破片が切り離されたら、俺が食べるから」

「はい? ……わかりました」

 アブ姉がきょとんとした顔をする。この人、スライムに夢中でドットの説明をまったく聞いていなかったな。



 アブ姉が言われるがままに小さな風の刃を放つと、スライムの一部がゼリーのようにぽろりと切り離された。

 俺は意を決して、パクリと飲み込んだ。



 ……結論から言う。

 味はまったくしなかった。



 けれど、胃の中に落ちたスライムの欠片が、外にいる本体と合流しようと胃壁を内側からよじ登ろうと蠢き続け、俺は帰り道で何度も吐きそうになった。

 ドットには「お前のその顔、銀貨一枚以上の価値があるぜ」と腹を抱えて爆笑された。



 ……決めた。俺は今日からアンチ・スライム過激派になる。

 異世界でのスライムとの初遭遇は、俺の心と胃袋に重いトラウマを植え付ける結果となった。

書き終わってから気づいたのですが、木箱をスライムに被せて捕まえればいいのでは……?

読んでいただきありがとうございました!

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