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サブキャラ転生サバイバル ~ポンコツエルフと毒舌吸血鬼と、妹になった俺~  作者: 私はかき氷
第2章『Eランク昇格試験』

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15『人間という生き物の二面性』

「よぉし。それじゃあ外に行こう」

 ドットの陽気な声が通りに響く。ほのかに酒の匂いを漂わせながら、彼はナータ唯一のメインストリートを、まるで凱旋でもするかのように闊歩していた。



 彼の名誉のために言っておくと、この世界で昼間から酒を飲むことは別段珍しくもない。水分補給に酒を使うからだ。

 都市部の生水は細菌や寄生虫に汚染されていることが多く、下手に飲めば命取りになる。



 酒は製造過程で煮沸や発酵が施されるため、水よりもはるかに安全な飲み物として重宝されているのだ。

 だから幼い子供さえ、当たり前のように酒を口にする。魔法使いに清潔な水を生み出してもらうこともできるが、当然ながら料金がかかる。

 ……まぁ、それがアブ姉の主な収入源なのだが。

 ちなみに俺たちの水分補給はもっぱらアブ姉の生成した水だ。健康がどうこう以前に、酒を買う余裕がない。



 向かいから馬車が来たので、俺は端に身を寄せながらドットへ声をかけた。

「スッスさんは置いていっていいのか?」

「エルフの嬢ちゃんのせいで使い物にならねぇんだよ。あんな状態で魔物と戦えるわけないだろ」

「……すみません」

 アブ姉がぺこりと頭を下げる。



「いいんだよ。どうせこれから行く先には雑魚しかいねぇ。お前さんらも十分強いから問題ない」

 Eランク昇格試験の二次試験――その内容は、ゴブリンを三体、大きな怪我なく仕留めること。ドットはその監督官として付き添っている。



「そういやカグヤ」

 ドットが欠伸をひとつ。

「ん? なんだ、ドットさん」

「さんはいらねぇよ。お前はそういうタマじゃない。……それよりお前、いつぞやの荷運びのとき、他の労働者の仕事を根こそぎ奪ったよな?」

 声のトーンが一段、静かに落ちた。



 ナータに来た最初の日のことだ。ある商人の馬車五台分の荷運びを、俺は一人で七割方片付けてた。そして、残りの三割を他の七人がこなした。

 仕事が終わったあと、俺は商人に直談判した。複数人で二時間かかる仕事を、自分一人なら一時間で終わらせると説き伏せ、その荷運びを一手に引き受けることにしたのだ。



「ああ……あれな。リリィにこっぴどく怒られた」

「当たり前でしょ」

 リリィが小さくため息をつく。

「現代日本でも仕事を奪えば恨まれる。中世の世界観ならなおさら、どれだけの敵を作ると思ってるの」



「あの商人さんがいい人でよぉ」

 ドットが続ける。

「仕事を奪われた連中のために、わざわざ新しい仕事を作ってやってさ。そのうえでカグヤへの報復も抑えてくれたんだぜ」



「……え?」

 思わず足が止まりそうになった。胸の奥が、じわりと熱くなる。

「まぁともかく。気を付けることだな」



 異世界に来てから、嫌なことは数え切れないほどあった。

 街に入れずサバイバル生活を続けたこと、門番に賄賂を要求されたこと。でも確かに、いいこともあった。

 灰猫亭の店主のベットの厚意。ヴァンスの不器用な善意。そして今回の商人。



「……人間って、ひどいこともするけど、それと同じくらい、お節介で親切だよな」

 感謝を嚙み締めながら、昼前の街を歩く。



「ていうかドット。なんでそんなこと知ってんだ?」

 少し遅れて気づき、俺は問い返す。

「ん? ……ああ、俺がその商人の娘さんと付き合ってるのは知ってるだろ?」

「ヒモの間違いだろ」

「うるせぃ! 彼氏だ! ……で、その娘さんの父親ってのがそうだったのさ。俺にとってはお義父さんだな」



 人口二千人のナータは城塞都市。世界は否応なく狭い。

「そのお義父さんに殴られないよう、娘さんのお小遣いで娼館に通うのだけはやめとけよ」

「……わかってらぁ」

 絶対わかっていない、と思った。リリィはあからさまにため息をつき、アブ姉は苦笑いを浮かべた。



「おっ! いつぞやの三姉妹じゃねぇか。ナータを出ていくのか?」

 いつの間にか門に着いていた。あの門番だ。ねっとりとした視線をこちらに向けながら、相変わらず強い酒の匂いを漂わせて近づいてくる。

「Eランクへの昇格試験だ。だから俺の刀を返せ」

 入城の際に没収された、俺の刀。



「ん? ああ……えーと。ちょっと待ってろ」

 奥へ引っ込んでいく門番。

「なぁアブ姉。なんかすごく嫌な予感がするんだけど」

「奇遇ですね。私もです」



 五分待っても戻ってこない。業を煮やしたドットの怒鳴り声が炸裂した。

「うっせぇな。聞こえてらぁ」

 怒鳴り返しながらようやく姿を見せた門番の手には、刀とはかけ離れた西洋の両刃剣が握られていた。



「ほら。これだ」

「どう見ても違うだろ。こう……刀身が弧を描いて反ってるやつだ」

 俺は手ぶりで形を示しながら苦言を呈した。

「どっかいっちまったんだよ。とりあえずそれ使え。ナータに戻ったとき返してくれりゃ問題ないだろ?」

「……」

 言葉が出なかった。



「私たちがここに来たとき、『せいぜい真面目に働けよ』と言っていたのは聞き間違いだったのかな」

 俺の代わりに、リリィが静かに、しかし鋭く言葉を放つ。

「んなこと覚えてねぇよ。ほら、さっさと行け行け。仕事の邪魔すんな」

「……」

 リリィもまた、言葉を失った。



 アブ姉がコホンと小さく咳払いをする。

「カグヤ。リリィ。これ以上は無駄ですから、行きましょう。……それに、今から武器を買いに行けるお金もありませんし」



 前言撤回だ。

 人間はいやなことばっかりする生き物だ。

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読んでいただきありがとうございました!

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