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サブキャラ転生サバイバル ~ポンコツエルフと毒舌吸血鬼と、妹になった俺~  作者: 私はかき氷
第1章『どん底生活』

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10『食事と喧嘩はセットで提供』

第一章ラストです。軽く戦闘があります!

 暖炉の爆ぜる音と、各テーブルに置かれた安っぽい蝋燭の灯りだけが、薄暗い灰猫亭を照らしている。

 リリィの蘊蓄によれば、中世レベルの文明における蝋燭は獣脂がメインで、本来なら酷く臭い煙を出すらしい。だが、目の前で燃える薄緑色の蝋燭はまったくの無臭だった。


 先ほどナイスミドルな店主に尋ねたところ、『アブラギッシュ草』なる植物を溶かして固めたものだという。ふざけた名前だが庶民の味方で、舌が縮み上がるほど不味くて料理に使えないこと以外は、照明としてパーフェクトな植物らしい。



「お待ちどう」


 店主が忙しなく立ち回り、俺、リリィ、アブ姉の前にドカッと料理を置いていく。ちなみに見知らぬ客と隣り合うのを嫌がるリリィは、俺とアブ姉の間にすっぽりと収まっていた。


 本日の夕食は、豆、キャベツ、玉ねぎ、根菜をベースに、ベーコンの切れ端が浮いたドロドロのスープ。それから石のように硬い黒パン、ゆで卵、そして濁ったエールだ。


「うまいけど……ちょっとしょっぱいな」


 スープは肉が少なく、僅かに肉汁の風味がする程度。唐揚げやミートスパゲッティの味を知る日本人の感覚からすると、どうしても物足りなさを感じてしまう。


「タンパク質も足りませんね……。やはりEランク冒険者になって稼ぎを増やし、お肉をもっと食べられるようにならないと」


 アブ姉が硬い黒パンをスープに浸し、しみじみと呟いた。

 日本にいた頃、日々の調理は俺とリリィが交代で担当していたが、食材のやり繰りやレシピ考案はアブ姉の管轄だった。彼女は如何に安く、健康的な食事を実現するかに心血を注いでいたのだ。



「……ところでアブ姉」

 俺はテーブルにドンと置かれた大ジョッキを見つめる。

「俺ってまだ未成年なわけだけど、これ、飲んでもいいの?」

「……そうですね。ここは異世界ですし、日本の法律は適用されませんから」

 アブ姉が少し困ったように眉をひそめる。


「教会で聞いたけど、この世界、十二歳から成人だってさ」

 横から口を挟んだリリィが、両手でジョッキを抱えてエールをゴクゴクと煽った。

「うわ……すごい甘い。あ、でも、後から爽やかな苦みがくる」

 よほど気に入ったのか、リリィは勢いを止めずに飲み続けている。


「……じゃあ俺も。いただきます」


 恐る恐るジョッキを持ち上げ、人生初のお酒を口に運ぶ。まさか初めての酒が異世界の代物になるとは思わなかった。

 鼻を抜けるのは、焼きたてのパンのような芳醇な香り。一口啜ると、麦芽の濃厚な甘みと、森のハーブを思わせる爽やかな苦みが口いっぱいに広がった。

 ドロリとした重厚な液体が喉を通るたび、歩き疲れた体にカッと活力が戻ってくる。少しひんやりしていて、非常に腹に溜まる感覚だ。


「すげぇ……! これだけでお腹いっぱいになるかも」


 隣で狂ったようにエールを煽る男を内心「酒カス」と馬鹿にしていたが、今なら彼の気持ちも少しわかる。

 これはまるで「飲むパン」だ。親友であるはずの空腹との仲を容赦なく切り裂いてくる、圧倒的なカロリーの暴力。エールとは友情クラッシャーだったのだ。


「カグヤ。酔いは大丈夫ですか? 初めてでそんなに急いで飲むものではないですよ……?」

 アブ姉が心配そうに覗き込んでくる。

「大丈夫。鬼人になったおかげかな? いくらでも飲める自信があるよ」

「飲みすぎは駄目ですよ。……そもそも、浴びるほど買えるお金もありませんが」

 アブ姉の現実的な一言に、アルコールで上がりかけていたテンションが少し落ち着く。



 その時だった。

 酒の回った労働者らしき男が、サイコロの出目を巡って隣の商人の胸ぐらを掴み上げた。

 ガタンッ! と重い音を立てて長いベンチが倒れ、座っていた何人かが床に転がる。


「てめぇ、イカサマしやがったな!」

「なんのことでしょう。お疲れが溜まっているのでは?」

「……金持ちだからって俺ら貧乏人を馬鹿にしやがって! 誰がてめぇらの生活を支えてると思ってんだ!」


「喧嘩……でしょうか?」

 アブ姉が身をすくませる。

「なんか、周りの反応を見ると日常茶飯事っぽいぞ?」


 他の客たちは慣れた手つきで自分の皿やジョッキを抱え上げ、スッと距離を取っている。それどころか、面白がってヤジを飛ばす奴までいる始末だ。


 天井の低い食堂に、怒号と肉がぶつかる鈍い音、陶器が割れる甲高い音が混ざり合う。

 宿の主人は深いため息をつくと、カウンターの裏から使い込まれた太い棍棒を取り出した。流石はナイスミドル、棍棒を構える姿も様になっている。


「喧嘩両成敗だ。お前ら、両方出ていけ!」

「うっせぇよ!」


 激昂した労働者が、店主に向かってサイコロを投げつけた。それが真っ直ぐ飛んでいき、店主の右目に直撃する。


「いってぇ……!」

「はっ! 図体がデカいだけじゃねぇか。引っ込んでろオッサン!」


 顔をしかめ、右目を押さえてうずくまる店主。



 それを見た俺は居ても立っても居られず、隣のリリィを見た。いつもなら面倒事は止められる。けれど、今日は違った。


「殴り合いの喧嘩とか幼稚でバカらしいけどさ……今日は、してきていいよ。……ああでも、カグヤは元から幼稚でバカらしいから問題ないか」

「俺は子供じゃねぇし! ていうか、素直に店主が心配だって言えないリリィの方が子供だろ」


 リリィはぷいっと顔を逸らす。

「早く行ってきなよ。あの店主にはベッドを用意してもらった恩があるからね」

「あ……えと……気を付けてくださいね! あと、なるべく恨みを買わないように……!」

 アブ姉の切実な声援を背に受けながら、俺は堂々と労働者と店主の間に割って入った。



「ああ? なんだアマ? オッサンの女か? 男を傷つけられて怒ってんのか? んなオッサンより俺にしろよ、俺の方が強ぇし若いぜ?」

「違ぇよ。食事を邪魔されて怒ってるだけだ。それに、店主に何かあったらこの宿に泊まれなくなっちまうだろ」


 店主を傷つけられてムカついているのは事実だが、ここはなるべく冷静に言葉で場を収めようと奮闘する。

 周りの野次馬からは「俺、あの姉ちゃんが勝つほうに銀貨一枚な」「お前それ大穴狙いすぎるだろ」という笑い声が聞こえてくる。本当に、酒場の喧嘩はちょっとした娯楽イベント扱いらしい。


「嬢ちゃん、気持ちはありがたいが下がってな。女のすることじゃねぇ」

 後ろから店主が声をかけてくる。

「大丈夫。俺、多分そこらの男より強いから」

「……多分?」


 店主が間の抜けた声を出す。無理もない、俺自身、異世界に来てからまともに人と戦ったことがないのだ。確証なんてあるわけない。その状態で喧嘩の仲裁に入るとか、我ながらどうかしている。


「はぁ? お前、俺より強いってか?」

 俺の言葉が癪に障ったのか、労働者がギリッと拳を握りしめた。

「じゃあ試してみようぜ! 泣くんじゃねぇぞ!」

 労働者が右腕を大きく振りかぶる。


 ――遅い。


 意識を集中した俺の目には、その動きが完全なスローモーションで映っていた。出来の悪いパラパラ漫画を、さらに低倍速で再生しているようなひどい遅さだ。

 俺は手を伸ばし、振り下ろされようとしていた労働者の右腕をそっと掴んだ。


 ピタリ。


 たったそれだけで、彼の動きは完全に停止した。労働者の目が、驚愕に見開かれる。

「て、てめぇ……っ」

 安っぽい三下のようなセリフしか出てこない労働者に、俺は静かに、ただジッと目を見て告げた。


「なぁ。酔いは冷めたか?」


 ギリギリと腕を締め上げる感覚に、労働者はまるで人外の化け物でも見るような目を向け、狂ったように何度も頷いた。


「よし。それじゃあ飯の続きにしよう。俺が一杯奢ってやるよ」

「……へ?」

「そこの商人もだ。みんなで一緒に飲もうぜ!」


 俺は片手でひょいと倒れたベンチを元に戻し、ぽかんとしている二人を座らせる。


「店主! こっちにエール三杯追加で!」

「お、おう……。了解だ嬢ちゃん。あんたすげぇな……!」


 よし。これで大丈夫だろう。

 人は、自分に何かを与えてくれた相手に悪意を抱き続けることは難しい。これは昔からリリィがよく使う手口だ。俺に要らない物を押し付けてきて、その直後に厄介な頼み事をしてくるのである。


 そんなことを考えながら振り返ってリリィを見ると、彼女は「グッジョブ」とでも言いたげに、いつも通りの無表情で親指を立てていた。

第一章完結です。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


もし「この先も見届けたい」と思っていただけたら、評価や感想をいただけるととても励みになります。


明日からはしばらく毎日更新していきます。

第二章では、ヒモでクズな冒険者や――一筋縄ではいかないゴブリンとの戦闘が描かれます。

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