勝利はすれども、問題は残った
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──勝利はすれども、問題は残った
「ジークさん、セラフィーネさん!」
エマはジークとセラフィーネを出迎えた。
「エミール。勝ったぜ。フォーラントはぶちのめしてきた」
「やったんですね……! 流石です!」
「まあ、完全にぶち殺したわけじゃないんだけどな……」
ジークは500年後には再びフォーラントが復活することをエマに伝えた。
「それでもジークさんたちは500年の平和を勝ち取ったんです。それはとても立派で、賞賛に値することですよ」
「そう言ってもらえると安心できるな……」
ジークはエマの言葉に恥ずかしそうに後頭部を掻いた。
「じゃあ、ベルククローンに戻って連合軍に勝利を伝えないとな」
それからジークたちは元来た道を戻っていき、ベルククローンに帰還する。
連合軍が奪還した都市は今も連合軍の占領下にあり、番兵はジークたちを見るとすぐさま司令部にジークたちの帰還を知らせた。
「おお。無事にフォーラントを討ち破ったのか、勇者ジーク、魔女セラフィーネ?」
連合軍司令官のエルヴィンがそうジークたちに尋ねる。
「ばっちりだ。500年後にまた復活するだろうが、それまでは無害になった」
「おおー!」
ジークの言葉にエルヴィンたちが喜びに沸く。
「やったぞ! これでトリニティ教徒たちも大人しくなるだろう! 我々の勝利だ!」
「やったー!」
エルヴィンが勝利を宣言し、連合軍の将兵たちが勝利を祝う。
「まだトリニティ教徒たちは降伏していないのか?」
「連中はまだフォーラントが討たれたことを知らないのだろう。まだ降伏していないが、これから一気に弱体化していくはずだ。何せ信じる神を失ったのだからな」
「そう願いたいね」
あの邪悪なフォーラントが自分が倒されたとして、すぐさまトリニティ教徒が解散するような仕組みにしているだろうかという疑問はあった。
「さあ、とりあえず今日は勝利を祝おう! 英雄たちの凱旋を祝おう!」
そのようなジークの心配はよそにエルヴィンは祝いの場を設け始めた。
トリニティ教徒たちにフォーラントが討ちとられたことを知らせる目的もあるのだろう。宴は市民も招かれ、盛大に行われた。
「英雄に乾杯!」
「勇者ジーク万歳!」
人々はようやく平和が訪れることに安堵しており、酒の杯を掲げて乾杯し、盛大に酔っぱらっていた。
「勇者ジーク。フォーラントは強敵だったのですか?」
「ああ。もちろんだ。とてつもなく強いやつだったぜ」
「それを倒したわけですな。流石です!」
ジークたちは市民に囲まれ、賞賛の言葉を浴びていた。
「何だか照れ臭くなるな……」
「素直に受け取っておけ。お前は確かに賞賛されるだけのことをしたんだ」
ジークが恥ずかしそうに言うのにセラフィーネは小さく笑ってそう言った。
「しかし、これで俺の不老不死も解けるな」
ジークは英雄神アーサーからの依頼を果たした。彼はその見返りに不老不死を解いてもらうつもりであった。
「……やはり不老不死を解くのか」
「ああ。俺は長く生きすぎちまったからな」
セラフィーネが小さく言うのにジークはそう言って頷いた。
「そうか。お前の決めたことだ。とやかく言うつもりはない」
セラフィーネはそう言い、本当にそれ以上は何も言わなかった。
「明日、神々の神殿に言ってアーサーに報告する。それからはあんたと一緒に過ごすさ。俺が死ぬまでな」
「感謝する、ジーク」
それからふたりはは静かに酒を飲み交わし、勝利に沸く人々の中で過ごした。
* * * *
翌朝、ジークたちはベルククローンの神々の神殿に向かい、アーサーにフォーラントを討伐したことを報告することに。
「ようこそ、勇者ジーク様」
ジークたちは神殿の神官たちに迎えられ、礼拝堂に入る。
「アーサー! 聞こえているか! 俺はフォーラントをぶっ倒してきたぞ!」
ジークが礼拝堂でそう叫ぶ。
すると、光の粒子がジークたちの前に英雄神アーサーの姿を形成した。
「おお。流石だ、勇者ジーク! 私が見込んだだけはあったな!」
アーサーはそう傲慢そうに笑う。
「おうおう。あんた、フォーラントを倒せば願いを叶えてくれるって話だったよな? 俺の不老不死を解いてもらうか!」
ジークはそうアーサーに要求。
「残念だが、それは断る」
「……はああああ!?」
アーサーがあっさりとそういうのにジークが信じられないと彼を見る。
「お前も知っているだろう。500年後には再びフォーラントがよみがえるのだ。それならばそれを討つ勇者が必要だ。そのためにもお前は生き続けなければならない」
「ふっざけんな! あんた、俺の俺の願いを叶えるって約束しただろう!?」
「不老不死を解く以外の願いならばかなえてやろう」
アーサーはそう言い、ジークの不老不死を解くという話を受け付けない。
「……もうブチ切れたぜ。あんたがそのつもりなら、俺の取る手はひとつだ」
ジークはそう言って“月影”を出現させると、その刃をアーサーに向ける。
「俺と決闘しろ、アーサー。まさか逃げはしないよな? 英雄神であるあんたが地上の人間である俺からの決闘から逃げたら一生笑いものだぞ?」
「……不敬なことを。だが、いいだろう。決闘に応じてやる」
ジークの言葉にアーサーはそう応じる。
「場所と日時は?」
「今すぐにこのベルククローンの外にある丘の上でだ」
「よかろう。待っているがいい」
アーサーはジークの決闘の求めに応じ、一度姿を消した。
「あのクソ野郎め! ぼこぼこにしてやるっ!」
「ああ。そうしてやれ、ジーク。お前の願いを叶えると約束しておきながら、あの変心ぶり。神々にあってはならぬものだ」
「おうよ。しかし、あんたは止めるんじゃないかって思ってたけどな」
セラフィーネは熱心な神々の崇拝者だ。だから、ジークは神々の一柱であるアーサーに対して決闘を挑むのにセラフィーネは不敬だと反対すると思っていた。
「私は信じる神々はあんな俗物ではない。お前との約束では確かに不老不死を解くと約束したのだ。それを身勝手に反故にしたのは許されることではない。私は神々を尊敬しているからこそ、あの振る舞いが許せないのだ」
「そうか。じゃあ、俺も心置きなくアーサーをぼこぼこにしてくるよ」
セラフィーネが憤慨していうのにジークはそう言ってにやりと笑った。
それからジークたちはベルククローンの郊外にある丘の上に上る。
「アーサー! さっさと出てこい!」
ジークがそう叫ぶと天からふたつの光が差し、英雄神アーサーと戦神モルガンが姿を現した。アーサーは不快そうに、モルガンは愉快そうにジークの方を見る。
「神々に決闘を挑むとはな。流石はセラフィーネが惚れた男だ」
「そりゃどーも。モルガン様は何の用事で?」
モルガンは楽しそうにそういうが、ジークには彼女がここにいる理由が分からない。
「不老不死のお前とアーサーが決闘しても勝負がつかないだろう? だから、私が公正な決闘になるように見届け人をする」
「ほう? ルールを決めてやるってことですか?」
「そうなる。ルールはふたつだ。ひとつは首を先に落とされた方の負けで、もうひとつは降参を先に宣言した方の負け。それだけだ」
「シンプルでいいね」
モルガンが宣言するのにジークはにやりと笑って同意した。
「お前の方も異論はないな、アーサー?」
「どのようなルールだろうと神である私が負けることはない」
モルガンが確認し、アーサーはそう頷く。
「それでは決まりだ。両者、位置に着け!」
モルガンがそう命じ、アーサーとジークが対峙する。
「覚悟しろよ、アーサー。あんたに人間に決闘で負けたヘタレ神という不名誉を称号をくれてやるからな」
「ほざけ。私はお前などにやられたりしない」
ジークが不敵な笑みで告げるのにアーサーは手に握る聖剣を構えた。
「では──始め!」
モルガンの号令とともにふたりは素早く動いた。
先手を打ったのはアーサーで聖剣をぐんと振るってジークの首を真っすぐに狙ってきた。しかし、この攻撃を読んでいたジークは攻撃を素早く弾き、カウンターを叩き込んだ。アーサーの左腕が僅かに裂かれ、鮮血が舞い散る。
「おらおらおら! 行くぜっ!」
ジークはさらにアーサーを猛追し、アーサーが防戦に追い込まれる。
「英雄神をなめるなよ、ジーク!」
しかし、傷を再生させたアーサーも反撃に出て、両者は激しく斬り合う。
両者の技量はほとんど同じ。ゆえに油断した方が先に負けるだろう。
彼らは一度切り結ぶのをやめて距離を取り、それからじっと対峙する。
「息が上がってるぜ、英雄神……!」
「お前もそうだろうが、ジーク……!」
ジークがにやりと笑って言うのにアーサーの方は余裕がなさそうであった。
ふたりはお互いの隙を探ってじっくりと対峙する。少しでも隙を見せた側が先に斬られることは間違いないであろう緊張した雰囲気だ。
空気が緊張で粘性を持ったかのように感じられる中で、先に動いたのはアーサーだ。
「覚悟!」
アーサーはジークに向けて突きを出し、ジークの首を狙う。
「甘いっ!」
しかし、ジークはアーサーの動きを読んでいた。
ジークはアーサーの斬撃を弾き飛ばし、すぐさまカウンターを繰り出す。
その斬撃によってアーサーの首が刎ね飛ばされるかに見えたが、アーサーは辛うじて上半身をそらし斬撃から逃れた。
「ちっ! 惜しい!」
「くっ……!」
ジークは素早く身を引いて反撃に備え、アーサーも息を整えて聖剣を構える。
「面白い戦いになってきたな」
モルガンはそう隣にいるセラフィーネに告げる。
「ええ。ですが、最後に勝つのはジークだ」
セラフィーネはそう確信した様子で返す。
それからジークとアーサーたちは再び剣を交え、激しい斬撃の応酬が繰り返され、それから再び彼らは距離を取る。
流石のジークも英雄神が相手となっては楽な戦いとは言えず、額に汗がにじんでいる。だが、アーサーの方は荒く息をしており、ジークより損耗しているのは確かだ。
次で決めなければ持久戦になるとお互いに不利だ。ふたりはそう確信し、決定的な攻撃を放つためのタイミングを見張る。
じりじりと距離と取りながらお互いの隙を探すジークとアーサー。
そして、次にふたりが動いたとき、それは同時だった。
「はああああっ!」
「ふんっ!」
ジークがアーサーの首を狙い、アーサーがジークの首を狙う。
そして、先に首が飛んだのは──。
「よし!」
アーサーだ。アーサーの首が宙を舞う。
ジークはその光景に思わず歓声を上げた。
「やったな、ジーク! お前の勝ちだ!」
「ああ。勝ったぜ! 俺の勝ちだぞ、英雄神!」
セラフィーネが喜びに叫び、ジークもそう声を上げる。
「何だと……! この私が……!?」
アーサーの首が信じられないという表情を浮かべていた。
「この決闘に定められたルールに従いお前の負けだ、アーサー。神である身に驕ったな。実に愚かな男だ」
モルガンは冷たい笑みを浮かべてアーサーの方を見る。
「さて、ジークよ。お前は神であるアーサーを打ち破った。そのことは讃えられなければならない。神々としてお前に権利を与えよう」
「……権利?」
「お前が神々の一柱となる権利だ」
「ええっ!?」
モルガンの言葉にジークは目を見開いて驚く。
「どうした? 不満か? だが、お前に拒否権はないぞ。神々を破った人間を迎え入れなければ神々の格が落ちる。ゆえにお前には権利と同時に義務が生じる。神々としてこれから務めを果たす義務だ」
「いや、でも、俺はそう言うつもりだったんじゃ……」
「神々に喧嘩を売って、何もないと思っていたのか? 甘い考えだな」
神々というものはいかに悪質であるかとジークは忘れていたようだ。
「……ああ。クソ! 分かったよ!」
ジークはしばし逡巡した末にモルガンの提案にそう叫んだ。
「しかし、条件がふたつある」
「何だ?」
「まずアーサーを追放して俺が英雄神になることだ。それを求める」
「ふむ。いいだろう。人間に負けたものを神々としておくことはできないからな」
「それからセラフィーネも同じように神々に迎えてくれ。今回のフォーラント討伐が果たせたのは、あいつがいたからだ」
「ほう。面白い提案だな。ふたりで英雄神を務めるのか?」
「そうなる」
ジークはそう言ってセラフィーネの方を見た。
「ああ。私は構わないぞ。むしろ歓迎する」
セラフィーネはそう言って優し気に微笑んでいた。
「では、決まりだな。アーサーを追放し、お前たちふたりを新しい英雄神として迎え入れる。このことはすぐさま布告される」
モルガンがそう言うのにアーサーは焦って首を拾ってあるべき位置につける。
「待ってくれ! 私はどうなるのだ!? 追放とは!?」
「アーサー。お前はこれから地上で暮らせ。ただの不老不死の人間として」
「そんな……!」
「人間を相手に決闘で負けたのだ。神々である資格はない」
モルガンの言葉にアーサーはがくりと地面に膝をつく。
「では、ジーク、セラフィーネよ。お前たちを神々として迎え入れよう!」
モルガンはそう改めてジークたちに告げたのであった。
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