邪神討伐
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──邪神討伐
「本当に私たちが戦わなければならない理由がある?」
この期に及んでもフォーラントはそう疑問を呈する。
「君は神々にひどい目に遭わされただろう? それなのにまだ神々のために戦う必要があるのかな? もし、それが神々に不老不死を解いてもらうことだとすれば──私がそれを解くことができるのに」
「……なんだって……?」
フォーラントが言うのにジークが目を見開いてそう尋ねる。
「できるよ。君に不老不死を解くことは。私だって神格だからね。それぐらいは朝飯前さ。君が望むならば不老不死を解いてあげよう」
その代わり、とフォーラントは続ける。
「これ以上、私の邪魔はせずに来た道を戻ってもらうことになるけどね」
フォーラントは囁くような声でそう言い、ジークの方を見つめた。
ジークはどう答えるべきかを悩んでいる様子だ。
「ジーク。神々のために戦わなくていい。これまでお前が知り合い、友情を深めた人間のために戦え」
ここでセラフィーネがそう言い、ジークは決意したように両手d絵自分の頬を叩く。
「オーケー。交渉は拒否だ。やっぱりお前をぶっ潰す!」
ジークのその決断にセラフィーネはにやりと獰猛に笑った。
「残念だよ、勇者ジーク。では、戦うしかないね」
フォーラントはそう言うと座っていた椅子から立ち上がり、ふわりと宙に浮かぶ。同時にその背後に巨大な骸骨が姿を見せた。
「上位悪魔か……!」
「相手にとって不足なしだ」
ジークが呻き、セラフィーネは笑う。
「さて、では死にたくなるほどに殺してあげよう」
フォーラントがそう宣言すると背後に現れていた上位悪魔が巨大な剣を振るってジークたちに襲い掛かる。
「クソ。また厄介な代物を……!」
ジークが呻きながら迫る剣を躱す。
上位悪魔はその巨体からは想像できない速度で剣を振るってくる。ジークたちは反撃の機会を窺うが、なかなかその機会は訪れない。
「相手はジークだけではないぞ!」
ここでセラフィーネがジークの援護に回る。無数の朽ちた剣を上位悪魔に向けて叩き込み、その巨体を揺るがす。
だが、それでも上位悪魔は体を再生させて再びジークたちを襲ってくる。
「多少のダメージは無意味か……!」
セラフィーネはそう唸り、攻撃を叩き込み続ける。
「何か決定打になるものが必要だ。今の俺たちでは……」
ジークは上位悪魔とフォーラントを前にして自分たちでは勝てないということを悟っていた。少なくとも今もジークたちでは上位悪魔にダメージは与えられても、致命傷になる打撃は与えられない。
「勇者ジーク!」
そこでこの場にジークたちでもフォーラントでもない声が響いた。
「この声はアーサー!?」
そう、アーサーの声だ。
「お前に神々からの加護を与えよう! これを以てして邪悪を討つとよい!」
アーサーがそう言うとジークの“月影”に不思議な色が宿った。いつもの青白いそれが緑色の輝きを宿したのである。
「なんだか知らんが、これでやれるならいいんだけどな!」
ジークはアーサーの言葉を信じ、上位悪魔に挑む。上位悪魔がジークを狙って巨大な剣を振るってきて、ジークはそれを迎え撃つ。
上位悪魔の巨大な剣がジークの“月影”に触れたとき、上位悪魔の剣はばらばらに崩壊していき、上位悪魔が狼狽えるのが分かった。
「おいおい。マジかよ……!」
「これならいけるぞ、ジーク!」
「ああ!」
セラフィーネが叫び、ジークが獰猛な笑みで頷く。
それからジークはセラフィーネの援護を受けて上位悪魔に向けて突撃。フォーラントの背後から前に出た上位悪魔がジークに新しく出現させた剣を握って襲い掛かる。
「無駄!」
ジークは上位悪魔の動きを予想しながら、それを回避して跳躍すると悪魔の首を刎ね飛ばした。悪魔は断末魔の叫びを上げながら地面に崩れ落ちていく。
「おやおや。神々が重い腰を上げたみたいだね。困ったな」
フォーラントは倒された上位悪魔を見てそう呟く。
「けどね。だけれどね。私を完全に倒してしまうと言うのは不可能なんだよ」
「今さら命乞いか?」
「そう思う? 実際のところ、今の状況は500年前と同じだよ。君は私をコテンパンにしてこの世界から蹴りだすだろう。だが、それだけだ。私はまだ傷を癒してこの世界に戻ってくるだろう」
「……クソ」
そうなのである。ジークたちには500年前から違った力が備わったわけではない。フォーラントを完全に消し去れる力があるならば、500年前にその力を使ってフォーラントを消し去っていたのだから。
「というわけで、取引をしよう。私もコテンパンにやっつけられるのはいやだし」
「お断りだ。お前は信用できない」
「ぶーっ。賢明じゃないね」
ジークはフォーラントの求めを一蹴し、フォーラントは唇を尖らせる。
「お前がまた戻ってくるなら、そのときはまたコテンパンにしてやるさ。さあ、ぼこぼこにされる準備はできたか?」
「やれやれ。本当に嫌になるなぁ……」
フォーラントがそういうぼやくと同時に彼女の背後から無数の触手がのたうって現れた。不気味にぬらぬらとした灰色の体液を滴らせて、蠢く触手の群れだ。それらの触手はジークたちに向かって伸びていく。
「ならさ、ぼこぼこにしてごらんよ! 私も抵抗するからね!」
「ああ! 言われずともやってやる!」
ジークはフォーラントが展開した触手を斬り倒し、フォーラントに迫る。
「ジーク! その触手はやつの本体なのか!?」
「ああ! そうだ! これがやつの本性だ!」
この触手こそ邪神フォーラントの本性の一部と言えるものであった。少女としての姿はアバターに過ぎず、本体はグロテスクな触手がうねり合ったものなのである。
「斬って、斬って、斬って、斬り殺す!」
ジークは“月影”の刃を振り回し、迫る触手を斬り倒し続けた。
「蹴散らしてやろう!」
セラフィーネの方も朽ちた剣を叩き込みながら、フォーラントを抑え込む。
しかし、流石は邪神フォーラントと呼ぶべきだろう。彼女はジークとセラフィーネの猛攻を受けながらも依然として抵抗していた。
「私も神格なんだよね。だから、そう簡単にはやられてあげないよ!」
フォーラントはそう言いうねる触手を大量に現わし、ジークとセラフィーネに迫る。
「クソ! 数が多い……!」
「ジーク! 大丈夫か!?」
「大丈夫だ! あんたは自分の面倒を見ておけ!」
ジークは次第に押され始めセラフィーネの方も触手による物量戦を前に反撃に出られずにいる。
「ははっ! もっと頑張らないと私をコテンパンにできないよ?」
「うるせー! クソ野郎!」
ジークはそう叫ぶと覚悟を決めたように前に出た。
「俺は勇者ジークだ!」
彼は無数の触手を引き裂きながら前に出続け、触手を次々に叩き切り、そしてフォーラントの少女のアバターに迫る。
「ほう。神々から与えられた力、というよりも君自身の気合と根性か……!」
フォーラントは驚いた表情を浮かべた次に苦笑いを浮かべた。
そうなのだ。ジークには確かに神々から与えられた力が宿っていたが、それ以上に彼自身の気合と根性で戦っていた。自分が勇者ジークであるという気合と根性で、彼らはフォーラントの猛攻を退け始めたのだ。
「流石だな、ジーク。それでこそ勇者だ!」
セラフィーネも突撃していくジークを支援して朽ちた剣で触手を退けていく。
「行くぞ──!」
そして、ジークはフォーラントのアバターに向けて肉薄。
横一線に彼女を引き裂き、フォーラントは上半身と下半身とに切り分けられた。
「ありゃりゃ。やられちゃった」
ぼとりと上半身が地面に落ち、下半身が崩れ落ちるのにフォーラントはそういう。
「このままぼこぼこにしてやるぞ」
「おお。怖い怖い」
ジークは“月影”の刃を手にフォーラントに迫る。
「けど、その必要はないかもね。神々の力のせいで私の身体は分解されつつある。同時にこの世界からはじき出されようともしているよ」
「お前の言うことは信じられない」
「じゃあ、ぼこぼこにすれば? ただ力のない存在をいたぶるのは勇者的とは思えないけどね!」
「クソ」
フォーラントが消滅しつつあるのは事実だ。神々の与えた力が彼女を倒しつつある。このまま彼女はこの世界からはじき出され、再生には再び500年以上の年月が必要になってくるだろう。
「やったな、ジーク。私たちの勝利だ」
「ああ。ひとまずの勝利だな……」
ジークはセラフィーネの言葉に頷いた。
「じゃあね、ジーク、セラフィーネ。まだ500年後に会おう!」
それからフォーラントはこの世界から完全に消滅し、この場に漂っていた邪悪な雰囲気が消え去った。
「よし。じゃあ、その、なんだ? 帰ろうぜ」
「ああ。凱旋だ。勝利の知らせを連合軍に伝えたなければな」
ジークはまたしてもフォーラントを完全に倒せなかったことから苦笑いを浮かべて言うのにセラフィーネはそう言って満足げに笑った。
「ああ。凱旋だな」
ジークはまた500年後までの勝利を伝えるためにトリニティ教徒の神殿を出る。
それから彼らはまずはエマの待つネーベルグラートの郊外にある村に向けて進んだ。エマに勝利を知らせたらどのような反応をするだろうかなどと思いながら、ジークとセラフィーネは軍馬に化けたフギンとムニンで進む。
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