背信の使徒『ユダ』
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──背信の使徒『ユダ』
男はかつて戦神モルガンを信仰していた。
強さこそが正しいというシンプルな教えを男は好んでいた。男もまた戦士であり、強さを求めて戦い続けていたからだ。
大陸中を放浪しながら各地の戦場で戦い続けた彼だが、あることに気づいた。
自分はどんどん弱くなっている。
人間には避けられない老化が、彼の身体を蝕み、全盛期の強さを奪っていたのだ。そのことに男は狂いそうなほどに絶望した。
戦って死ねば敬愛するモルガンの下に向かえる。だが、彼は死ぬことを恐れた。このまま年老いて力をなくし、戦場で相手に膝を付かされることを恐れた。
戦って勝利したまま、モルガンの下に向かいたい。そんな人生を遂げたい。
いや、違う。自分こそがモルガンの代わりに戦神になりたい。
そんな傲慢ともいえる欲望を男は抱いた。だが、これまで生身で神を殺した人間はひとりしかいない。
そう、それは邪神フォーラントを討った勇者ジークだけ。
もしかしたら。
もしかしたら。
もしかしたら、そのことを再現すれば戦神モルガンを、いや全ての神々を討てるかもしれない。
男はそう思い、邪神フォーラントが勇者ジークによって倒された地を訪れた。そこは廃墟になった街であり、今も人が暮らしていない場所だった。
男はそこで少女を見つけた。
「やあ。君、私を見ても驚かないようだね」
少女は気さくに声をかけてきたが、男は気づいた。
この少女こそが邪神フォーラントであると。
「君には欲望があるね。深い深い欲望が」
そして邪神フォーラントは囁くような声で言う。
「その欲望を私に聞かせるつもりはないかい?」
そう尋ねてきたフォーラントに男は神々を討ちたいという欲望を語った。モルガンもアーサーも全ての武勇を誇った神々を打ち倒し、自分こそが最強の神として君臨したいという欲望を打ち明けた。
「素晴らしい。そんな人間を私は待っていたんだ」
にこりと微笑みフォーラントは言う。
「では、力を貸そう。私が神々を討てるだけの力を貸してあげる。君の名は?」
フォーラントが問うのに男は答えた。
「ユダ。私はユダだ」
* * * *
ジークたちはフォーラントに仕える人間ユダの相手をしている。
巧みに槍を操ることで迫るジークたちを退け続けているユダにジークたちはなかなか勝利することができない。
そこでジークとセラフィーネは連携して、ユダに挑むことに。
「行くぞ!」
ジークがまず斬りかかり、さらにセラフィーネが続く。素早く左右から斬撃が繰り広げられ、今度はユダが防戦一方に追い込まれ始めた。
「なるほど、これが勇者ジークと魔女セラフィーネ! 恐ろしい相手ですね!」
ユダは追い込まれながらも笑い、一本の槍でふたりを同時に相手する。
「今だ!」
ここでジークが斬撃を放ち、それがユダの右腕を裂いた。ユダの右腕が宙を舞って地面に落ち、鮮血が傷口から吹き上げる。
しかし、ユダは動揺した様子を見せず、左腕で槍を構えた。
「それじゃあ、流石に苦しいだろう? 降参するなら今のうちだぜ?」
「ははは。それは魅力的な申し出ですが、断らせていただきましょう。私もあなた方と似たような点があるのですよ」
ユダがそう言ってにやりと笑うと──。
「なっ……!」
彼の斬り落とされたはずの右腕が再生したのだ。
「まさか、こいつも不老不死だっていうのか……!?」
その光景にジークたちはうろたえる。
「いえいえ。人より傷の治りが速いだけですよ。決して不老不死などでは」
ユダはそう言って槍の矛先をジークたちに向ける。
「私は不老不死など望みませんでしたからね。不老不死などおぞましいものだとあなたが一番よくご存じでしょう?」
「……ああ。確かにな」
不老不死が忌まわしいものだということはジーク自身がよく知っていた。
「それでは続けましょうか。我らが神の準備もそろそろできるようですので」
ユダの背後ではフォーラントがにやにやと笑っている。この戦いを傍観している彼女が何か企んでいるのは明白だ。
「じゃあ、その前に片付けてやるよ。セラフィーネ、今度こそ畳むぞ!」
「ああ。任せておけ!」
再びジークとセラフィーネのタッグがユダに襲い掛かる。
彼らは激しい斬撃をユダに向けて浴びせるが、今度はユダも押されてばかりではなかった。彼は隙をついてはジークたちに刺突と打撃を叩き込み、ふたりのコンビネーションを妨害していく。
「クソ。このおっさん、尋常じゃなく強いぞ……!?」
「諦めるな、ジーク。必ずやれるはずだ」
「分かってるが……」
ユダはまるで鉄壁のようにジークたちを前に進ませない。ジークたちの攻撃を防ぎ続けて、一歩も前に進ませていなかった。
「私には欲望がある」
ユダがそう言いながらジークを刺突する。
「戦神モルガンを、英雄神アーサーを、全ての神々を打ち倒し、この世界を滅ぼすこと。神々がいなくなった世界は滅びますからね」
「どうしてそんなことを……!?」
ユダの言葉にジークが戸惑う。
「私は自分の敗北で人生を終えたくない。勝利によって人生を華々しく終えたい。だからです。誰にも跪かされず、誰にも見下されず、完全な勝者としてこの人生のフィナーレを迎えたいからですよ」
「ふざけやがって! お前のエゴじゃねーか!」
「ええ。エゴですよ。だが、あなたが不老不死であるのも英雄神アーサーのエゴ。神々とてエゴを持つのに私がエゴを持ってはならない理由とは?」
「気に入らねえ! アーサーもお前も! わがままで迷惑なやつら全員!」
ジークの“月影”とユダの槍が激しく交錯する。しかし、ユダの守りは鉄壁で崩せそうにもない。
「セラフィーネ。少し俺に策がある。聞いてくれるか?」
「ふむ?」
そこでジークはセラフィーネに彼の策を話す。
「……お前はそれでいいのか?」
「ああ。俺は平気だ。やってくれるか?」
「分かった。やろう」
セラフィーネはジークの頼みに頷く。
「じゃあ、やるぞ……!」
ジークはそう言うと再びユダに向かって斬りかかる。ユダはジークを迎え撃ち、ふたちは再び近接戦に突入する。
「どこでその槍の腕は磨いたんだ、おっさん!」
「戦場ですよ。それ以外にどこで人殺しの術を磨くと言うのです」
「それもそうだな!」
ジークとユダは激しく斬撃、刺突、打撃を繰り返して交戦し続ける。
そこでセラフィーネが動いた。
「やるぞ、ジーク……!」
セラフィーネはそう言うと召喚した無数の朽ちた剣をジークとユダに向けた。
「!? まさか味方ごと……!?」
ユダがセラフィーネの作戦に気づいたときには遅かった。
セラフィーネの放った無数の朽ちた剣はまずジークを一瞬でただの肉塊に変え、それからユダを八つ裂きにした。
ユダが言っていた彼は不老不死ではないという言葉は事実だったらしく、八つ裂きにされてグロテスクな肉と血に姿を変えたユダが再生するようなことはなかった。
「片付いたな……」
ジークは肉塊の状態から再生し、そしてフォーラントの方を睨むように見る。
「フォーラント。決着を付けようぜ」
ジークはそう宣言して、フォーラントの方に“月影”の刃を向けた。
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