ベルククローン攻略戦
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──ベルククローン攻略戦
ジークたちはカルテンブルクに帰還し、偵察内容を司令官のエルヴィンに報告した。
「ふむ。敵は移動準備を始めている、と」
エルヴィンはそう呟き、地図を眺める。
「野戦が生じるとしたら……この平野というところか」
エルヴィンはそう言ってカルテンブルクとベルククローンの間にある平原を指さした。ここには村などはないし、大きな街道があるわけでもないが、森などは少なく待ち伏せなどを受けない場所であった。
「閣下。敵は偵察隊を追撃していることから、こちらが敵の動きを察知したことの気づいているはずです。本当に野戦になるでしょうか?」
「なるだろう。トリニティ教徒たちの兵站を考えれば間違いない」
ここで問題になるのはトリニティ教徒たちの兵站問題だ。
トリニティ教徒たちは略奪などで物資を得てきた。ベルククローンでも略奪を働いただろう。しかし、そうであるがゆえに長時間ベルククローンに立てこもることが難しくなっている。籠城するには物資を蓄えなければならないのだから。
「敵は短期決戦を目指しているはずだ。それは我々も同様だが」
このままのんびりしていては物資が切れるトリニティ教徒。早く奪われた土地を奪還しなければトリニティ教徒の人海戦術を前に敗れる連合軍。どちらも素早い決着を目指している。
「ふむ。つまりどちらも野戦を目指すというわけか」
「ああ。我々もすぐに動かなければ。トリニティ教徒たちはすぐに野戦に備えて前進してくるだろう。それを迎え撃たなければならない」
それから連合軍はベルククローンから進撃してくるトリニティ教徒の軍勢を迎え撃つために出撃を開始。連合軍は敵の想定される進軍経路に沿って進み、前方には偵察の軽騎兵を放った。
もし、トリニティ教徒が全く異なる進軍経路を利用して前進していた場合には、後方の予備戦力が投入されて穴をふさぐことになるが、そうなると戦いは厳しさを増すことになってしまう。できれば敵が想定される場所を通ってくれることが望ましい。
「さて、どうなるやらだな」
「賭けに勝てればいいが、そうでなくとも我々がいれば負けはしない」
「いざってときは俺たちで暴れまわりましょう」
ジークとセラフィーネは軽騎兵の後ろから進む歩兵の最前列を軍馬で進んでいた。彼らは接敵してすぐに敵に手痛い打撃を与えるために控えている。
そこで前方を進んでいた軽騎兵が戻ってくるのが見えた。
「トリニティ教徒の軍勢を視認した!」
「来たか」
エルヴィンの読み通りにトリニティ教徒は前進してきた。
軽騎兵たちはすぐに後方から移動している司令部に向かい、そのことを報告。
「敵の数は2万と2000名程度。野戦に備えた布陣です」
「うむ。読み通りだ。野戦であれば練度が高い方が勝つ。民兵に毛が生えた程度のトリニティ教徒に我々が負けるはずもない!」
連合軍の数は1万と3000名程度。数においては若干トリニティ教徒に劣るが、それでも司令官のエルヴィンは勝利を確信していた。
軽騎兵の報告を下に敵の陣形を見ながらエルヴィンは軍を進め、いよいよ両軍が衝突する時間が訪れた。
「わお。凄い数だぜ?」
ジークたちの眼前には2万を超えるというトリニティ教徒の軍勢が展開している。前方には砲兵が並び、その後方には槍やマスケットで武装した歩兵で、さらにその両脇には騎兵が展開していた。
「好きなだけ暴れまわれるな」
「かもな。さて、俺たちの方も準備はできたのかね?」
ジークが振り返ると連合軍も同様の布陣でトリニティ教徒と対峙していた。
歩兵、砲兵、騎兵が揃った陣形だ。
「オーケー。準備万端みたいだ」
「では、やるぞ。敵の方が数は多い。勝利は私たちにかかっている」
「あいよ!」
そして、友軍を背後にジークとセラフィーネがトリニティ教徒に向けて突撃する。
ジークたちの突撃を前に砲兵の火砲と歩兵のマスケットが火を噴いた。無数の砲弾を銃弾がジークとセラフィーネを襲う中、彼らはそんな鋼鉄の嵐の中を駆け抜けて、トリニティ教徒の眼前に迫った。
「敵だ!」
トリニティ教徒たちは悲鳴のような声を上げ、槍を握った兵士たちが前に出てジークたちを押さえようとした。
「無駄無駄!」
ジークは槍兵を蹴散らし、そのまま斬り込んでいく。いきなり現れたいくら鉛玉を叩き込んでも死なない相手を前にトリニティ教徒たちは明白に混乱しており、彼らの動揺は瞬く間に隊列に広がっていった。
「私も暴れるとしようか!」
続いてセラフィーネも朽ちた剣を大量に召喚し、トリニティ教徒たちの頭上から降り注がせた。盾など持っていないトリニティ教徒たちはあっけなく串刺しにされてゆき、かなりの数が減った。
「俺たちが暴れまわって連合軍に楽をさせてやらないとな」
「ああ。暴れまわれるだけ暴れるぞ!」
ジークたちが暴れまわるだけで全面的な勝敗は決するほど楽な戦いではない。敵の数は2万を超えており、戦線は広く展開されている。
ジークたちが暴れていない場所ではトリニティ教徒たちが連合軍と接敵し、ついに交戦を開始していた。
「撃て!」
互いの砲兵が砲弾を叩き込み合い、歩兵がそこから前進していく。近接戦闘を担当する槍兵と遠距離火力のマスケット兵が互いを援護できる陣形を組んで進む。
砲兵はそんな歩兵に向けても砲弾を叩き込み、砲弾が命中した歩兵はグロテスクな肉塊へと一瞬で変わり果てた。だが、それでも連合軍もトリニティ教徒も士気を維持して、前進を続けていた。
両軍の歩兵はマスケットの射程に入ると銃撃戦を開始し、銃弾に倒れた戦友を乗り越えて兵士たちは前進していく。
「友軍が押されているぞ」
ジークはそこで連合軍が不利なことに気づいた。連合軍歩兵は損害を出しながら、前に進めず、その場で止まってしまっていた。しかし、それに対してトリニティ教徒はずんずんと前進している。
「トリニティ教徒は死を恐れてないようだな。厄介なやつらだ」
「このままだと負けちまうぜ。どうする?」
「そうだな。敵の司令官を殺すというのはどうだ?」
ジークとセラフィーネは敵の隊列の中で暴れまわりながらそう言葉を交わす。
「いいアイディアだ。敵も司令官が殺されれば、動揺するだろうからな」
「決まりだな。このままここを突破し、後方の司令部に斬り込むぞ」
「合点!」
そして、ジークとセラフィーネは敵歩兵の隊列を斬り崩し、後方へと突破。開けた後方に他のトリニティ教徒とは異なる意匠の白装束を身に着け、騎乗している集団を確認する。それは間違いなく相手側の指揮官であった。
「あいつだな。やるぞ!」
「取り巻きは任せておけ!」
ジークはその人物に向けて斬り込み、セラフィーネはその周りにいる護衛を相手にする。朽ちた剣が投射され、護衛がひき肉に変わるのに敵の司令官は動揺しながら逃げようとする。
「ジーク! 逃げすな!」
「分かってるさ!」
セラフィーネが叫び、ジークが司令官に肉薄。
その首に向けて“月影”の刃が振るわれ、司令官の首が鮮血を帯びて宙を舞った。
「仕留めた!」
ジークはそう言ってにやりと笑う。
そこでトリニティ教徒に明白な動揺は生じ始めた。司令官が殺害されたということの衝撃と指揮系統の混乱が同時に彼らを襲ったのだ。
彼らは混乱し、困惑し、その動きが乱れ始める。
そこを連合軍が盛り返して猛追。連合軍歩兵はついに前に出てトリニティ教徒たちに逆転し始めようとした。
しかし、トリニティ教徒たちは死を恐れていないという恐ろしい点があった。彼らは連合軍の猛追を前にしても一歩も引かず、その場で友軍のための肉の盾になったおしても交戦を続けたのである。
それでも連合軍の方が戦術的には一枚上手であった。連合軍騎兵は動揺していた敵騎兵を撃破したのちに歩兵の隊列の後方に回り込み、そこからトリニティ教徒たちを攻撃したのだ。前方の歩兵と後方の騎兵に挟み撃ちにされたトリニティ教徒たちはいくら士気旺盛だろうとどうしようもなかった。
「おうおう。これなら勝てそうだな……」
ジークは蹂躙されていくトリニティ教徒たちを見てそう呟く。
「ああ。勝利は決まりだろう。あとは残さずここで殲滅するだけだ」
「逃げられると厄介だからな」
連合軍の狙いは野戦におけるトリニティ教徒の戦力撃滅だ。
ベルククローンを手に入れるには、ここでトリニティ教徒の戦力を完膚なきまでに劇待つしなければならないのだ。ここで敵を逃せば、ベルククローンを奪還するのには多くの血が必要になるだろう。
だが、その心配はなさそうだった。
トリニティ教徒は撤退するということを知らないかのように前進している。彼らが逃げるようなことはなく、連合軍と衝突しては撃破されていった。
戦闘が終わったとき──そこには無数の死体の山ができていた。
「終わったか」
「これはまたグールが沸きそうだぜ……」
死体、死体、死体。あちこち死体だらけだ。このまま放置すればグールがわくことになってしまうだろう。
「さあ、動ける部隊はすぐにベルククローンに向かえ! このままベルククローンを手に入れるのだ!」
しかし、司令官のエルヴィンが急いだのは死体の埋葬ではなく、ベルククローンの奪取であった。騎兵を中心にした部隊がベルククローンに向けて進み、そのトリニティ教徒に奪われていた都市の奪還を目指す。
「私たちも行くぞ」
「了解だ」
ジークたちも軍馬に跨り、ベルククローンに急ぐ。
だが、ベルククローンで戦いが起きることはなかった。
トリニティ教徒たちが出撃したベルククローンは守備隊は存在せず、城門も明けられたままであり、ジークたちは悠々と入場したのだ。
「連合軍だ!」
「万歳!」
街の人々も笑顔でジークたちを迎える。
こうしてベルククローンは奪還された。
* * * *
連合軍はベルククローンを奪還した。
そのベルククローンだが、トリニティ教徒による傷跡が濃く残っていた。
街の広場ではトリニティ教徒によって処刑された住民たちが今も吊るされており、神々の神殿は爆薬や砲撃で破壊されていたのだ。
「忌々しい邪教徒どもめ」
破壊された神々の神殿を見て、セラフィーネがそう呟く。
「ああ。連中にとっては神々は敵だからな。当然と言えば当然か」
ジークは破壊された神殿よりも処刑された住民の方に同情している様子だ。
「ジークさん、セラフィーネさん!」
「おお、エミール。追いついたか」
連合軍の後詰の部隊とともにエマがベルククローンにやってきた。
「やりましたね。これでベルククローンを奪還できました」
「ああ。しかし、これからどう動くべきなのかね」
ベルククローンは奪還され、交通の要衝は連合軍の手に移った。しかし、このままトリニティ教徒たちがいるネーベルグラートへと乗り込めるのかは定かではない。
地理的にはベルククローンよりさらに北にネーベルグラートは位置している。そこに至るまでにどれだけのトリニティ教徒がいて、彼らがどれくらいの守りを固めているのかはまだ分からないのだ。
「あとでエルヴィン司令に聞いてみましょう。オレはジークさんたちのための物資を確保しておきます。いざとなればネーベルグラートに到達できるぐらいの物資を確保して見せますよ」
「おお。頼もしいな! 頼りにしてるぞ!」
エマは現在連合軍の兵站将校扱いとして、連合軍の物資補給を管理していた。彼女が行商人として磨いてきた技術はそこでも役立っている。
「では、エルヴィンに戦況を聞きに向かうか?」
「そうだな。これからの旅の方針にもかかわるし」
ジークたちはベルククローンに司令部を設置したエルヴィンの下に向かう。エルヴィンはベルククローンの市庁舎を司令部にしており、ジークたちは番兵の許可を得て市庁舎の中に入った。
「おお。勇者ジークたち! 君たちのおかげでベルククローンを最小限の流血で手に入れることができた。感謝している」
「そいつはどうも。それで、これからのことなんだが……」
「うむ。それについてはこちらからも尋ねたいことがある」
「ほう?」
エルヴィンはそう言ってジークたちの方を見たのち、テーブルの地図に視線を落とす。地図には最新の戦況が記されていた。ベルククローンが連合軍の支配下に入ったことも、もう記されている。
「君たちは我々と完全に合同作戦を行ってネーベルグラートまでトリニティ教徒を押し戻すのか。それとも500年前のように軍が敵を引き付けている間に、勇者ジーク一行が邪神フォーラントとの一騎打ちを目指すのか」
どちらを選ぶのか聞きたいとエルヴィン。
「前者だとするならば我々は着実に南部からトリニティ教徒を駆逐しながら進むので、ネーベルグラートに到達するのは数年後だろう。しかし、後者ならば我々がトリニティ教徒に対して陽動を仕掛ける隙にネーベルグラートまで到達すればいいので、戦闘の決着はずっと早くなる」
「ふむ……。確かに500年前は俺と仲間たちで一気にフォーラントのアジトまで突っ込んだが……」
連合軍として行動する以上は連合軍とともに行動する必要がある。彼らが軍という組織を維持できるようにしながら進むにはトリニティ教徒を南部から排除していく必要があり、そうなるとフォーラントの元までたどり着けるのは数年後だろう。
だが、ジークたちが勇者として単独で行動するならばずっと早く決着はつく。
「ただ分かっていると思うが、後者はリスクが大きい。本当に確実にフォーラントを討てるかどうかは分からないだろう」
ジークも500年前のフォーラントとの戦いを思い出してそういう。
「しかし、やる価値はあるように思えるが? 戦争が早期に集結すれば、フォーラントが何を企んでいるにせよ阻止できるし、死人も減る」
「かもな。もう少し考えさせてくれ」
セラフィーネの言葉にジークは一度そう言って司令部を出た。
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