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カルテンブルクにて

……………………


 ──カルテンブルクにて



 連合軍の兵站線である後方に浸透してきたトリニティ教徒たち。


 彼らを排除するためにジークたちは戦っている。


「セラフィーネ! 挟み撃ちだ! やるぞ!」


「ああ!」


 ジークがそう言い、セラフィーネが応じる。


 ジークはトリニティ教徒たちに向けて突撃し、セラフィーネは魔法での攻撃を継続。トリニティ教徒は見事に挟み撃ちにされてしまった。


 彼らがジークとセラフィーネのどちらから倒すべきかを悩んでいるときに、ジークが槍を構えていたトリニティ教徒と接触。彼らの構える槍を弾き飛ばし、トリニティ教徒に向けて斬りかかった。


「おのれ! 神のために!」


「そればっかだな!」


 ジークは狂信を示すトリニティ教徒をばっさばっさと叩き切っていく。トリニティ教徒たちは恐れを知らなかったが、戦い方も十分に知っていなかった。民間人上がりの彼らはあっけなくジークに斬り伏せられていく。


「撃て、撃て!」


 マスケットやクロスボウもジークを狙うが狙いは十分ではなく、ジークは攻撃を弾くまでもなくそれらを受け付けなかった。


「司祭殿! 背後の魔法使いが攻撃してきます!」


 さらにここでセラフィーネが挟撃する形で魔法を叩き込んでくる。それによってトリニティ教徒たちは大損害だ。


「おのれ、異端者どもめ……!」


 勇者と魔女に挟み撃ちにされて長く持つほど、このトリニティ教徒たちは力がなかった。彼らは猛々しく戦ったが、結局のところは全滅した。


「よし。無事か!?」


 ジークは最後のひとりを斬り倒すと、馬車を守っていた兵士たちに声をかける。


「助かった! ありがとう!」


 兵士たちは負傷しているが、すぐさま死にそうな人間はいないようで、ジークの呼びかけに笑顔で応じた。


「いいってことよー。それよりあんたはら連合軍の輜重だろう? カルテンブルクに向かってるのか?」


「ええ。ここは連合軍の勢力下のはずなんですけどね……。どういうわけかトリニティ教徒どもが出没しやがって……」


「大変だな。俺たちもこれからカルテンブルクに向かうところだ。一緒に行くか?」


「あなた方は腕が立つようだし、そうさせてもらいます」


「オーケー。じゃあ、行こうぜ」


 ジークたちは兵士たちと馬車の火を消すと、無事だった馬で馬車を引き、カルテンブルクを目指した。


 負傷がひどい兵士はセラフィーネが治癒し、エマの馬車に乗せて移動。このことには兵士たちから随分とありがたがられた。


 そして、ジークたちはそれ以上襲撃を受けることもなく、街道を進み、そしてカルテンブルクへと到着したのであった。


「おお。あれがカルテンブルクか?」


 高い城壁に囲まれた都市。その守りに関してはルーネンヴァルトよりも高度なように思われた。流石は連合軍が司令部を設置するだけはあるというべきか。


「そうだな。あれがカルテンブルクだ。連合軍の兵士たちも大勢いるようだぞ」


 カルテンブルクの周りには無数の天幕が張られている。兵士たちが寝泊まりする天幕だ。ざっと見ても万を超える兵士たちがいそうであった。


「では、俺たちはここで。ありがとうございました」


「気にするな。じゃあな!」


 連合軍の輜重兵たちは物資を運ぶために別れ、ジークたちはカルテンブルクの城門へと向かっていく。


「止まれ!」


 ジークたちは城門を守る連合軍の兵士たちに止められた。


「現在、カルテンブルクへの出入りは制限されている」


「俺はジーク、こっちはセラフィーネだ。あっちはエミール。アルフレート提督から連合軍司令部に合流できるように手配してもらっているはずだが?」


 兵士が出入りを許可しないという口調で言うのに、ジークがそう言って返す。


「つまり、あなた方は勇者ジーク……?」


「そうだよ。神々の神託だってあったと思うが?」


「こ、これは失礼しました! どうぞこちらへ!」


 兵士たちは打って変わってジークたちを歓迎し、彼らをカルテンブルクの中へと招き入れた。ジークたちは開かれた城門からカルテンブルクの中へ。


「ここがカルテンブルクか……」


 ジークたちの眼前には美しい街並みが広がっている。色調が整えられたレンガ造りの建物がずらりと並ぶ光景だ。


 しかしながら、情勢が情勢のために街に活気は少なく、出歩いているのは軍関係者と思しき人間ばかりである。


「いつもはもっと活気のある街なんですけどね……」


「まあ、こんなご時世だし、仕方ないだろう……」


 エマが言い、ジークは首を横に振った。


 それから彼らは兵士に案内されてカルテンブルクの市庁舎に設置されている連合軍司令部へと向かっていく。


 カルテンブルクの市庁舎は軍に使用されており、入り口にも兵士が立っている。しかし、今度はジークたちが止められることはなく、ジークたちは司令部内に通された。


 司令部には参謀たちが集まっており、彼らは大きく広げられた地図を前に何やら話し合っている。その光景はいかにもな軍司令部に見えた。


「エルヴィン司令官。ジーク様たちをお連れしました」


 兵士がそう報告すると大きく広げられた地図を見ている老齢の男性が顔を上げた。


「おお、勇者ジーク! アルフレート提督から報告は受けている。神託についても話を聞いた。これから邪神フォーラントを討ちに向かうそうだな」


 その男性は顔をほころばせると、改めてジークたちの方を向く。


「私はエルヴィン。連合軍の司令官だ。よろしく頼む」


「こちらこそ」


 その男性はエルヴィンと名乗り、ジークたちと握手を交わす。


「さて、北に向かいトリニティ教徒どもが崇める邪神フォーラントを討つのだったな。しかし、現状では北への道は閉ざされている」


 エルヴィンはそう言って地図を指さした。


「連中の拠点であるネーベルグラートまでの道のりには、トリニティ教徒たちが陣地を構築している。いくつかの南部の都市も連中に占領され、我々連合軍は奪還を目指しているが、今のところは戦力不足だ」


 トリニティ教徒たちには物量があるとエルヴィンは語る。その物量で連合軍を圧倒し、南進を強行しているのだと。


「ふうむ。となると、まずは南部への攻撃を阻止するべきか?」


「そんなことをしていたらフォーラントに時間を与えるだけだぞ」


「しかし……」


 セラフィーネが言うのにジークが唸りながら地図を見る。


 ネーベルグラートまでの道のりには大量のトリニティ教徒たちがいる。これをジークたちだけで突破してネーベルグラートにいるフォーラントを倒すというのは、いくら何でも無理がある話だった。


「我々連合軍としては勇者ジークたちの手を借りられれば百人力なのだが。すぐさま南部の都市を奪還し、君たちのためにネーベルグラートへの道のりを開いて見せよう」


「そうすべきかもしれん。フォーラントが何を企んでいるかは分からないが、俺たちが焦るのも含めて計算しているように思えるからな」


 ジークたちは神託に従ってネーベルグラートを目指したいが、無理やりジークたちが単身でネーベルグラートを目指しても勝ち目は薄い。ここはやはり連合軍と協調すべきであるように思えた。


「お前が決めろ、ジーク。私もエミールもお前の判断に従おう」


「ええ。ジークさんが決めてください」


 セラフィーネとエマはジークの判断にゆだねた。


「分かった。じゃあ、何とかして南部の都市を奪還し、ネーベルグラートまでの道を切り開こう。それが俺の判断だ」


「ありがとう、勇者ジーク! これでこの戦いにも勝算が見えてきた!」


 ジークの決断にエルヴィンがそう感謝を示す。


「では、作戦について話し合おう。我々が目指しているのは南部の都市のひとつベルククローンだ。ここは交通の要衝にもなっており、北に向かうならば奪取することが必要になってくる」


 そう言いながらエルヴィンは北と南の中間地点にある都市ベルククローンを指さした。そこには小さな運河も流れており、さらには複数の街道が交錯している。


「オーケー。じゃあ、そいつをまずは取り戻そう」


 ジークはお使いにでもいくような気軽さでそういう。


「うむ。早速動き始めるとしよう。しかし、まずは偵察からだ。最後にベルククローンの状況が確認されたのは我々がそこを放棄したときだ。今はどれほどのトリニティ教徒の戦力が集結しているのか分からない」


「偵察か。確かに重要だな」


 敵の情報が分からないのに突っ込むのはどう考えて愚かである。まずは偵察で敵の規模などを把握できるのが望ましい。


 ただこの世界では未だ通信手段が未発達であるため、掴んだ情報を確実に司令部に伝えることができるかは分からない。


「偵察はすぐに行う。それまでの間、待っていてほしい」


「せっかくなら俺たちも偵察を手伝うぜ? どうだい?」


「おお。それはありがたい。では、偵察隊に同行してもらおう」


 確実に情報を得て、それを司令部に届けるならばジークたちが同行するのは心強いだろう。万が一の場合も、不老不死であるジークたちならば情報を届けられる。


 そういうわけで、ジークたちは偵察隊に同行することになったのだった。



 * * * *



 カルテンブルクで編成された偵察隊は騎乗した部隊だった。


「軽騎兵隊を指揮するフェルディナンド大尉だ。よろしく頼む」


「おう、ジークだ。よろしく」


 その偵察隊は軽装備の騎兵──軽騎兵であり、まさに今回のような偵察任務を扱う部隊であった。素早く移動し、素早く情報を集め、素早く離脱するという任務に向いた部隊である。


「司令部のエルヴィン大将からはすぐに偵察を行うように求められている。出発できるだろうか?」


「ああ。任せておけ」


 セラフィーネはフェルディナンド大尉の言葉に応じてフギンとムニンを軍馬にして展開させる。それから彼女たちはそれに跨った。


「いつでも行けるぞ」


「よろしい。出発だ」


 そしてジークたちはカルテンブルクを出発し、北にある交通の要衝ベルククローンを目指した。


「この辺りはいつ戦場になってもおかしくない場所だ。用心してくれ」


「あいあい。了解だ」


 フェルディナンド大尉の言う通り、カルテンブルクの友軍戦線を離れれば、そこから先はいつトリニティ教徒が押し寄せてきてもおかしくない戦場となる。十分に警戒しなければならない。


 ジークたちはベルククローンへ向けて街道を進み、周辺をつぶさに警戒する。


「今のところ、敵の気配はしないが酷い有様だな」


 ジークたちはベルククローンまでの道のりの村々が焼かれていることに気づいた。そこには村人の気配は全くなく、家畜の死体が僅かに転がっているのみだ。


「焦土作戦か」


「ああ。住民はすでにカルテンブルクに避難させた。村に残っていてもトリニティ教徒に殺されるだけだから、彼らとしても納得して避難していったよ」


 セラフィーネが呟きフェルディナンド大尉がそう言う。


 カルテンブルクを守るために敵の補給拠点となりそうな街道沿いの村々を焼き払う。残酷だが仕方のないことであった。少なくとも連合軍はただ村を焼くのではなく、住民をカルテンブルクに避難させているだけ良心的だろう。


「戦争が終わらなければ村人は帰れないわけだよな……」


「ああ。この戦争が終わらなければ不幸になる人間が増えるばかりだ」


 ジークとセラフィーネはそう言葉を交わし、フェルディナンド大尉たち軽騎兵部隊に続ていった。


「そろそろベルククローンが見えてくるはずだ」


 馬を駆けさせ1日半ほどの距離を移動するとベルククローンが見えてきた。


「あれか」


 ベルククローンの街はカルテンブルクほどではないが、城壁に囲まれた都市だった。しかし、その城門や城壁は一部破壊されており、戦闘の形跡が生々しく刻まれている。


「敵は見えるか?」


「待て」


 フェルディナンド大尉は単眼鏡を取り出し、ベルククローンの方を観察。


「ふむ。恐らく敵の規模は1万に僅かに満たない程度だ。それから攻城兵器の類を解体して運ぶ準備をしている。カルテンブルク攻撃ためだろうな」


「おいおい。連中、もうカルテンブルクを攻撃しようとしているのか?」


「ああ。だが、都合がいいぞ。これで攻城戦ではなく野戦に持ち込める」


 ジークが慌てるのにフェルディナンド大尉はにやりと笑った。


 攻城戦は時間がかかるし、包囲している間に敵の開囲部隊に攻め込まれると厄介だ。だが、野戦ならば短期間で敵に大きな損害を与えるチャンスが生まれる。


「では、このことを司令部にすぐに報告しなければならんな」


「司令部にすぐに軍を動かすように求めなければ」


 セラフィーネが言い、フェルディナンド大尉もその言葉に頷いてカルテンブルクの方に馬を向ける。


 しかし、そこでベルククローンの方から角笛の音が響いた。


「クソ。敵に気づかれた。逃げるぞ!」


「了解! 殿は俺たちに任せておけ!」


 ジークたちは撤退する軽騎兵たちの最後尾につき、ベルククローンから放たれたトリニティ教徒たちの騎兵を防ぐ位置についた。


 ジークたちは街道を駆け抜け、トリニティ教徒たちは背後から迫ってくる。


 しかしながら、速度はジークたちの方が上であり、トリニティ教徒たちはなかなか追いつけない。街道を疾走するジークたちを追跡するのをとうとう諦めたのか、トリニティ教徒たちはベルククローンに引き返していった。


「あの連中、なんて報告すると思う?」


「我々が敵が移動しようとしてるのを掴んだことが知られるだろう。そのうえで向こうが野戦を選ぶか、籠城戦を選ぶかだが。その判断はエルヴィン司令にゆだねるしかないな。俺たちの考えることではない」


「面倒なことになりそうだぜ」


 ジークはそう呟き、フェルディナンド大尉たちともにカルテンブルクへと戻った。


……………………

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