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港町でのひと時と出発の日

……………………


 ──港町でのひと時と出発の日



 迫りくる海賊に対峙するジークたち。


「ひとりも通すなよ!」


「任せておけ!」


 ジークは前方に出て海賊たちと剣を交え、セラフィーネは召喚した朽ちた剣を海賊たちに叩き込んでいく。


「ぎゃっ──!」


「怯むな! 進めえ!」


 海賊たちは朽ちた剣になぎ倒され、ジークの振るう刃を受けて斬り倒されながらも、士気が尽きることなく前に前にと出てくる。


「畜生。本当に死を恐れていないな……」


「それ以上にここで下手の生き延びても未来はないと分かっているのだろう」


 海賊は死刑と決まっている。ここで生き延びて捕虜になっても縛り首だ。


 それゆえにトリニティ教徒の海賊たちはここで勝利するか、死ぬかしか選択肢はなく。だから、彼らは死を恐れていなかった。


「そういうことなら皆殺しにしてやるぜ」


 ジークは“月影”の刃を振るい、海賊たちを斬り倒し、貫き、斬殺していく。


「神々を悪魔呼ばわりしていた連中だ。慈悲は必要なかろう。私も皆殺しにしてやる」


 セラフィーネは大量の朽ちた剣を召喚し、それを纏めて叩き込んだ。海賊たちはそれによって砲撃を受けたようになぎ倒される。


「まだだ! 我々はまだ屈しないぞ!」


「神のために!」


 トリニティ教徒たちはどれだけいるのかというぐらい次々に襲ってくる。中には女性や老人も混じっており、流石のジークも嫌な顔をする。


 だが、トリニティ教徒がフォーラントによって操られているとすれば、これもまた彼女の策略なのだろう。女子供や老人すらも狂信によって絡み取り、そして死に向かわせるという彼女の策略だ。


「クソッタレ。フォーラントなんて信じやがって……!」


 ジークはそう悪態をつきながらトリニティ教徒たちを迎え撃ち、セラフィーネも魔法で敵を薙ぎ払いながら戦闘を継続。


 死体の山が次々に積み重なり、むごたらしい光景が広がる。


 そして──。


「終わったぞ!」


 ジークがそう宣言したときには、海賊たちは壊滅していた。


「これで連合軍も海賊に悩まされずに済むな」


「ああ。だが、こいつら本当にフォーラントを信じてたのか? 俺にはそのことが信じられねえよ。本当に……」


 ジークはフォーラントがいかに邪悪な存在かを知っている。それゆえに彼女を信仰するなど考えもしなかった。だが、トリニティ教徒たちは間違いなく彼女を崇めているのである。恐ろしいことに。


「邪神には人を狂気に陥らせる力があるということだろう。さあ、アルフレート提督に報告するぞ」


「了解だ」


 ジークたちは海賊を殲滅したということを報告するために、連合軍の砲艦から指揮を執っているアルフレート提督の下に向かった。


「提督。海賊どもは片付いたぞ。これで作戦は完了か?」


「おお。流石だ、勇者ジーク、魔女セラフィーネ。これで海賊たちに悩まされることはなくなるだろう。作戦は大成功だ!」


 アルフレート提督はそう言って大きく笑った。


「では、ヴァッサーフルトに凱旋といこうではないか!」


 それから艦隊はヴァッサーフルトに帰還し始める。



 * * * *



 ヴァッサーフルトでは市民が艦隊を待っていた。


「無事に海賊は討伐されたぞー!」


「おおっ!」


 ヴァッサーフルトには軍関係者の他に漁師や交易船に乗っている船員などがいる。彼らにとっても海賊が討伐されたというのは朗報であった。


「これで安全に航海できるな……!」


「ああ。本当に助かったよ!」


 市民たちは連合軍の勝利に笑顔を浮かべ、船を降りてきた水兵たちに酒や花束を渡す。水兵たちも市民の歓迎に気をよくして拳を突き上げて勝利を祝ったり、市民たちと抱擁を交わしたりしていた。


「うむうむ。連合軍の勝利を市民は歓迎しているようだ」


 アルフレート提督はその様子を見ながら満足げに頷いていた。


「それじゃ、提督。連合軍司令部への口利き頼むぜ」


「ああ。すでに伝令を走らせてある。問題はない」


 ジークがアルフレート提督に求めるのに彼はそう言って返した。


「だが、その前にともに今回の勝利を祝おうではないか。勇者ジークたちと武勲を打ち立てたということを海軍の多くの軍人たちが祝いたがっている」


「オーケー。俺たちもまだ時間に余裕はあるからな」


 そういうことでジークたちが砲艦を降りると、人混みの中からエマがやってきた。


「ジークさん、セラフィーネさん! ご無事ですか?」


「ああ。問題ないぜ。そっちはどうだった?」


「こっちは物資の計算をしていただけですから。けど、カルテンブルクまで十分な物資があることが分かりましたので、いつでも旅立てますよ。馬車も確保してあります」


「おお。ありがとうな」


 エマはバックアップを確実にこなしてくれており、ジークたちは旅の不安が幾分か晴れることになった。まずはカルテンブルクに向かって連合軍司令部に合流しなければならないのだが、それは問題なさそうだ。


「エミール。これから海賊退治を祝うそうだ。お前もきたらどうだ?」


「オ、オレもですか? けど、オレは何もしていませんし……」


「お前はここまで私たちを連れてくるということをしてくれただろう?」


 エマが戸惑うのにセラフィーネはそう言う。


「そうだぜ。俺たちは仲間なんだからいいんだよ」


「じゃあ、参加させてもらいますね」


「おう!」


 それからジークたちはアルフレート提督が準備した酒場に向かった。そこでは海軍士官たちが中心になってジークたちとの勝利を祝う場を準備していた。


「では、まずは今回の勝利に乾杯だ」


「乾杯!」


 ジークたちは赤ワインのマグを掲げて乾杯する。


「今回は伝説の勇者ジークたちとともに戦えたことを光栄に思う。これも神々によるお導きのおかげだ。神々にも深く感謝を」


 アルフレート提督はそう言い、士官たちは祈りを捧げた。


「さあ、堅苦しいのはほどほどにして今日は勝利を祝おう。ただし、各々紳士らしさを忘れないように」


 それからは多くの料理が並び、酒が並び、若い士官などはもりもりと酒と料理を平らげていく。ワインも次々に運ばれてきて、祝いの場は盛り上がる。


「いやあ。勇者ジークの昔話を聞かされて育ったんですが、その勇者ジークとともに戦えるとは思いませんでした!」


 士官たちの中にも勇者ジークの伝説を聞いて育ったものが多くいた。それもそうだろう。勇者ジークの伝説といえば、500年前ながら世界を救った偉業であり、神々が讃えたほどのものなのだから。


「こうして認めてもらえるのは嬉しいね」


 当のジークは控えめな喜び方だった。


「どうかしたのか、ジーク? あまり嬉しくなさそうだが」


「そりゃあな。前も言ったが俺が勇者って言われるようになったのは、邪神フォーラントを倒したからだ。なのに邪神フォーラントはこうして復活している。俺としては手落ちの偉業で褒められているみたいでさ」


 ジークはセラフィーネの言葉に苦笑いしながらワインを飲む。


「だが、お前の存在は周りを鼓舞している。そういうものを勇者と呼ぶのではないか? 少なくとも私はそう思うぞ」


「……ありがとな」


 それから紳士的な祝いの場は一度解散して、まだ飲み足りないものたちは水兵たちに混じって市民との無礼講の祝いの場に向かっていった。


「明日の昼には出発したいな。今日はどんちゃん騒ぎするとしても」


 ジークはそう言ってエマの方を見る。


「じゃあ、準備しておきますね。それから……」


 エマがジークの方を見る。


「オレにとってもジークさんは勇者ですよ。何度も命を救ってもらいましたから」


「……ああ」


 たとえ邪神フォーラントが完全には倒されていなかったとしても、ジークは勇者と呼ばれるに相応しい功績を残している。そこに疑問を抱くものは存在しない。


「じゃあ、今日はへべれけになるまで飲みますか?」


「ああ。混ぜてもらおうぜ!」


 ジークたちは市民と水兵が勝利を祝う場へと向かう。


「おお! 我らが英雄ジーク様だ!」


「勇者ジークに乾杯!」


 水兵と市民はそう言ってジークたちを出迎える。


「本当に勇者ジークなんですよね! いやはや孫にだって自慢できそうです! まあ、まずは結婚して子供を作らないといけないんですけど!」


「ははは。いい嫁さんを見つけろよ」


 陽気な水兵たちと酒を飲み交わすジークたち。


「しかし、トリニティ教徒どもは南下しているってことですけど、俺たちは防げるんでしょうか?」


「……まだ分からん。だが、食い止めなければならんよ。連中は邪神を崇拝している世界にとっての脅威だ」


 これからの戦いのことを不安に思う水兵にジークはそう言い聞かせる。


 トリニティ教徒は彼ら自身の善悪がどうあれど邪神フォーラントの手先になってしまっている。こうなっては倒すしかないのだ。


「安心しろ、お前たち。勇者ジークは神託を帯びている。500年前と同じように神々の加護を得て、その義務を果たすだろう」


「おおっ! 勇者ジーク万歳!」


 セラフィーネが横から不安そうな水兵たちにそう言い、その言葉で水兵たちは安堵したよう声を上げる。


「おいおい。あんまり持ち上げてくれるなよ。神託は受けたけど、まだ神々からは何も貰ってないんだし」


「ふふっ。大丈夫だ。お前ならばやれると私も信じている」


「そうですかい」


 それからジークたちは水兵たちと酒盛りを楽しむと、その日は宿に泊まって明日の出発に備えたのだった。



 * * * *



 そして次の日。


 ジークたちは出発に備えて準備を始めていた。


「ジークさん。馬車の準備ができました!」


「おお。ありがとうな、エミール!」


 エマは後方支援担当として馬車や物資の調達を行い、ジークたちは自分の身の回りの準備をするだけでよかった。大助かりだ。


「それじゃあ、出発するか」


「ああ。カルテンブルクまでは数日で着く」


 ジークとセラフィーネはそれぞれ軍馬に化けたフギンとムニンに乗り、ヴァッサーフルトを出るために城門に向かう。


「ジーク様、セラフィーネ様! ありがとうございました!」


「ご武運を祈ります!」


 ヴァッサーフルトの城門ではジークたちを見送る市民が詰め寄せ、彼らに手を振って盛大にジークたちを送り出した。


「ありがとう!」


 ジークたちもそれに応えて声を上げ、城門から出ていく。


「では、カルテンブルクを目指すぞ。そこで今のトリニティ教徒との戦いの戦況も聞かなければならん。それからネーベルグラートを目指すんだ」


「連合軍と共闘できれば戦いも楽になるだろうしな」


 セラフィーネが旅の目的地を告げ、ジークたちが頷く。


 ヴァッサーフルトからカルテンブルクまでの道のりは連合軍の勢力圏ということもあって、特段危険なものもなかった。何せヴァッサーフルトからカルテンブルクまでの街道は連合軍の兵站線になっているのだ。彼らも厳重に守りを固めている。


「こりゃあ楽な旅になりそうだ」


 ジークたちは山賊やトリニティ教徒に脅かされることなく、街道を進み、このまま無事にカルテンブルクに到着するかのように思われた。


 しかし、そう簡単には物事は進まないものだ。


「今の音は……」


「蹄の音だな」


 不意にジークたちは複数の馬が駆けてくる音を聞いた。それは彼らが進んでいる前方から聞こえてきた。


 それから銃声と悲鳴が聞こえ、ジークたちは身構える。


「前方で何か起きている」


「向かうぞ」


 ジークたちはすぐさまフギンとムニンを走らせて前方に駆けた。


 すると、前方で炎上する馬車とそれを守ろうとする兵士たち、そしてそれを襲撃している30名前後の白装束の集団が見えた。


「トリニティ教徒かよ。ここは連合軍の戦線の後方じゃないのか?」


「浸透した連中だろう。蹴散らすぞ」


「合点!」


 セラフィーネとジークは馬車を襲っているトリニティ教徒に向けて騎乗したまま突撃していく。それに気づいたトリニティ教徒たちがジークたちに向けてクロスボウを構え、射撃してきた。


「喰らわねえよ!」


 ジークは召喚した“月影”の刃で飛んできた矢を叩き落とし、そのままトリニティ教徒へ向けて突撃を続けた。


 そして、激突。


 ジークは騎乗したまま数人のトリニティ教徒を引き裂き、彼らを馬上から叩き落した。さらにセラフィーネが後方から魔法で攻撃し、朽ちた剣が敵を倒す。


「クソ、敵を殲滅せよ! 神のために!」


「神のために!」


 トリニティ教徒たちは下馬して軍馬で駆けて行ったジークにマスケットや槍、クロスボウを構える。


「おっとと。ここでこのまま戦うのは不味いな」


 ジークもフギンとムニンを傷つけまいと下馬して彼らを空に逃がす。軍馬から(カラス)の姿に戻ったフギンとムニンは上空へ飛んでいき戦闘を回避。


「さあて、相手になるぜ、トリニティ教徒ども!」


 ジークはそう宣言し、“月影”の刃を構えた。


「撃て!」


 それに対してトリニティ教徒たちは一斉に攻撃を開始。クロスボウの矢、マスケットの銃弾、それらがジークに向けて飛来する。


「甘い!」


 その全てを斬り落とし、弾き飛ばし、ジークはトリニティ教徒たちに迫る。


「化け物だ!」


「怯むな! 我々は神の戦士たち! 怯えることは許されない!」


 指揮官と思しきトリニティ教徒がそう檄を飛ばし、ジークを迎え撃とうとする。しかし、彼らの敵はジークだけではないのだ。


「こっちを見ていないとは間抜けめ」


 セラフィーネがそう言って朽ちた剣を無数に召喚し、トリニティ教徒の背後から叩き込む。トリニティ教徒たちは朽ちた剣に引き裂かれ、慌ててセラフィーネの方にも兵士たちを向けた。


「神のために戦え!」


「死を恐れるな!」


 そして、後方に浸透したトリニティ教徒たちとの戦いが始まる。


……………………

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