城門突破される
……………………
──城門突破される
ルーネンヴァルト城門への連続攻撃は今も続いている。
「やつらを登らせるな!」
「叩き落せ!」
今度はトリニティ教徒たちは攻城櫓を作り、それによって城壁の突破を目指していた。それを食い止めるためにジークたちは戦いの中にあった。
ジークの“月影”の刃が攻城櫓で攻め込んでくるトリニティ教徒たちを引き裂き、彼らを城壁の下に叩き落す。セラフィーネも朽ちた剣を召喚して叩き込み、攻城櫓を破壊していった。
「敵が撤退していく!」
「クソ。どうせまたすぐに攻撃してくるぞ。今のうちに補給だ!」
セラフィーネが叫び、ジークも叫ぶ。
トリニティ教徒たちは一度撤退を始めたが、彼らはそうやって何度も攻撃を仕掛けているのだ。油断はできない。
ジークたちは攻撃の合間に食事をとり、水分を補給し、他の兵士たちは武器弾薬を補充していく。実験兵器を操る魔法使いたちも、魔力を回復させるために休憩していた。
「見ろよ。全然数が減ってないぜ……」
ジークたちは城門の向こう、かつて港があった入り江に無数のトリニティ教徒たちがいるのを目にしていた。上陸作戦で揚陸されて来たトリニティ教徒たちは、天幕を張り、ルーネンヴァルトを落とそうと陣取っている。
「しかし、あれだけの軍勢を食わせて維持するのは難しいはずだ。長期戦になればこちらが優位になる」
「だといいんだけど……」
ジークは少しばかり考えていた。トリニティ教徒たちが犠牲を恐れない攻撃をしてくるのは、兵士の数を減すためではないのだろうかと。兵士の数が攻撃によって減れば、食わせなければならない兵士の数も減り、長期間戦える。
兵士を使い捨ての駒にするような戦い方だが、トリニティ教徒ならばやりかねない。
「何とも言えんな……」
ジークは次の攻撃の準備を始めているトリニティ教徒たちを見ながらそう呟く。
* * * *
トリニティ教徒の陣地では司令官のルキウスが兵士たちの様子を見ていた。
「死者が増えたな」
「ええ。予定通りかと」
ルキウスはトリニティ教徒の死体が安置されている天幕を副司令官のヴェロニカと覗いた。そこにはすでに腐臭を放っているトリニティ教徒たちの死体が山のように積み重ねられている。
「そろそろ城門を突破しなければならないだろう。艦砲射撃による揺さぶりは、あまり有効ではないと分かったことだしな」
ルーネンヴァルト市街地の砲撃を目指した艦砲射撃は効果が見られなかった。そもそも艦砲射撃で砲撃できるエリアは限られており、そこから住民が避難してしまうと、無意味な砲撃になっていたからだ。
「次の攻撃で城門の突破を図る。私が力を振るおうではないか」
「私も前線に出て、剣を振るいましょう」
「それでこそだ」
ルキウスたちがそう話し合っている中で、トリニティ教徒たちによる攻撃は連続して実行され、ルーネンヴァルト側はまだ辛うじて城門を守り抜いているものの、守備隊には疲労の色が見え始めていた。
「神のために!」
しかし、トリニティ教徒の方は依然として士気が高く、果敢に攻撃を繰り広げてくる。輸送船を解体して破城槌や攻城櫓といった攻城兵器を次々に造り、それで攻撃を仕掛けてきた。
ルーネンヴァルトの城門の前には無数のトリニティ教徒たちの死体が転がり、破壊された攻城兵器が燃えている。
そして、またトリニティ教徒たちの攻撃が退けられ、無数のトリニティ教徒たちがその屍をルーネンヴァルトの城門前に晒したときだ。
「異端者たちに告ぐ!」
ルキウスが城門の前にヴェロニカとともに姿を見せた。
「神の名において降伏せよ! 今すぐに降伏すれば人道的な扱いを約束しよう! しかし、降伏しなければルーネンヴァルトは地獄を見るであろう!」
ルキウスは城門を守るジークたちに向けてそう言い放つ。
「繰り返す、降伏せよ! 白旗を掲げ、城門を開けば民を皆殺しにはしない!」
もちろん、ルキウスの言っていることは嘘っぱちだ。トリニティ教徒が異端者に情けをかけるようなことはしない。
「ルーネンヴァルトから出ていけ、この野郎!」
「失せろ、カルト!」
守備隊もそれを理解しているのか、ルキウスの言葉に罵詈雑言を浴びせた。
「ふん。後悔することになるぞ」
ルキウスは不気味にそう言い残し、ヴェロニカとともに下がった。
トリニティ教徒による恐るべき攻撃が始まったのはこのあとのことであった。
* * * *
ルキウスが去ってからしばらくが経ったとき。
ジークたち守備隊の兵士たちは次の攻撃に備えて、城壁の上で身構えていた。
「今度はそれなりに時間が空いてるな……」
いつもならば先の攻撃が失敗した数時間後には次の攻撃が叩きつけられているはずなのに、もうかなりの時間が過ぎている。おかげで城壁では疲労を思い出してうとうとしている兵士などがいた。
「連中は夜襲も選択肢に入れていたとおもったのだが」
セラフィーネがジークの隣でそういう。
今はすっかり夜が更けた時間帯だ。それでもトリニティ教徒は昼夜を問わず攻撃をしかけてきており、夜の闇を理由に攻撃を止めるようなことはなかった。
だが、今日はまだ攻撃が行われていない。
嵐の前の静けさのように静まり返ったルーネンヴァルトの城門では篝火が炊かれ、兵士たちは暗闇の向こうにあるトリニティ教徒たちの陣を見ていた。
「今日は相手ももうお休みかね?」
「それはないだろう」
ジークが呟くのにセラフィーネが首を横に振る。
そのときだ。闇の向こうから攻城櫓が再びルーネンヴァルトの城門に向けて迫ってきた。すぐさま城門では警報のラッパが鳴らされ、兵士たちが警戒態勢に入る。
「来たぞ、来たぞ。お客さんだ!」
「待て。様子がおかしい」
ジークは睡眠不足がもたらすハイテンションで“月影”の刃を構えるが、セラフィーネが迫るトリニティ教徒から異常を検知した。
「ジーク。よく見ろ。あれはどう見ても死人だ」
「……クソ、マジかよ……」
迫るトリニティ教徒たちの姿には首がないものや腸をこぼしているものがおり、それは明らかに生きている人間ではなかった。
「つまりあれはゾンビか? ロタールやパスカルが生み出したような?」
「可能性としては。これは厄介だぞ……」
「ああ。不味いかもしれん……!」
迫るトリニティ教徒のゾンビたちを前にセラフィーネとジークがそう言葉を交わす。
「全員、気を付けろ! 相手はゾンビだ!」
ジークは城門の守備隊にそう警告。
「何だって!?」
「き、気を付けるってどうすればいいんだ?」
城門の守備隊に動揺が走る中、魔法使いによる攻城櫓への攻撃が始まった。
攻城櫓に向けて炎が放たれ、炎がそれを焼くが、それでも攻城櫓が前進してくる。トリニティ教徒のゾンビたちも黙々と城門に向けて前進してきた。
「取りつかれるぞ!」
そして攻城櫓や梯子を使ってトリニティ教徒が、そのゾンビが城門によじ登ってくる。ジークたちはそのゾンビたちとの戦闘に突入しようと──。
「あっ!」
そこでジークたちに斬撃が叩き込まれた。刃の見えない斬撃。そう、ヴェロニカの空間切断だ。空間切断はルーネンヴァルトの城門上部にいた人間たちと、城門そのものを切断し、城門が僅かに崩れかかる。
「クソ、クソ! 滅茶苦茶やりやがって……!」
ジークは切断された下半身を取り戻して接合し、城門の上から被害状況を見る。城門の上にいた守備隊はジークとセラフィーネ以外はほぼ壊滅。城門も破損していた。
「セラフィーネ、しっかりしろ! 敵が来るが、このままじゃ抑えられん!」
「そのようだな……! やってくれるものだ!」
守備隊が一瞬でほぼ壊滅した城門にトリニティ教徒のゾンビが押し寄せる。
「可能な限り時間を稼ぐぞ……! こうなれば城門の内側の予備陣地で戦うしかないからな! そこの守りが固められるまでは俺たちが時間を稼ぐ!」
「了解した。やってやろう!」
ジークたちは少数の守備部隊で城門の内側に設けられた予備陣地が守りを固めるまでの時間を稼ぐことに。
「アアアアァァァァ──ッ!」
トリニティ教徒のゾンビは呻き声をあげながらジークたちに襲い掛かる。死を恐れないトリニティ教徒が、死なないゾンビになったことは非常に厄介であった。
「おら! 落ちやがれ!」
ジークは“月影”の刃を振るってゾンビたちを城門の下に落とし、必死にゾンビたちの猛攻を食い止めようとする。
「まとめて叩く!」
セラフィーネも上空に無数の朽ちた剣を浮かべ、それを雨のように降らせることで炎上する攻城櫓を破壊し、さらには梯子から城門を登ろうとするゾンビたちを撃破する。
しかし、いくらジークたちが頑張っても多勢に無勢。ゾンビ化したトリニティ教徒たちの攻撃を完全には阻止できない。
さらに時間帯が夜であったことも混乱に拍車をかけていた。指揮官たちは状況が把握できず、どう兵力を動かすべきか分からずにいたのだ。
「予備陣地だ! 後方の予備陣地に撤退して状況を伝えろ!」
ジークはひたすらにそう叫び、その命令を受けた守備隊の兵士たちは急いで後方の予備陣地へと急ぐ。
その間にも城門はゾンビたちに占領され始めており、もはや陥落寸前だ。
急いで予備陣地に人が集まり守りを固め始めるが、ついに城門ではジークもセラフィーネもゾンビの波に飲み込まれ城門は陥落した。
「城門が陥落した! 陥落しちまったぞ!」
「城門が開けられちまう……!」
城門を制圧したゾンビたちは内側から城門を開き、無数のゾンビたちをルーネンヴァルトの中へと招き入れた。ゾンビたちは盾や槍で武装し、予備陣地で身構える守備隊に向けて迫ってくる。
「オオオオオオォォォォォォ──ッ!」
そして、トリニティ教徒のゾンビたちはおぞましい声を上げて、一斉に予備陣地にいる守備隊に襲い掛かった。
予備陣地には半円状に簡易のバリケードが設けられているだけであり、そこを突破されたらいよいよルーネンヴァルトの市街地での戦闘となってしまう。
「やつらを絶対に通すな! 構え!」
予備陣地にかき集められた火砲や銃火器をもってして、一斉に射撃が行われる。ゾンビたちの構える盾などは簡単に貫通され、火砲によるぶどう弾の射撃はゾンビたちをひき肉に変えた。
しかし、ゾンビの数はあまりにも多く、火砲の数はあまりにも少ない。
ゾンビたちは次々に予備陣地に押し寄せ、予備陣地の突破を試みる。
「攻撃が効かない!」
「怯むな! 攻撃し続けろ!」
クロスボウによる攻撃や槍による攻撃は本来人間には有効なのだが、ゾンビたちにとっては多少のダメージはないものとして扱われるために効果が薄い。
やはりゾンビを倒すには彼らをひき肉にするしかなく、火砲の砲撃が必要だった。
「弾薬が残りわずかです……!」
しかし、火砲はその数も少なければ弾薬の残存量も少なかった。もう少しで火砲は使えなくなってしまう。
「突破を許すな! せめて他の場所での避難と防衛準備が完了するまでは……!」
傭兵の指揮官がそう言う中で、城壁の向こうからさらなるトリニティ教徒たちが押し寄せつつあった。
* * * *
城壁が完全に突破されたとき、ジークたちは酷いダメージを負っていた。
ゾンビたちによって体を引きちぎられ、ばらばらにされていたジークとセラフィーネが復活したのは、城門が突破されて予備陣地での戦闘が始まったときだ。
「ああ。畜生。ついに突破されちまった!」
「まだ挽回する手はある」
ジークが予備陣地での戦闘が始まっているのを見て呻くのにセラフィーネがそう言った。彼女は予備陣地の方ではなく、トリニティ教徒の陣地の方を見ている。
「おい。まさか……」
「そうだ。カルトをゾンビ化させている術者を叩く。ゾンビどもはいくら蹴散らしても無意味だ。ここは確実に問題の根元を叩くべきだ」
そう、セラフィーネの狙いはゾンビを生み出している人間だ。
「……オーケー。やってやろうぜ。だが、どうやって術者を探し出す?」
「キャンプに突っ込み、手当たり次第に殺す。他に方法はない」
「蛮族みたいな戦い方だが……嫌いじゃないぜ、そういうの」
セラフィーネの荒っぽい作戦にジークはにやり。
「ふふ。では、やるとするか。幸いにして敵は攻撃が完全に成功し、私たちを追い込んでいると思っている。それが間違いであるということを思い知らせてやる」
「ああ!」
セラフィーネとジークは城門から飛び降りると、真っすぐにトリニティ教徒たちのキャンプを目指して駆けた。
セラフィーネが言ったように敵の目は攻め込む方に向けられており、ジークたちがキャンプに迫るのには気づいていない。戦力は城門を目指して進んでおり、まだ暗闇の中にあるルーネンヴァルト城門前でジークたちが動くのに気づくものはいない。
「いけそうだ。それも前の夜襲より楽に」
「敵は勝ったと思っているだろうからな」
城門の突破を見て勝利を確信しているトリニティ教徒側はここでまさかジークたちが攻撃に出るとは思っても見ていない。
「キャンプまでもう少しだ」
「わずかだが警備の戦力がいる。突破するぞ」
ジークが篝火の炊かれたキャンプを視認してそう言うのに、セラフィーネは朽ちた剣を投射して警備の兵士を片付ける。
今回は敵が攻撃に気づくまでかなりの時間を要した。
トリニティ教徒たちはジークたちはキャンプに潜入したことに気づいていない。
「なあ、あれは本当に神様の力なんだろうか……?」
「お前、使徒様のお力を疑うのかよ? あれはまさしく神様の力だ」
「だけど、なんだかおぞましくないか? 死人が動き回るなんて……」
「それは、まあ……」
トリニティ教徒たちはジークたちに気づかず、そんな会話をしている。トリニティ教徒にしてもあのゾンビの群れは異形のものとして映っていたようである。
「だけど、使徒様を疑うのは重罪だ。だから、俺以外にそう言う話は──」
トリニティ教徒のひとりが使徒の力を疑うもうひとりに注意しようとしたとき。
ジークの“月影”の刃とセラフィーネの朽ちた剣が彼らの喉を引き裂いた。
「……こいつらも疑問には思っていたんだな」
「それはそうだろう。どこの神が死者をあのように扱うことをよしとするというのだ」
「だよな」
先ほどの会話を聞いていたジークが呟くのにセラフィーネが朽ちた剣に帯びた血を払ってそういう。
「さあ、ルーネンヴァルトが陥落する前にゾンビを生み出している術者を殺すぞ」
「了解だ」
ジークとセラフィーネは引き続き、大量のゾンビを生み出し、ルーネンヴァルトに攻め込ませている術者を探してトリニティ教徒のキャンプ内を捜索した。
……………………




