26 あっ、そっかぁ……
(3)
パク・ソユンと、花園静華のふたりは、まだ歩いていた
いつまで歩いているのかという話であるが、まあ、ダムの監査廊だったり内部というのが、総延長があるのかもしれない
「花と、結晶華ねぇ……」
と、花園静華は天井を仰いで、考えるように言ってみた。
自身が、その結晶華を製作するアーティスなのだが、改めて言葉にしてみた。
「花……、美しく咲くも、儚く枯れるという、ある意味で人生の無常の象徴……」
「ぽよ」
「対して、結晶っていうのは、ダイヤモンドみたいに、永遠に美しくあり続ける象徴――、ってとこかしら?」
「雪の結晶は、すぐ溶けちゃうぽよー」
「あっ、そっかぁ……」
と、煽るパク・ソユンの言葉に、花園静華は「うっかりしちゃったわ♪」の顔をする。
その花園静華に、今度はパク・ソユンが、
「まあ、何って言うんだろうね? その、花と結晶華っていうのをメタファー的に考えると、さ?」
「メタ、ファー?」
「ぽよ。たぶん、今の、このまま、身も心も最高に美しい状態で死にたい――、裏を返せば、この汚い世界の中で歳を取って老いることへの、漠然とした不安だったり、恐怖が、あるんじゃないの? まあ、知らないけど」
「そう、ねぇ……?」
と、花園静華は相槌しつつ、
「まあ、アナタも、モデルという、美の最前線ともいえる世界に身を置く人間ですよね。ゆえに、『美しくあること』によって、あらゆる恩恵だったり、“仮初めの幸運”というのを手にする者も多く見ている――」
「ぽよ」
「……」
と、パク・ソユンの『ぽよ』の相槌に、花園静華は無言でニコリとしながら耐えつつ、続きを聞く。
「まあ、何だろうねー? いわゆる、ルッキズムだっけ? その、ルッキズムに囚われる人ってのが、だんだん増えている実感はあるかな? まあ、美容医療、アンチエイジングの進歩だったりってのもあるんだろうけど、さ」
「そうね」
「ただ、同時に、さ? もしかすると、“老いて自分が美しく無くなった時”に、あらゆるものを失うんじゃないか――、っていう、強迫観念みたいなものも、あるんじゃないのかな? 知らないけど」
「……」
花園静華は、沈黙を挟みながら、
「ちなみに……?」
「ぽよ」
「ソユンは? 将来、老いていくことに、不安はないの?」
「ぽよ」
「いや、ぽよって……」
と聞くも、相変わらずぽよぽよ答えるパク・ソユンに、ガクッ――となりながら、
「まあ、“そんな答え方”する方なんて、初めてで……、ある意味、面白いんだけどけどね」
「はぁ、」
と、パク・ソユンは曖昧しながらも、
「まあ、別に、老いがどうとか、特に興味はないんだけど……、まあ、モデルって仕事しといて、アレだけど」
「ふ~ん」
「そうね? まあ、せいぜい、酒でも飲んで、適当に不摂生して……、ポックリ逝けばいいかな、と思っているけど」
「あら、お酒は絶対やめたんじゃないの?」
「ぽよ」
「……」
と、また『ぽよ』で、歯切れ悪くも会話は途切れる。
まあ、それにも、花園静華は慣れてきながら、
「まあ、でも……、そのうちに、技術で、老化が進行しないように、できるようにはなるんだけどね」
「ん? それって、アンタ、とか? その、半生サイボーグっての? トランスヒューマニズムって、ヤツだったっけ?」
「ええ……、まあ、そういうこと……。シンギュラリティに向けて実現する技術にによって、今の美しさを保ったまま……、恐らくは、100年も200年も、生きることが可能になるわ」
「うん。それって、美味しいの? 美味しくないの?」
「美味しいって……、困る返事する方ね、アナタは、」
と、思わぬ答えを返してくるパク・ソユンに、花園静華は困惑しつつ呆れ、
「ぽよ」
「……」
と、さらには『ぽよ』の追撃で、また沈黙してしまう。
そんな風にしながらも、再び、パク・ソユンのほうから聞く。
「――で? その理由で、さ? アンタは、女の子たちに花と結晶華を添えて、作品にしてきた――、ってわけ?」
「あん♪ もう、アンタじゃなくて、そろそろ、静華って呼んよぅ♪」
「うん。だから、絶対やだぽよ」
と、パク・ソユンは拒否りつつ、
「でも、さ? いっぽうでは、結晶華を添えて作品になって死ぬことを勧めながら、いっぽうでは、トランスヒューマニズム――? によって、永遠に老化せず生きることを勧める――」
「……」
「何か、さ? 逆じゃない? その、ベクトルだっけ――? が?」
「あっ、そっかぁ……」
「そっかぁ、じゃなくて」
と、二回目の“すっとぼけ”に、パク・ソユンは半ばつっこみながら、
「フフ……♪ まあ、「そっかぁ」ていうのは、半分冗談よ」
「は? 冗談なの? 冗談はよすぽよ」
「フフ♪ ごめん遊ばせ♪」
と、花園静華は、イタズラっぽく笑う。




