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07 【冷たい結晶華】  作者: 非常口どん八
第五章 冷たい結晶華

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26 あっ、そっかぁ……



          (3)



 パク・ソユンと、花園静華のふたりは、まだ歩いていた

 いつまで歩いているのかという話であるが、まあ、ダムの監査廊だったり内部というのが、総延長があるのかもしれない

「花と、結晶華ねぇ……」

 と、花園静華は天井を仰いで、考えるように言ってみた。

 自身が、その結晶華を製作するアーティスなのだが、改めて言葉にしてみた。

「花……、美しく咲くも、儚く枯れるという、ある意味で人生の無常の象徴……」

「ぽよ」

「対して、結晶っていうのは、ダイヤモンドみたいに、永遠に美しくあり続ける象徴――、ってとこかしら?」

「雪の結晶は、すぐ溶けちゃうぽよー」

「あっ、そっかぁ……」

 と、煽るパク・ソユンの言葉に、花園静華は「うっかりしちゃったわ♪」の顔をする。

 その花園静華に、今度はパク・ソユンが、

「まあ、何って言うんだろうね? その、花と結晶華っていうのをメタファー的に考えると、さ?」

「メタ、ファー?」

「ぽよ。たぶん、今の、このまま、身も心も最高に美しい状態で死にたい――、裏を返せば、この汚い世界の中で歳を取って老いることへの、漠然とした不安だったり、恐怖が、あるんじゃないの? まあ、知らないけど」

「そう、ねぇ……?」

 と、花園静華は相槌しつつ、

「まあ、アナタも、モデルという、美の最前線ともいえる世界に身を置く人間ですよね。ゆえに、『美しくあること』によって、あらゆる恩恵だったり、“仮初めの幸運”というのを手にする者も多く見ている――」

「ぽよ」

「……」

 と、パク・ソユンの『ぽよ』の相槌に、花園静華は無言でニコリとしながら耐えつつ、続きを聞く。

「まあ、何だろうねー? いわゆる、ルッキズムだっけ? その、ルッキズムに囚われる人ってのが、だんだん増えている実感はあるかな? まあ、美容医療、アンチエイジングの進歩だったりってのもあるんだろうけど、さ」

「そうね」

「ただ、同時に、さ? もしかすると、“老いて自分が美しく無くなった時”に、あらゆるものを失うんじゃないか――、っていう、強迫観念みたいなものも、あるんじゃないのかな? 知らないけど」

「……」

 花園静華は、沈黙を挟みながら、

「ちなみに……?」

「ぽよ」

「ソユンは? 将来、老いていくことに、不安はないの?」

「ぽよ」

「いや、ぽよって……」

 と聞くも、相変わらずぽよぽよ答えるパク・ソユンに、ガクッ――となりながら、

「まあ、“そんな答え方”する方なんて、初めてで……、ある意味、面白いんだけどけどね」

「はぁ、」

 と、パク・ソユンは曖昧しながらも、

「まあ、別に、老いがどうとか、特に興味はないんだけど……、まあ、モデルって仕事しといて、アレだけど」

「ふ~ん」

「そうね? まあ、せいぜい、酒でも飲んで、適当に不摂生して……、ポックリ逝けばいいかな、と思っているけど」

「あら、お酒は絶対やめたんじゃないの?」

「ぽよ」

「……」

 と、また『ぽよ』で、歯切れ悪くも会話は途切れる。

 まあ、それにも、花園静華は慣れてきながら、

「まあ、でも……、そのうちに、技術で、老化が進行しないように、できるようにはなるんだけどね」

「ん? それって、アンタ、とか? その、半生サイボーグっての? トランスヒューマニズムって、ヤツだったっけ?」

「ええ……、まあ、そういうこと……。シンギュラリティに向けて実現する技術にによって、今の美しさを保ったまま……、恐らくは、100年も200年も、生きることが可能になるわ」

「うん。それって、美味しいの? 美味しくないの?」

「美味しいって……、困る返事する方ね、アナタは、」

 と、思わぬ答えを返してくるパク・ソユンに、花園静華は困惑しつつ呆れ、

「ぽよ」

「……」

 と、さらには『ぽよ』の追撃で、また沈黙してしまう。

 そんな風にしながらも、再び、パク・ソユンのほうから聞く。

「――で? その理由で、さ? アンタは、女の子たちに花と結晶華を添えて、作品にしてきた――、ってわけ?」

「あん♪ もう、アンタじゃなくて、そろそろ、静華って呼んよぅ♪」

「うん。だから、絶対やだぽよ」

 と、パク・ソユンは拒否りつつ、

「でも、さ? いっぽうでは、結晶華を添えて作品になって死ぬことを勧めながら、いっぽうでは、トランスヒューマニズム――? によって、永遠に老化せず生きることを勧める――」

「……」

「何か、さ? 逆じゃない? その、ベクトルだっけ――? が?」

「あっ、そっかぁ……」

「そっかぁ、じゃなくて」

 と、二回目の“すっとぼけ”に、パク・ソユンは半ばつっこみながら、 

「フフ……♪ まあ、「そっかぁ」ていうのは、半分冗談よ」

「は? 冗談なの? 冗談はよすぽよ」

「フフ♪ ごめん遊ばせ♪」

 と、花園静華は、イタズラっぽく笑う。

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