25 『こいつ、いつも血ぃ吐いてんな』の状態が半ばデフォルト
――ギ、ギ、ギィ……!
と、部屋のドアが開くとともに、
――シュ、シュ、シュ、シュ……!!
と、今度はムカデ人間状に連なった、“ヒトだったと思しきモノ”が列車状に連なったモノが、まるで遊園地のようにして入って来た。
なお、その衣装などから、おそらくはこのⅩパラダイスに招待された人間だと分かる。
「ひ、ひぃぃッ!?」
ドン・ヨンファは、ますます恐怖し、声を上げる。
またそのとき、タイミングを同じとして、
「……ん、……あん?」
と、パク・ソユンが、むっくりと起き上がった。
その目は、昔の日本のテレビ番組の某黄緑色の輩やからのように、半分開いた寝坊助ねぼすけアイであったが。
続けざま、
「う、うわぁ”ぁ”ん!!!!! そ、そ、そッ、ソユンーーッ!!!!!」
と、顎が外れかねない勢いで、恐怖に叫ぶドン・ヨンファが、ガバァッ! とパク・ソユンに抱きついてきた。
また同時に、
――ジョビ、ジョバー!!
っと、ドン・ヨンファの下半身のほうから、液体がドバーッ! と流れだした。
「ん? アンタ? 漏らした? ちょっと、離れてくれない?」
「いッ、いやいやいや!? それどころじゃないって!!! ソユン!!!」
「は? 大きい方、漏らしたわけ? ウンコを?」
「ち、ちち、違うって!! いや、あっちを見なよ!!」
と、のほほんとして汚いものを見る顔で話すパク・ソユンに、ドン・ヨンファが必死で訴え、指をさす。
ーーー
※『トランス島奇譚』より
まあ、それはさておき、
『まあ、そんなどうでもよいことは置いて、だ――』
「ああ”? てめぇがやったんだろうが、ったく」
と、苛立つキム・テヤンをスルーして、
『しかし、罠らしい罠というのが、まったく無いのだ』
と、妖狐が言った。
「あん? 本当かよ?」
キム・テヤンは怪訝な顔をしながらも、
「まあ……? でも……、確かに、そうだな」
と、少し振り返ってみるに、確かに、罠を警戒して進んできたにも関わらず、これまでに何も無かったことを思い出す。
また、妖狐が続けて、
『さらに言えば、だ――、ソユンのヤツの位置情報も、動いておる』
「う、ん――?」
『これは、つまり……、さらわれはしたものの、ソユンのヤツは特に拘束されているわけでも無いということではないか?』
「ああ”? 何だ? あいつを拘束してなくて大丈夫なのか? その、フロリストってヤツは」
と、キム・テヤンは顔をしかめ、逆に疑問が浮かぶ。
それなりの――、いや、むしろグループ内では一番の戦闘力と耐久性を持つパク・ソユンのことである。
もし、そのように何も拘束されていない自由な状態であれば、フロリストはどこかで隙をつかれ、逃げられたり、あるいは戦闘に持ち込まれて返り討ちにされてしまわないのか――?
あるいは、“そうなっても”問題がないから、特に拘束もしてないわけか?
それと、『何も罠を仕掛けてない』ということは、もし、自分たちSPY探偵団の三人がパク・ソユンを助けに来たとしても、問題なく対処できるということだろうか?
まあ、単純に、このダムに来たのが行き当たりばったりであり、そのような準備をするのが間に合わなかった可能性もあるが……
そのように思考しつつ、
「おい、ヨンファ――!」
と、キム・テヤンは“葛葉”を通じた無線で、別働体で動いているドン・ヨンファに話しかける。
少し間をおいて、
『なっ、何だい?』
と、ドン・ヨンファの声が返ってくると、
「ああ”? 『何だい?』じゃねぇってんだよ! タコ!」
『えぇっ――!? じゃあ、どうやって答えれば!?』
と、怒鳴るキム・テヤンに、ドン・ヨンファが動揺の声を上げる。
まあ、八つ当たりというか、理不尽であるから当然だが。
それは置いておいき、
「――で? お前たちのほうは、どうなんだ?」
と、本題を聞く。
『あ、ああ……。問題なく進んでいるよ。途中、結晶華が置かれているけど……』
「ああ”? 結晶華、だぁ?」
と、ドン・ヨンファの『結晶華』の言葉に反応する。
まさに、今回の事件の中心ともいえるワードである。
美しい女性を、フラワーアレンジメントとともに飾る、結晶華――
それが、無骨なコンクリートの回廊に置かれているのか、飾られているという。
『何のために、あるんだろうね? まあ、いちおう、警戒はしているけど……』
「ああ”? たぶん、ただの飾りじゃねぇのか?」
と、疑問を口にするドン・ヨンファに、キム・テヤンは適当に答える。
『ただの、飾りだって?』
ドン・ヨンファは、「え?」と言いたげな顔しながらも、
『まあ、でも確かに、だいたい十メートルおきに置かれてあるし……、まるで、日本の活け花の、一輪挿しの展示のようにも見えるね』
と、結晶華の置かれている様子を確認した。
確かに、それらは罠というよりも、訪問者を愉しませるようにも見える。
「けっ……、何が活け花だってんだ。まあいい……、ちょっと、ロウンに代わってくれよ」
『ああ、分かったよ』
とここで、無線の相手をカン・ロウンに代わってもらう。
『代わったぞ、テヤン。そっちは、どうなんだ?』
「ああ”? どうもこうも、ねぇってんだよ。まったく、タヌキのヤツがふざけやがってよ」
『タヌ、神楽坂さんが?』
「まあ、そのことは、もういい……。とりあえず、俺のほうも問題なく進んでいるし、ソユンのヤツの場所も、このドラえもん野郎が捕捉している」
と、キムテヤンがカンロウンに答える。
タヌキだの、ドラえもん野郎だの呼ばれたりと、決してキツネと呼ばれることはなく。
話を再開して、
『そう、か……』
「で、よぅ? その、ソユンのヤツなんだが、拘束されてるってわけじゃなさそうな話でよぅ」
『うん?』
「何か、フロリストってのと一緒に、よ? このダムの中を歩き回って、たぶん、散歩でもしてんじゃねぇかって」
『散歩だと? すると? フロリストは、手紙によこしたとおり、本当に、デートのつもりで、ソユンをさらったわけか?』
「まあ、まだわからんけどな……」
と、キム・テヤンは曖昧に答えつつ、
「それに、ソユンのヤツのことだ。もしかすると、いつものように、血ぃ吐いて、何らかの怪我をしているかもしれないしな」
『ああ、それは、あり得なくも無いか』
と、話す。
今までの事件を思い出すに、戦闘力とともに耐久力も異常に高いゆえ、敵の攻撃――フッ酸を飲ませれたり、身体を“裏返して変形させる”力によって、肋骨をやられたりなどによって、大きなダメージを負うこともある。
そして、そんなダメージを負うものだから、血を吐くことも当然であり、以って『こいつ、いつも血ぃ吐いてんな』の状態が半ばデフォルトになっているという。
それはさておき、
「しかし……、そうすると……? ソユンがフロリストのヤツとデートしているとすると、その先は、どうなるのか?」
と、キム・テヤンが疑問を投げかけた。
『そうだな……? もし、フロリストの被害者ってのが、フロリストの誘惑に堕ちた末に、作品になることを自ら望む――、という仮説だとすると、デートしているうちに、ソユンがフロリストに魅了されてしまい……』
「……」
と、仮の話をするカン・ロウンに、キム・テヤンが耳を傾けて、
『その結果、“死と引き換えに作品にしてほしい”――と、懇願することになるの、か……?』
「は、ぁ……? まさか、あいつが?」
と、ポカンとしつつ、「そんなことあるか?」と云わんかの顔をした。
『まあ、私も、ソユンがそんなことを希望する可能性なんて、一ミリも思わないが。キレ・キャラではあるものの、そういう風に心が動じる様子など、想像もできないしな』
「……」
と、仮の話をした張本人の、カン・ロウンが言った。
そう話しつつ、
「まあいい……、とにかく、行ってみないと分からねぇから、急ぐぞ」
『ああ』




